第106話 いつの間にか群雄割拠状態
僕とバーニィとリーナが魔力を注いでいた光輝竜の卵が孵った。
僕のドラゴンは黒くて翼があって空を飛べる竜だった。名前は立派な翼があるので空のイメージでソラたん。目の色が赤いのでルビーアイたんなんて名前も考えたけど、長くて呼びにくいし中二病臭いのでやめておいた。
バーニィのドラゴンは赤茶色い地竜の様な陸上歩行型の竜だった。なんでも生前の病院の窓から見える夕焼けに染まる富士山っぽい色だと思ったらしくフジたんという名前にしたそうだ。
そういえばリナが刺された日に運ばれ、僕や両親が最後を迎える事になった病院も屋上から富士山が見えたっけな。夕焼けに染まる富士山なんて見た事は無かったけどな。
リーナのドラゴンは体が細長い体をしている水生型の竜だった。浴槽に水を張って入れてみた所、スイスイ泳いだためスイたんと名づけたらしい。
「空と陸と海なんて昔の合体ヒーローロボみたいなラインナップだね」
「○プロスと○セイドン・・・あれ?陸の奴は何だっけ?」
「○デムよ・・・それにあれは合体しないでしょ?」
「コスモバ○カン、バ○シャーク、バ○パンサーだったら合体するよ」
「おぉ・・・懐かしい・・・」
「兄貴もバーニィも話題が古いのよっ! どっちもあなた達が産まれる前の番組でしょっ!」
「有料動画サイトで見たよ」
「中学校の時、深夜に再放送してたよ? というか何でリーナは知ってるの?」
「もういいわ・・・」
なんかリーナが疲れた顔をしていた。
ソラたんは肉が好物で、フジたんは果物が好物で、スイたんは魚が好物だった。最初はソラたんに肉をミンチにしてあげようと思ったけれど、スイたんと同じ様に固形物を丸呑みして体内でゆっくりと消化するらしく、気にせずあげれば良いようだった。
それに対してフジたんは果物や根菜を咀嚼しながら食べるので、食事時間がゆっくりだ。
同じ光輝竜の卵なのにこんなに生態の違う竜が生まれるのは何故だろう、不思議だ。
「光輝竜が、別の種類の複数の竜と交尾していた可能性もあるけど、竜は卵の時に母親から受ける魔力で生態が変わるというのが正解だろうね」
「バーニィは「山」の加護による魔力、リーナは「海」の加護による魔力っていうのは分かるけど、ソラたんは何で真っ黒なんだろう」
「アニーの「空」の加護って、地上から見た空じゃなく、宇宙空間という意味かもしれないよ?」
「宇宙?」
「宇宙は星が無ければ真っ暗らしいからね」
「なるほど・・・」
という事はソラたんは将来宇宙怪獣のようになってしまうのだろうか。首が3つも生えて来たら挨拶も3倍になって面倒そうだ。
△△△
「ヤハイエ聖国は、ユキたんは聖獣の雪豹では無いと声明を出したみたいだね」
「ふーん・・・」
ヤハイエ聖国とはどういう国かをバーニィから聞いていた。聖人の顔をしてかなりあくどい事をしている国なんだそうだ。ベヘム村の教会や、エルムの街の教会にいたヤハー教の人達は優しそうだったのでヤハイエ聖国の正体というのはとても意外だった。
バーニィはヤハイエ聖国が僕達に口封じの暗殺者を派遣したりしないよう、秘密を秘密で無くしてしまうよう裏で暗躍していたらしい。
「ちなみにリンガ帝国はユキたんは雪豹だと声明を出して、ヤハイエ聖国の初代教皇の残虐性についての劇場での催しや、街中の人形劇を使って周知しはじめたよ」
「宗教対立って面倒そう」
リンガ帝国は元々ヤハー教を追放していてヤハイエ聖国とは対立しているらしい。前世では宗教対立から来ると言われている紛争が世界中で起きていた。エメロン王国はリンガ帝国とヤハイエ聖国に挟まれた位置にある。面倒な事にならなければ良いのだけれど・・・。
「エメロン王国では何の反応も無し?」
「ううん、ヤハイエ聖国を擁護する聖教派閥ともう国王派閥から分かれた北部派閥がやり合ってるよ」
「ちょっと待って、北部派閥って何?」
「エメロン王国の国王が実は貴族派寄りの思想を持っている事が公になって来たので、国王派閥が、国王の意向とは距離を置こうと考えるエメール公爵家を中心とした派閥と、国王の意向に沿うべしと考える貴族を中立派だったキャンサー侯爵家が吸収した派閥に分かれたんだよ。今は前者が北部派閥で、後者が王国派閥って呼ばれてるんだ」
「なるほど・・・それでナザーラ家はどこの派閥なの?」
「北部派閥だよ」
「そうなんだ・・・」
北部派閥っていうぐらいだし、北部に領地を持つ貴族やその配下の貴族達が多いんだろうな。
「現在、北部派閥は大衆派閥とキャンサー侯爵の意向に沿わない中立派の貴族と合流する予定だったけど、大衆派閥や中立派閥には聖教派閥と近い人が要るから今回の北部派閥と聖教派閥の対立で調整が大変みたいだね」
「そうなんだ・・・」
派閥の調整とか面倒そうだな。意見が合わなければ合流しなければ良いだけなんじゃないの?
「他人事みたいだけどアニーも当事者だからね?」
「えっ?何で?」
「ヤハー教を愚弄した背教者の婚約者だからね。聖教派閥が僕達を、ヤハウエ聖国に送って背教者として火炙りにせよって言い出しているんだよ。そうなると次期ナザーラ男爵が空位になるから、オルクダンジョンの権益を狙ってる貴族派閥や王国派閥がそれを黙認してるんだよ」
「何それ・・・」
「王国派閥と貴族派閥と聖教派閥が組んだら北部派閥だけでは対抗するのが難しいからね。だから北部派閥は貴族派閥が勢力を増すのを望まない大衆派閥や溢れた中立派閥の貴族と合流して対抗したいんだよ」
「・・・」
なんかいつの間にかエメロン王国は大変な事になっていた。僕のイメージだと国王派閥と貴族派閥と大衆派閥の三国志状態で釣り合ってるイメージだったのに、いつの間にか群雄割拠状態になっていて、有力者達が多数派工作に邁進している感じになっていたのだ。
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