第103話 食い物の恨みは恐ろしい

 リーナが凄い剣幕で僕やバーニィに迫ってきたり、醤油の匂いを嗅いで涙を流したり、「海苔!」と叫んだり、醤油煎餅を食べて幸せそうな顔をしたりと、かなり変になった。

 醤油煎餅を食べたあと「緑茶持ってない?」とか言って来た時には穏やかなな顔だったので安心していたのだが、マシロが「紅茶のと緑茶は同じ葉っぱから造るんだよ、蒸したあとそのまま乾燥させたのが緑茶で、乳酸菌発酵さながら乾燥させたのが紅茶だよ」と言ったら、リーナが目を真ん丸にあけて、バーニィに食い付きそうな感じになった。

 バーニィが「ヤバいっ!」という顔をしたので、僕がすぐに収納リングから緑茶が入った紙袋をリーナに渡して助けた。リーナはそれを奪い取り満足気な顔になるとキッチンに向かっていった。


 こういうのも、食い物の恨みは恐ろしいという奴なのだろうか?別にリーナの食べ物を奪った訳じゃ無いのに、泣かれて迫られて睨まれて怒鳴られて、なんか理不尽な目にあってる気がした。


 そのあと緑茶を飲んだリーナに強制されて地引網の現場に連れていかれた。そこで僕は引き上げられる色んな魚を、リーナから、ダンジョン産のオリハルコン製の包丁を渡されてて下処理をさせられ続けた。

 人が魚を捌いている横で、刺し身に醤油を付けてつまみ食いをするのはいかがなものかと思った。

 夕飯はリーナが作った日本食で美味しかったけど、1日リーナに理不尽な目にあわされてグッタリしてしまった。


△△△


「ニャウニャウ」

「それは良かったねぇ」


 ユキたんは何故か漁港に作られた氷冷庫で氷を作る仕事をしている。その代わり大量の魚を持たされて帰って来る。

 僕はそれをユキたんの好きな切り身にして食べさせている。フローラもバーニィも魚をうまく捌けないからだ。


「「ただいま〜」」

「お帰り〜」


 僕とフローラは漁港の魚を近隣の街に売り歩いている人についていって売り子をしている。最初の頃に、リーナがマグロの解体ショーで人を集めて、試食販売的な事をしたおかげか少しづつ客がついてくれていた。氷冷庫の氷で鮮度が保たれた魚の美味しさを覚えた人達は、結構高値をつけた魚でも買ってくれるようになった。


「お兄ちゃんは何を作っているの?」

「鰹のタタキだよ。藁が無かったから乾燥させたススキの穂を代用してるけどね」

「美味しいの?」

「鰹の最高の食べ方だよ」

「それは楽しみっ!」


 皮と身の間の部分を炙った鰹はとても良い香りがして美味しい。けれど身まで火を通すとパサパサしてしまう。だから乾燥した藁が一気に燃え上がるときの強火を使って炙ったあとすぐに中に熱が通らないように氷水で冷やした鰹のタタキが美味しい。

 稲わらが焼けたときの香りも付与される効果も美味しくなる要因だけど、まだ初夏である今は良い稲わらが無いため、その変わりに代用となる燃料として乾燥させたススキの穂を選んだ。気候が暖かいマクレガー領では一年中ススキが生えているらしい。試しに焼いた時の香りが稲わらに近かったので使えると思い、収穫して天日乾燥させておいたのだ。

 今日ユキたんと漁港の氷冷庫に氷の補充に行った際、漁師の人から釣り上げた直後に血抜きして氷で締めたという新鮮な鰹を貰っていた。

 だからフローラとマシロが帰ってきたらすぐに食べようと準備をしていたのだ。


「2人はアサツキを切って生姜を擦っておいてよ、僕は塩だけで食べるのが好きだけど、薬味たっぷりの醤油で食べるのも美味しいしね」

「了解〜」

「御飯は要る?」

「収納リングに炊きたてを用意してるよ、あと漁港でアラ汁を貰って来てるから、夕飯にはバッチリだよ」

「わーい」

「美味しそうだねぇ」


 アラ汁は港で働く人達の賄いとして良く作られている。

 僕もフローラもバーニィも漁港で魚を荷馬車に積み込む手伝いをしているので、その際にそのご相伴に預かっていて大好物になっていた。

 他にも炭火で焼いた魚や貝なども貰って食べている。ユキたんのように新鮮な白身魚の刺し身に拘ったりしないから、その場で色んなものを食べる事が出来る。


「明日は始めて王都まで運ぶよ、隣領で売ってみて手応えを感じたから、きっと人気が出るよ」

「王都?じゃあ一泊するの?」

「そうだね、王都にマクレガー領の産物を扱う店を作ったから、そこに卸すだけで接客は必要無いけど1日では往復出来ないね」

「帰りは空荷で帰って来るの?」

「あぁそうか・・・せっかくだしこっちで売れそうなもの仕入れて来るのも良いかもね」


 バーニィとリーナはマクレガー領の魚売り歩きのシステム構築をずっと続けていた。ユキたんに餌付けして、僕達が学園に戻ったあとも、新鮮な魚の流通システムが完成するまで手伝い続ける事を了承させていた。

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