第97話 牝が雄より強い訳ない!
山頂からダイブしてゆっくりと降下し続けた。木があれば空間移動ですぐに帰れるので、一番森林っぽい緑がある方に向かって降りていた。
「あの湖不思議な色だね・・・」
「氷河湖だね」
「チー?(何か生き物がいる?)」
「キュー!キュー!」
「ウサたんがフェンリルらしい魔物見つけたって!」
「えっ?どこ?」
「えっ?」
「チー!チー!(湖の奥側からこっちを見上げてる!)」
「キュー!」
「あの湖!」
「行ける?」
「加速するよっ!」
「チーチーチー(あっ・・・爪立てちゃった)」
「キュー!」
「気持ち悪い」
「痛く無いから大丈夫だよ」
結構地上に近づいた時に見えた水色く輝く氷河湖に注目していた時に、ウサたんが急にフェンリルらしいものを見つけたらしいと騒ぎ出した。
バーニィが落下する方向を急激に変えたため体に強い重力がかかってエレベーターに乗った時の何倍も強い力が体にかかった。
僕たちにはかなり強烈に感じたけれど、チーたんは軽く爪を立てるぐらいで問題ないようだった。普段から急降下とか急旋回とかして飛んでいるのでこういった事に慣れているのだろう。
「グルル・・・」
「本当にいたけど狼じゃないね」
「白い虎?」
「豹じゃないかな・・・」
「キューキュー」
「チーチー(何の用だって言ってる)」
チーたんには白い豹の言葉が分かるようだ。会話が出来ているという事はかなり知能が高いのだろう。
「お友達になりたいのっ!」
「ガー! ガウッ!」
「キュー!」
「チー!(「それなら力を示せ」だって)」
「戦えば良いの?」
「ガウッ! ガウッ!」
「キュー! キュー!」
「チー!(「一番強いボスと1対1だ」って言ってる)」
「それなら私じゃなくお兄ちゃんなの・・・」
「ガウッ!」
「キューキュー」
「チー!(「そっちの雄が良い」だって)」
「バーニィと戦いたいって・・・」
どうやら白い豹は僕よりバーニィが強いと判断したようだ。僕よりバーニィの方が体が大きいから当然そう思うだろう。
「良いけど、僕と戦ったあと、アニーとも戦って貰う。僕よりアニーの方が強いからね」
「ガウッ! ガウガウッ!」
「チー!チーチー!(「牝が雄より強い訳ない!」だって)」
「雄より強い牝はいないんだってさ」
「はっ! 君の眼は節穴なんだね」
「ガウッ! グルルルルルッ!」
白い豹も人間の言葉は分かるらしい。この白い豹が聖獣かどうかは分からないけれど賢い魔獣ってそういうものなのだろうか。
「チー! チー!(「後悔するなよ小僧!」だって)」
「小僧だってさ」
「随分と侮るような言い回しをするんだねぇ」
言葉では小僧と言っているけれど侮っているような感じはしない。何故ならお互いに牽制しながら離れていったからだ。もしかしたら多数対1になったら不利だと考えて言葉で牽制したのかもしれない。
僕達から距離が離れた時に、バーニィが格闘の態勢を取った。そうしたら、白い豹はバーニィに息を吹き付けた。バーニィの体が一瞬粉を吹いたように白くなったけど、湯気をあげて消えた。
「ガーッ!」
「なるほど・・・」
白い豹は威嚇の叫び声をあげてバーニィに駆け出しいったけれど決して早くなかった。
バーニィはダンッという爆発のような足音を立てて白い豹の目の前に一瞬でたどり着くと鼻っ柱に思いっきりパンチをお見舞いした。
「ギュワンッ!」
白い豹は悲鳴のような叫びをあげて氷河湖に飛んで行った。水柱が上がったあと、湖面に赤いシミが広がっていった。
「殺してない?」
「アニー助けてあげて」
「良いけど・・・」
僕は水魔術を使って湖の中に沈んでいく白い豹を岸辺に寄せた。鼻の部分は潰れて顔に埋まっている様な状態になっていた。胸が上下しているので生きているようだけどかなり重症でそのままでは死ぬんじゃないかと思った。
「これは僕では治せないよ・・・チーたん出来る?」
「チー・・・(治る前に死んじゃう・・・)」
「完全回復薬使うしかないか・・・」
「チー・・・(ごめんなさい)」
「チーたんが悪い訳じゃないよ・・・」
完全回復薬を持っているのはフローラとバーニィだ。白い豹が死ねば蘇生薬が利くかもしれないけどそっちは国宝級じゃ無く伝説級のアイテムらしいので使うのは勿体ない。
「バーニィが責任を取って使ってよ」
「やり過ぎだよ」
「だってアニーをあんな風に言うなんて許せないでしょ?」
「大丈夫、次は僕が戦ってストレス解消するから」
「戦う気力残ってるかなぁ」
バーニィは白い豹を無造作にあおむけにすると、潰れた鼻の奥にある辛うじて隙間のある口に完全回復薬を流し込んだ。気持ち悪い様な逆再生が起こり白い豹の鼻は完全に治った。
「こんな風になるんだ・・・気持ち悪いね・・・」
「毛皮にしみ込んだ血が戻る訳じゃないんだ・・・もしかしたらまだ失血状態かな?」
「しばらくここで休む?」
「そうしようか・・・」
「この高さなら空気圧縮も要らないね?・・・氷河が溶けてるんだから・・・でも少し寒いかな?」
「小屋を作って火を起こそう? 久しぶりに料理を食べたいよ」
「それがいいね」
僕たちは白い豹をその場に放置し、土魔術で小屋を作るとそこで久しぶりに暖かい食事を食べた。
標高が高い所にいた時は、狭い圧縮空気の空間と風の結界に覆われていて、空気の循環が露天より悪くなっていたため、煮炊きをしたら空気が熱くなり過ぎる事が分かって保存食ばかりの食事になっていた。そいう事もあって多少周囲の空気が冷たくても、温かい食事を食べられると言うのはとても嬉しかった。
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