第96話 良い出汁が出るのに!(エカテリーナ視点)
領地経営は結構忙しい。アニーとフローラとバーニィのように私も聖獣を見つけに行くとかしてみたいけれど、エバンスお兄ちゃんの手伝いが忙しくてそれどころじゃ無かった。
「へぇ・・・煮干しを作ってるのね・・・」
「肥料だね」
「肥料?食べないの?」
「食べる事もあるけど殆どが肥料だよ」
「勿体ない! 良い出汁が出るのに!」
領内にある漁港に行ったら、小魚を軽く煮たものをゴザに敷き乾燥する作業をしていた。この世界でも煮干しでダシを取るのかと思って感心していたら、バーニィが肥料を作っていると言った。土に撒くだけなんて勿体ないと思うのは私だけだろうか。
「その肥料いくらぐらいで売れるの?」
「小麦の小袋に入れて銅貨1枚ぐらいだね、農家は馬車の荷台に一杯に詰めて銅貨50枚で買っていくよ」
「安くない?」
銅貨は前世の価値で言えば100円ぐらいだ。小麦の小袋は前世の小麦粉の袋ぐらいだと思えば良い。あれ一杯で煮干しが100円とは安すぎる。前世なら10倍ぐらいはしただろう。あと馬車の荷台に一杯詰めて5000円とかもう笑うしかない安さだ。馬糞の肥やしよりはマシだろうけど元の価値からすると全然違う。
「魚の網にかかった商品価値の低い小魚の再利用だからね、下手に捨てると臭いし虫が湧くし、引き取って貰えるだけありがたいんだよ」
「なんてこと・・・」
こちらの世界は海の魚の密度が高いのか、マクレガー領の近海が好漁場なのか、沿岸で行われている地引網だけでかなりの多くの魚を引き上げるらしい。
「それなら大きな魚だけ取るよう網の目を広くしたらいいんじゃないの?」
「そんな勿体ない。魚が網の中に入るかなんて運なんだから、取れる時に目いっぱい獲りたいじゃないか」
「なるほど・・・」
この世界には魚群探知機などというものは当然無いし、網の中に魚がかかるかは経験と勘と運なのか・・・。
「市場に行ってどんな魚が採れるのか見に行きましょう」
「あぁ」
マクレガー領の冬はそこまで寒くなかった。体感的に亜熱帯ぐらいの暖かさだったと思う。といってもそこまで緯度が赤道に近い位置にある訳ではないので、沖合に暖流がありそこから吹く風により年間通して暖かい気候なんだと思う。
市場に行くとタラやタイやハタや鮭など白身魚が多い。他にもカツオやイワシなどの青魚も売っている。
マグロも一応売っていたけれどひどい匂いがしていた。日本も昔はマグロは足が早い下魚と呼ばれていたそうなので同じ扱いになっているのだろう。
確か前世で銀行で働いている時に、融資の相談に来た昔は羽振りが良くてクルーザーを持っていたという社長を応対する上司と同席した事があるのだけれど、「マグロのような大きな魚は釣る時のファイトが楽しいけれど、長時間暴れさせてしまうと酸っぱくなって美味しくなくなるとか、サッと釣り上げられて、血抜きと神経締めをして氷水で冷やした時が一番美味しかったと喜ばれる、という事を何故か自慢げに話し、景気が良くなってクルーザーを取り戻したら、そういった美味い魚を持って来てやると言っていた。
無駄な事を覚えてしまったとその時は思ったけれど、今の状況ならとてもありがたい情報だ。さっと釣り上げるというのは短時間で釣ると言う事だろう。血抜きは魔物の狩りの時にしたから分かる。けれど神経締めというものが何を意味するのか分からない。
神経というものは全身を駆け巡っているものだ。ということはそこを締めるのだろうか?なんとなく内臓が飛び出して来そうな気がする。
「神経締めって分かる?」
「聞いた事ないな」
「そうよね・・・」
この街の漁師や魚屋がマグロの扱い方が分かっていないんだから、元々この街に縁があるエバンスお兄ちゃんもそれ以下の知識しか無いのは当たり前だ。
「マグロを美味しく食べる方法なのよ、ただやり方が分からないの」
「マグロを美味しくねぇ・・・臭くて酸っぱいし、テイムした魔獣の餌ぐらいにしかならないけど・・・」
「私の世界では最高級の魚なのよ、1匹で金貨数枚する事もあるぐらいなの」
「それはすごいな、どうやるんだ?」
「さっと釣り上げ、すぐに血抜きと神経締めして氷水で冷やす・・・だったわ」
「海の上で氷水を用意するのか?」
「氷を作る魔術は私が知ってるわ」
「漁師はその魔術を使えるほど得意じゃないぞ」
「それでも釣った物が美味しくなって高値で取引されるなら熟練していくのではないかしら」
「なるほどな・・・孤児院と併設した学校で、それを優先して熟練させてみるか」
「それは良いわね」
「血抜きは狩猟の時と同じだとすると、あとは神経締めか・・・」
「そうね・・・」
「漁業ギルドに知らないか聞いてみよう」
「それが良いわね、私はアニーやバーニィが知らないか聞いておくわ」
「なるほど・・・前世の知識なら2人が知っている可能性があるのか・・・」
マクレガー領は貿易が盛んだけど、海に面しているだけあって漁業も盛んだ。ただしあまり領外に売れたりしていない。干し貝柱と干しエビが加工品として少量内陸側に出荷される程度だ。
海魚は川魚より泥臭くなく美味しい、この街にいる人はそれを知らないのだろうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます