第105話 良い名前をつけてやるんだからっ!(エカテリーナ視点)
私が魔力を注いでいる卵の中からゴッゴッという音がし始めた時、バーニィが籠もっている部屋の前に蹲っていたユキたんが立ち上がって扉を凝視し、「ナーン!」と鳴いた。どうやら部屋の中で何か動きがあったようだ。
すぐにバーニィの部屋の扉があいて、赤茶色い鱗を持つ子犬ほどの小さの竜を抱えたバーニィがリビングに入って来た。
「生まれたのね」
「うん、どうやら土属性っぽい竜みたいだね、翼も無いし地竜なのかな?」
「バーニィは「人」の加護だし火属性なのかと思ったけど違うのね」
「うん、火は吐けないみたい」
「ここで吐かれたら大変な事になるわよ」
「うん、もし何か吐けそうになっても駄目だって言い聞かせているよ、生まれたばかりなのに結構賢いみたいなんだ」
「お願いね」
従魔は主人とテレパシーのようなもので意思の疎通をする。特に賢い従魔はかなりの会話が成立する。従魔の中には人の言葉を話せる個体もいるらしく兄貴達の聖獣達は全て会話が出来ているらしい。
「私の卵も中から叩く音がするようになったわ」
「じゃあ1日後ぐらいには出てきそうだね」
「殻を外から割ったら駄目かしら」
「スカイドラゴンの場合はあまり手伝ったらだめらしいよ、なんか卵の中に残った栄養を吸収しながら出てくるから、外から剥くとそれが失敗しちゃうんだって」
「そうなのね・・・じゃあ私も部屋に籠もるわ」
「了解」
兄貴はまだ部屋に籠もっていた。
「フジたん何食べる?」
「グァ!」
「ふーん・・・草食なんだね・・・じゃあご飯は果物と根菜でいいのかな?」
「グァ! グァ!」
バーニィのドラゴンの名前はフジたんらしい。色が藤の様な青紫ではないので何か由来があるのだろうか。
部屋に入るとベッド寝っ転がりお腹の上に卵を乗せて魔力を込めていった。もう全く魔力が吸収される様子は無く周囲に拡散してしまっていたけれど、励みになったらと思い込め続けていた。
卵からピシッと鳴ったと思ったので良く見たら胴回りが一番太い部分の1点に小さな穴が開いていた。そして中を覗き込むと「ピー! ピー!(ママー!)」という声が聞えて来た。
「こういう感じに聞こえるのね・・・」
従魔と意思の疎通が出来ると聞いていたけれど、鳴き声と共に頭に思念の様なものが流れて来る感覚は非常に不思議だった。
「ピー?(ママ?)」
「私がママですよ、頑張って殻を割りましょうね」
「ピー!(うんっ!)」
私の声に励まされたのか、ドラゴンの赤ん坊が中から殻をつつく音が激しくなった。
「無理をしなくていいからね、ゆっくり出て来なさい」
「ピー(うん)」
何度か中断を挟みながら、ドラゴンの赤ん坊殻から出ようと懸命になっていた。手伝ってあげたい欲求にかられたけれど、自然に出るまで待たないと駄目だと聞いていたのでそのまま応援だけしていた。
体の色は殻の表面の色と同じ青だった。それとバーニィが抱えていたフジたんと違い、細長い蛇の様な体型をしていて手足が短かった。だからか殻が完全に割れていない状態だったけれど、にゅるんという感じで殻の中から出て来た。
「ピー!(ママ―!)」
「頑張ったわねっ!」
私の卵から出て来たドラゴンは、絵に描かれた光輝竜のような西洋的な竜では無く、東洋的な龍のような感じだった。手足の短さからそれを使って歩く事はかなり苦手そうだった。体を蛇のようにクネクネさせながら移動しているけれど、尾っぽの先にヒレの様な物があるし、手足にも水かきみたいなものがついている。形態的に水生生物っぽい感じがした。
「お風呂場に行きましょうか」
「ピー?(お風呂場?)」
「水浴びするのよ」
「ピー?(水ってなぁに?)」
「行けば分かるわよ」
「分かった」
私はドラゴンの赤ん坊を抱えると、ドラゴンの赤ん坊は私の胸にスリスリと頭をすりつけてきた。
「これはクるわね・・・」
「ピー?(クる?)」
「あなたが可愛いって事よ」
「ピー?(僕可愛いの?)」
「えぇそうよ」
「ピーッ! ピーッ!(僕嬉しいっ!)」
何かしらこの可愛い生き物は。前世では爬虫類系は苦手だったけど、この子に対しては可愛いとしか感じない。
「産まれたんだね・・・あれ?随分と細長いね」
「えぇ・・・羽が無いし飛べないと思う。けれどヒレがあるから水生のドラゴンじゃないかと思うのよ」
「水生のドラゴンか・・・じゃあ海で過ごして貰った方がいいのかな?」
「とりあえず風呂場に連れて行くつもり」
「なるほど・・・・」
部屋を出ると、鷹匠のように真っ黒い体のドラゴンを腕に捕まらせていた兄貴が私に話しかけてきた。
「ガァ!」
「あぁ、ソラたんの兄弟だよ」
どうやら兄貴のドラゴンはソラたんという名前らしい。見たまんまだとクロたんと名付けそうだけど違うようだ。立派な羽があるようだし空に合わせているのかな?
そういえば私もこの子に名前を付けないと、青くて水生のドラゴンだからウミたん?いや私はそんなネーミングはしないわ。兄貴たちとは違う、良い名前をつけてやるんだからっ!
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