第95話 空中散歩しながら降りたいな・・・
「確かに平らだ」
「オリン山とは随分と違うね、火山じゃないからかな?」
「少しだけ傾斜があるんだね、平らだからフェンリルがいる根拠とされてたんだけど・・・」
山頂は少しだけ傾斜があるけど平らだった。光輝竜のいたオリン山の山頂はすり鉢状になっていたので随分と違う。
平らとはいっても岩が風雨で削られた感じなので斜めだしガサガサしていた。麓から見た時は完全に平坦に見えて何かが自らの住処として平らにしたと言われたらそうなのかなと思ったけれど、そういうものでは無いのだと分かった。
「石碑が少しづつ滑っちゃわないかな」
「ここら変を石碑の大きさに窪ませてそこに刺しておこうか」
「なるほど・・・」
僕はカオスの剣を取り出すと石碑より一回り大きい感じで穴を50センチほど掘った。
「良い感じだね」
「じゃあ入れるよ」
「あっ、せっかくだから正面をナザーラの方角に向けようよ」
「この山はナザーラの北北東だから・・・これぐらいかな?」
「じゃあ石碑と窪みの隙間にグラグラしないよう石を詰めておこう」
「モルタルあるよ?」
「あっ・・・そっちの方が良いねそうしよう」
フローラが収納リングにモルタルを入れていたらしい。エルムの街にいる時に何か作ったのだろうか?
「なんか斜めに立っているみたい」
「石碑は垂直に立っているよ、山頂が微妙に傾斜しているから錯覚しているんだよ、お化け坂と一緒だね」
「なるほど・・・」
「お化け坂?」
「本当は下っているのに登っているように見える坂だよ」
「フローラは見た事が無いかな?」
「うん・・・無い・・・」
前世でお化け坂と言われている場所を見た事があるので知っているけれど、フローラは分からない様だった。
「お化け坂は人工的に作れるよ、今度土魔術で作ってみよう」
「分かった」
マシロはお化け坂の原理が分かるらしい。僕も前世で原理が書かれた立て看板を読んだ記憶はあるのだけれど、内容を覚えていなかった。
「写真に残したいねぇ・・・」
「無いねぇ・・・」
「写真?」
「そのまま景色を写し取って絵にする道具だよ」
「前世に身の回りにあった道具だね」
「ふーん・・・」
以前フローラに前世の事を話していたけれど、全てを説明したわけでは無いため写真の事は知らなかった。
「じゃあ降りようか」
「どう下りる?」
「風魔術で空中散歩しながら降りたいな・・・」
「魔力持つ?」
「落ちる速度と方向を制御するだけだし大丈夫そうだけど、もう少し休んで回復させた方が安心だね」
体を浮かせる魔術はいくつか方法があるけれど、複数人の場合は風の結界で周囲を覆い、その風の結界の下側に風を吹き付けて浮き上がらせる方法があり、高い所から降りる際に使用される。個人ならスカイダイビングみたいに自由落下し、地上に近くなってから風魔法で落下速度を下げる方法もあり、マギが得意としていたけれど、僕たちは誰もやった事が無いので安全策を取って降りた方が良いだろう。
「じゃあもう少しこの景色を楽しんでから行く?」
「それなら一晩ここで過ごそうか、この場所で見る星空と朝日って素敵そうじゃない?」
「わっ! 絶対それ良い!」
「じゃあ寝床を作ろうか、土魔術で小屋作るよ」
「わーい!」
そうか山頂で見る星空とかご来光とか綺麗だと聞いた事があったな。登山中も見はしたけど見上げた時に遮るものが無いという風景ではなかった。ここなら完全に遮るものがない素晴らしい空を見上げる事が出来るだろう。
△△△
語る事が出来ない程の素晴らしい景色の連続だった。遥か眼下の雲海を七色に染めながら沈んでいく夕日と、星が瞬かない程澄んでいる一面の星空と沢山の流れ星、丸みを帯びた遥か彼方の地平線から登るご来光を交代で空気を圧縮しながら迎えた。
朝日が昇る時、なんか気分が盛り上がってしまい、僕とフローラはお互いにハグをしてキスをしていた。そのあと隣で僕達を見ていたバーニィに2人で抱き着いて交代で軽いキスをした。
「僕も前世を含めて初めてのキスだよ」
「そうなんだ・・・それは光栄だね」
「私の始めてはお兄ちゃんだから」
「アニーは前世で経験済み?」
「ううん、僕は死ぬまでモテなかったからね」
「そうなんだ・・・みんな見る目無いね・・・」
「本当にね」
「顔が結構不細工だったんだよ」
「顔なんて関係ないよ」
「イケメンに限るってあるからねぇ・・・」
前世では商売女の人と遊びとしてキスをしたけど、僕を好きになってキスをしてくれた女性はいなかった。だから今世でしたフローラとのキスが初めてだと思っている。
「ウサたんとチーたんを起こして朝食を食べて降りようか」
「うん、ここは綺麗だけど魔術の維持をし続けるのは面倒だよ」
「そうだねぇ・・・」
ウサたんは実際の目の方があまり効かないので夜空も朝日も綺麗に見えないらしく興味を持たなかった。そしてチーたんは夜目が効かず高い所から見る朝日も見飽きているらしく同じく興味を持たなかった。
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