第84話 股間を蹴り上げられていたら(エカテリーナ視点)
兄貴達がナザーラ領に向かって1月後の冬至の日、王宮で新しい年を祝う宴が催された。
正月というよりハロウィンとクリスマスが混ざったようなお祝いで、収穫期の産物を使ったご馳走が振る舞われる。
領主たちはこの時期に領地の収入に応じて納税を行い、その返礼として王家は領主たちにプレゼントを下賜したというのがこの宴の始まりだったらしい。
王国が発展し貴族の数が増えた事で参加者は伯爵家以上とその連れとなってしまったが、昔は全領主とその家族が集まって宴をしていたそうだ。
「気をつけてね」
「えぇ」
「リーナお姉ちゃんは僕が守るよ」
「頼んだぞ」
最近エバンスお兄ちゃんとマギ君に信頼関係のようなものが産まれている気がする。前衛のエバンスお兄ちゃんと後衛のマギ君でどう連携を取るかという様な事を話し合ったりしているのを良く見かける。その影響からか、マギ君が「リーナお姉ちゃんの背中を守るのは僕だよ」だみたいな頼もしい事を言うようになっているのだ。
マグダラ伯爵からは、自分に合った相手を用意しているから同行しろという手紙が届いたけれど無視した。
エバンスお兄ちゃんが用意し御者を務める、ポット家のものとして仕立てられた馬車に乗って王宮に向かったのだ。
エバンスお兄ちゃんは御者たち貴族の使用人たちの控えの場所に向かい。私はマギ君にエスコートされ宴の会場となっている王宮の広間に入っていった。
「まぁ! 随分と小さな子にエスコートさせているのね」
「貴族の恥さらし同士の子供じゃない・・・嫌だわ」
心無い言葉が私達に向けられたけど、全て無視して会場を進み、用意されている豪華な食事やお酒を食べるフリをしてどんどん収納リングに入れていった。
料理はビュッフェスタイルの立食パーティなのだが、始まったばかりなので、挨拶に忙しいらしく料理を手に取る人は殆どいなかった。そのため手つかずの料理があり、それが私が少し皿に盛る間に収納リングに入れられて空になってしまうのだ。
離れている間も人が盛られた皿に誰も注目されてない隙に闇魔法の収納を皿の下に展開して料理を回収した。
たまに食事を取りに来た人が空になった容器を見て首を傾げていた。
多くの人が料理の周りに集まるまでそれを続けた。多くの皿が空になっていて多くの客が首を傾けていた。
客に出す料理を枯渇させて恥をかくのは主催者の王家だ。私はこの国の王家が嫌いなのでいい気味だと思いながらそれを見ていた。
「お姉ちゃん踊ろう?」
「えぇ」
踊りはエバンスお兄ちゃんとの練習ばかりだけど、学園の授業でマギ君と踊って練習していたのでうまく踊れる。
マギ君は体が小さいけれど、私に合わせて懸命に踊ってくれてとても可愛い。
「次は儂と踊れ」
「お断りします」
「なにっ?」
マギ君と2曲踊ったけれど王家の方々が登場せず会場はシラケ初めていた。
顔見知りと挨拶して食事を取り踊りに疲れたら他にする事が無いのだ。
それでも王家の方々に挨拶してから帰るのがマナーとなっているので帰る訳にはいかない。
「ちょっと待て! 儂の誘いを断るとはどういう事だ!」
「えっ? だってあなたみたいなオジサンと踊りたくなんてありませんもの」
「なっ・・・なんだとっ! 貴様は私の妻になるんだぞ!? そんな儂をオジサンとはどういう了見だっ!」
「わたくし、あなたのようなオジサンとの婚姻に応じた覚えなど無いのですけど」
「マグダラ伯爵から許可を得ておるっ!」
「あの・・・わたくし16歳ですのよ?父親の許可だけで結婚を勝手に決められる歳でも無いんですのよ?」
「許可を得たのは貴様が15歳の時だっ!」
「私、カール元殿下と婚約が解消した時はもう16歳でしたのよ?どうして婚約者がいる状態の15歳で別の相手と婚約出来ますの?」
「なにっ!? カール殿下と婚約解消した時はまだ15歳だと聞いていたぞ!?」
「誰に聞いたんですの?」
「貴様の父親だ!」
「あなた騙されてますよ、どうせあなたもわたくしをあのゴミ親から金で買おうとしたゴミ仲間のようですけど」
「傷物の貴様を貰ってやるのだ! 感謝して受けるべきだろう」
「嫌ですよあなた様のようなオジサンと結婚なんて、口も臭くて不細工ですし愛せる気がしませんので」
「貴様ぁ!」
逆上したオジサンが私に掴みかかろうとした所で、マギ君が私の前に立ち、そいつの股間を思いっきり蹴り上げた。そいつは「ギャっ!」っという声をしたあと白目を剥き、口から泡を吹きながら倒れた。
「男の人って本当に股間が弱いのね・・・」
「うん、とっても痛いんだよ?」
どうやらマギ君も股間を蹴られる痛みを知っているようだ。
私も前世で刺された時、冷静に相手の股間を蹴り上げられていたら、殺されずに済んだのかな?いや背後から突然だったし無理か・・・。
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