第98話 僕の事を兄貴と呼んでいるらしい。
「ふーん・・・やっぱ雪豹なんだ・・」
「ナウン」
「名前は?」
「ナーン!」
「じゃあユキたんで」
「ナウッ!」
「あとアニーを女扱いしたら許さないからね?」
「ナ・・・ナウン!」
僕たちが食事を終え、綺麗な氷河湖を眺めていたところで狼が覚醒した。
なんかお腹を上にして「キューン」とか「ナーン」とか「グルグル」と、今までとは全く違う甘えたような声を出していた。どうやらバーニィにだけ声が聞えるらしく、既に従魔になって事が分かった。
バーニィがユキたんと名付けた白い豹に僕と戦うように言うと、また「ナウーン」という声を出してお腹を見せて来た。どうも戦闘意欲が無くなってしまったらしい。
バーニィに「アニー、実力を見せてやって」と言われたので、以前リーナが海を凍らせた氷結魔術を使って氷河湖を全面凍結させたら、か細く「ナウ〜ン」という声を出してプルプル震え出してしまった。
「チー!(ユキたんから「兄貴!」って呼ばれてるよ)」
「そうなんだ・・・」
どうやらユキたんと名付けられた雪豹という聖獣は僕の事を兄貴と呼んでいるらしい。
ユキたんの特殊能力は図鑑で見たフェンリルと同じような氷の息を吐く事だった。ただまだ若い個体らしく、伝説にあるような街1つを凍らせるような力は無いそうだ。だからか、僕が一瞬で湖を魔術で凍らせた所を見たため完全敗北を悟ったらしい。
ユキたんは、番いとなる牝を探して各地を放浪中だったそうで、ここ20年程はフェンリルという凍らせる息を吐く聖獣のがいると言う噂がある氷狼の頂周辺を探していたそうだ。フェンリルという名の聖獣が、自身の求めている番の牝では無いかと思っていたらしい。
「親はいないの?」
「ウニャン」
「なるほど・・・300年前に・・・」
「ナウン」
「それ以降同じ雪豹にはあってないの?」
「ナーン」
親と300年前逸れてずっと1人だって事だろうか。それで若い個体って随分と長い気なんだな。
「でも山頂まで行けなかったんだね?」
「ナーン」
「でも山頂に一晩以上いたけどフェンリルどころか生き物の痕跡すらなかったよ?」
「ナウン・・・」
「僕たちもフェンリルを探しに登って降りて来た所なんだよ」
「ナウン!」
「あっ、下りてたところは見てたの?ごめんね求める牝じゃなくてさ」
「ナウッ!ナウッ!」
「ははは、ウサたんを同類の子供だと思ったんだ。違うよ、ウサたんはカーバンクルっていう聖獣なんだ。探索が上手いから、いつか番をを見つけてくれるかもしれないよ」
「ナウッ!」
バーニィとユキたんはしばらく話を続けた。
話を要約すると、ユキたんは氷狼の頂に登る事が出来ず、周囲の山脈地帯をウロウロとしていたらしい。そして今日、僕たちが氷狼の頂からゆっくりと降りて来るものを見かけ、最初は番となる牝が自身を見つけて降りて来てくれたんじゃないかと思ったそうだ。
僕達は防寒のため、冬毛の白いウサギの毛皮を身に纏っていたので遠目には白い獣に見えたかもしれない。
ユキたんの親は氷で作った足場を蹴って空を駆け上がる事が出来たらしく、同じ方法で降りて来ているんだと思ったそうだ。
しかし僕達が降下してくるに3人の人影と他の白くて小さな生き物が見えたので、番ではないけれど、雪豹の子供が人間に捕まっていると思ったそうだ。
けれどさらに近づいて来たことで、白い生き物が自身と違う生き物だと分かり、引き返そうとしたらしい。
けれどそこをウサたんに見つかり近づかれたので迎え撃つしか無いと思ったそうだ。
ただフローラから友達になりたいと言われて、驚きと嬉しさの2つの気持ちが混ざってああいう態度をしてしまったそうだ。
番を探してたという通りユキたんは思春期の少年のように、感情表現が不器用らしい。
△△△
「じゃあ乗るよ」
「ナウン!」
体が大きいユキたんなら騎獣になるんじゃないかという話になり、試しに挑戦してみる事になった。
ユキたんは今まで誰かを背中に何か乗せて歩いた事がないらしいけど、ボスと認めたバーニィがお願いすると快く応じてくれた。
ユキたんは体が大きいけど3人が乗れるほど大きくは無い。2人はなんとか乗れるぐらいだ。機動性を考えたら1人が限界だろう。だから一番身体強化が不得意なフローラが乗って行くことになった。
「毛皮が少しベタついて臭うね・・・帰ったらお風呂に入ろうね」
「ナウ?」
「あぁ、お風呂っていうのは暖かいお湯で体を洗うことだよ」
「ナウッ! ナウッ!」
「地面からお湯が沸いている所? それって温泉じゃない?」
「ナウン?」
「それって近いの?」
「ナウッ!」
「へぇ、じゃあ寄ってみようか」
「ナウッ!」
どうやら近くの温泉らしいものがあるらしい、確かにユキたんの毛皮は脂っこくベラついていて毛皮に鼻を近づけて嗅ぐと獣臭い匂いがした。氷河湖に沈んで汚れが多少落ちている筈なのにだ。
雪豹って名前の通り猫科の生き物っぽい見た目だけど、毛繕いという習慣は無いのかもしれない。
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