第85話 もしかして国王なの?

 エルムの街の屋敷に2日滞在したあとフローラと別れてナザーラ領に向かった。

 フローラは1週間程家族水入らずで過ごしたた後、ナザーラ領にやって来る事になる。

 ただ天候によっては遅くなる可能性はある。ナザーラ領の方では既に雪が降りはじめており、遅くなって積り始めたら除雪しながらやって来る必要がある。高く積もってしまったら馬車での往来は不可能となり、徒歩で雪をかき分けながら来ることになる。


「ただいま」

「「「おかえり(なさい)(なのじゃ)」」」


 久しぶりに見たナザーラの街はさらに発展していた。

 なんでも魔術の大家が引っ越して来たことで、大勢の弟子の冒険者達が一緒にやって来たからだそうだ。

 マシロの推薦で、魔術の大家の人を、ナザーラの街とべヘム村の2箇所に作った学校の校長と、新たに建設中の図書館の館長として迎え入れたそうだ。

 学校は読み書き計算基礎魔術を教えている程度だったけれど、応用魔術と哲学と自然科学と魔物学まで網羅した高等教育が出来る学校に生まれ変わったらしい。

 図書館はその大家の人達が持ち込んだ蔵書が余りに多く、領主館で預かっていたそうだけれど、しっかり管理出来る建物を作りましょうと言うことになり作り始めたらしい。


「ナザーラの街は学園都市に変更だね」

「学園都市?」

「元々は冒険者の街にしていくつもりだったんだよ」

「実際冒険者達が中心になってるもんね」


 ダンジョンの出入り口を中心に作られたため、冒険者が多く移り住んでいる。

 魔術師ギルドも存在しているけれど、冒険者ギルドの方が圧倒的に多く、次にダンジョンからの商品を扱う商業ギルド多く、次にダンジョンからの素材を加工する鍛冶ギルドという感じで、魔術師ギルドはあまり構成員が少なかった。


「学校を、魔術科、冒険科、商業科、工業科、農業科という感じに細分化して発展させていくんだよ。リンガ帝国の帝都にある平民向けの学校はそんな感じになってるんだ。そして各ギルドから職員を講師として招いているのさ」

「こんな辺境にそんなものを作っても人が来ないんじゃない?」

「そりゃ優秀な講師が集まらなければ人は来ないさ、けれどこれでもかというぐらいの立派な講師がこの街にやって来たんだよ?」

「魔術の大家って人?」

「代々宮廷魔術師団長をして来た家だよ」


 宮廷魔術師団長?なんかどこかで聞いた事がある気がする。


「あれ?それって・・・」

「マギ君の実家だね」

「えっ?何でこっちにいるの?」

「爵位が伯爵から男爵にさせられて、領地が没収され、閑職に回されて、屋敷に王家から泥棒まで送り込まれたんだってさ」

「はぁ?何それ?王家の指示でさせられたんでしょ?名目だけ爵位を下げて後はそのままってするもんじゃ無いの?」

「優秀な平民を宮廷魔術師として採用して王宮に送り込んでいたから、貴族派たちから疎まれていたみたいだね」


 あれ?以前エルム子爵がマリア母さんに話していた内容と違うぞ?


「何それ・・・国王は才あらば用いるってタイプの人なんじゃないの?なんで貴族派の意向に沿っちゃうの?」

「それは先王で、今の国王どちらかというと貴族派的な考えらしいね。ただ最大勢力である国王派の意を組んでそういう方針を承認していたらしいよ」

「国王派って国王の意に沿った人の集まりじゃないの?」

「先王陛下は王国派と同じ考えの方だったんだよ、でも今の陛下は「日」の加護を持って産まれた事から、貴族優生主義な人物に育ったらしくてね、ほらカールがそんな感じだっただろ?」

「・・・確かに・・・」


 確かにカールは高慢な感じの奴だった。エメロン王国は、才あらばの用いるの国だと思ってたから勘違い野郎だと思っていた。


「皇太子の婚約者を貴族派筆頭家の令嬢であるリーナにしたりしてたように、王国派の力を削ごうとしていたんだろうね。一応派閥の融和というお題目だったらしいけどね。そしてオルクダンジョンへの野心を示した事で取り繕わなくなったみたいだね」

「オルク父さんを殺したのって、もしかして国王なの?」

「直接では無いけど間接的にはそうだね」


 マジか・・・。


「もっと股間を蹴り上げて続けてやれば良かった・・・」

「あれ以上やったら死んでたよ」


 国王の股間を蹴り上げるため王宮に潜入した時、恨みを込めて股間を蹴ってたんだけど、殺すのはマズいとバーニィに言われて中断したんだよね。カールの次の跡継ぎがまだ4歳と幼ないらしくて、殺すと国内が混乱するからってさ。

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