第83話 国王派のトップ
模擬戦が終わり食事会となったのだが、エメール公爵とバーニィは年が離れているのにも関わらず、旧来の親友かのように打ち解けて話をしていた。
「殿下はどうやってあそこまで鍛えられたのじゃ?」
「剣術は帝国の剣術指南役に、身体強化はアニーの祖父であるヨウム殿に習いました。あとはダンジョンの魔物を倒しまくって強くなったのです」
「ほぅ・・・アニー殿の祖父殿も強者か」
「私と同じ「人」の加護でありながら、数十年間の森の最前線の村を魔物から守ってきた方です。こと森でのゲリラ戦においては私も勝てる気がしません」
「そんな御仁があの地におられたのかっ!」
「アニー殿の祖父母殿は全員が優れた方たちです。「静風」のガイ殿、「堅土」のローズ殿、「火災」のヨウム殿、「鎮火」のアンナ殿、かつて「森の殲滅」というパーティを組んでいた際、火力不足でドラゴンの討伐には失敗したためミスリル級だったとの事ですが、私が見た限り4方ともアダマンタイト級にひけを取らない方々です」
「なんとっ!」
エメール公爵は僕の顔をじっと見ていた。
「「静風」殿と「堅土」殿の噂は聞いた事がある。王都周辺で活動する冒険者達の中でも一目置かれた方たちだとな」
「アンナ殿がアニーの母上であるマリア殿を身籠られた際に引退し、まだ開拓地だったべヘム村にヨウム殿と用心棒として住み着いたそうです。あそこは先王陛下からスタンピードに気をつけろと警告があった地と聞いております。私はヨウム殿とアンナ殿によって未然に防がれていたのではと思っております」
「まことか?」
「確かフローラ殿の祖父であるモーゼス殿が急逝なさった際に、領内の魔物討伐が滞ったそうです。その際にべヘム村には大量のオークの襲来があったそうです。リンガ帝国との戦争が続いていた事や、領内の混乱もあり、ミュラー殿も軍を派遣されなかったそうです。戦争終結後にそれを知り軍が派遣されるまでの数年、それを押し留めていたのはヨウム殿とアンナ殿だったそうです」
「それは・・・儂の不明だったところだな。モーゼス殿急逝の際に、儂がもっとミュラーを補佐すべきであった」
「いえ、我が祖国が招いた戦争が遠因ですから・・・」
ヨウムお爺ちゃんから聞いていた話はもっとあっけらかんとしていた話だったけど、結構深刻な状態だったのかな。
「アニー殿のお父上はグリフォン討伐の英雄です。私は彼女と出会う事で市井の英雄と言える人に出会えました。その方々に師事を受ける事が出来たのは本当に幸運だったと思います」
「まさしくそうであるな。儂も今宵バーナード殿のような英雄に会えて、かような話も聞けてとても嬉しいぞ」
「ありがとうございます」
バーニィはエメール公爵のような「勇者」の称号を持つ英雄に、英雄だと言われてしまってるよ。
「ここだけの話だと思って聞いて欲しい」
「はい」
「実はロナンド陛下よりナザーラの地を締め上げろと言われているのじゃ」
「なるほど・・・それで閣下はどうされるつもりで?」
「王家にとってあの地が目障りであることは儂にも分かる。でもあの地はモーゼス殿が苦労して切り開いた地だ。ナザーラ男爵領になった後にダンジョンが見つかるとは思わなんだがな」
「はい」
「北部の土地は自然厳しい。そして南部に比べて魔物も多い。そこを皆が苦心して切り開き今がある。儂が幼少の頃はまだ寮内で餓死者が大量に出ていた」
「今では想像も出来ませんね」
「あぁ・・・そんな儂らだからこそ、折角切り開いた土地を旨味が出たからと王家や南部貴族に切り取られるのは我慢できん」
「ポートミラの地の事ですか?」
「あぁ・・・儂らが切り開いた港を王家の直轄地にされてしまっておる」
「そのようなご不満が・・・でも閣下の奥方は現陛下の妹君ではありませんでしたか?私は閣下はもっと王家に近しい方と思っていました」
先代のエメール公爵が、港へ開発出来る土地を王家へ献上する代わりに、王女を現在のエメール公爵の婚約者にしたのは有名な話だ。
「ラティナは儂が口説き落としたのじゃ。加護が「虫」だったため出来損ないと言われていたのじゃが、聡明で美しく一目惚れしたのじゃ。父上は確かにラティナを儂の婚約者にするために、王家への忠誠としてあの土地を献上した。しかしリンガ帝国との戦争の際に、儂がリンガ帝国との戦争で活躍する事で返還するという約束を先王陛下としておった。しかし先王陛下は急逝した。儂も若くして後を継がれたロナンド陛下を慮って口を出して来なかったのじゃが、まさかナザーラの地を王家に献上したら港を寄こすと言われるとは思わなかった」
「港を返還する事が反故にされていた訳ですか・・・」
あぁ、王家は借金を踏み倒したあげく。返して欲しければさらに借金させろと言って来るような事をした訳か。うん貸し倒れする典型的なパターンだね。王家存続のために返せなくなったと言って来そうだよ。
「儂は「日」の加護を授かったが、儂の父の加護も「虫」じゃった。だが恐ろしく強い男じゃったので加護によって優劣があるとは思って無かったのじゃ」
「フローラ殿も「虫」の加護ですが、強いですよ。特に弓を使った遠距離攻撃は私が知る限り彼女の右に出るものはいません」
「なんと!?」
「私も加護は「人」ですが、「日」の加護だろうが負けるつもりはありません」
「うむ、それは儂が身を持って知ったわ」
以前リーナに聞いたけど、ゲームでのバーニィは、作中1番強くなる逸材だったらしい。エバンスがめちゃくちゃ強い剣士になっている様に、加護の種類と最終的に到達できる強さには何の因果関係は無いのだと彼らが証明していた。
「儂はナザーラを締め上げるつもりは無い」
「王家に逆らうのですか?」
「そうだな・・・だからバーナード殿がナザーラを託せる存在か試させて貰った」
「それで合格だったのです?」
「その前に聞きたい。バーナード殿はリンガ帝国の意を組んでアニー殿に接触したのか?」
「いいえ違います。私は加護が「人」であったため、父上に期待されておりませんでした」
「加護を偽って王国に潜入したと言うことは?」
「ありません、もしアニーやフローラを裏切るような事を父上に強制されたら、その首を叩き落としてやるつもりです」
「合格じゃ・・・いや敗北じゃな。エメール公爵家はナザーラ男爵家と対等な友として共に歩み、決して王家には屈しない。もし攻めろと強制されたら反旗を翻して王国から独立してやるわい」
なんか話がとんでもないものになっている気がする。国王の妹と結婚している国王派のトップが反乱を起こすぞって言っているんだよね?
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