第74話 絶対勝たせるモード

「カール殿下が持ってるのってアテナの盾じゃない」

「それって何?」

「エメロン王国の持つ神話級の装備よ」

「それって強そう」

「裏ダンジョンの装備以外では最強よ、単純に防御力が激増するわ、不壊だから使用時のコスパが良いのよ」

「なるほど・・・それなら負けて無いね」


 対戦相手の入場時間となったのだけど、カール殿下と紹介された男はオリハルコン製の長剣に、真っ白な円形の盾に、アダマンタイト製の全身鎧を着ていた。


「がっちりした装備で固めているけれど、重くないのかしら」

「確かに頑丈そうな装備だね」

「宮廷魔術師の結界までされたらかなり鉄壁になるでしょうけど、動けないんじゃただの的よ?魔法戦でもするつもりかしら?」

「決闘って剣と剣の真剣勝負的なものなのかと思ったよ」

「普通はそうよ、貴族の決闘は見栄と見栄の戦いなのだから、正々堂々とした姿を見せるものなのよ、防御を固めて魔法戦をしたら勝っても醜聞だわ」

「なりふり構わずって事?」

「そうみたいね・・・それだけ王家は本気なのよ。国王がこの醜態を静観するのなら、宮廷魔術師の件の主犯は国王ね」

「僕の貞操がかかっているのに・・・もうこの国嫌い」

「珍しく気が合うわね」


 あれ?前世でこのゲームやってたのに嫌いなの?


 バーニィはアダマンタイトの短剣と僕の短剣を片手ずつに持って二刀流になっていた。


「あれはもしかして帝国の双剣か!?」

「まさか帝国がこの決闘を本気で支援しているという事か!?」


 帝国の双剣?どこかで聞いた事があったな。


「帝国の双剣って何だっけ?」

「ヘラーの双剣、帝国が持つ神話級の武器よ」

「でもあれ片方は僕が貸した短剣だよ?」

「バーニィが双剣に見せているのよ、アダマンタイトの鎧を切り裂く剣を私たちが個人で持ってるなんて知られたくないでしょ?それに神話級の装備を持つ相手に、神話級の武器を持たない相手が勝ったら変に思われるでしょ」

「なるほど・・・」


 良く分からないけれど、バーニィは色々考えてああいうスタイルをしている事はリーナの説明で分かった。


「チーチー(バーニィが傷ついてもすぐに癒すよ)」

「お願いね」

「チー!(任せて)」


 相手がズルをするならこっちもズルをしてやろう、チーたんに癒し続けられるバーニィが簡単負ける訳は無いからね。


「お兄ちゃん始まるよ」

「何か言い合っているね」

「ここまでは聞こえないね」

「教室の時みたく言い合っているんでしょ?」


 普段だったらこういう時、ウサたんもチーたんも僕とフローラにモフモフされているのに、今日はバーニィを絶対に勝たせるモードになっている。

 フローラもウサたんからの警告をすぐに翻訳して伝えられるよう集中している。


 合図があったのか試合が始まった。観客の声が大きくなって審判役の人の声が全く聞こえなかった。


 接近戦タイプのバーニィがゆっくり前進し、防御しつつ魔術を使うスタイルらしいウザい男が後退った。

 ウザい男の幾条もの集光魔術がに放たれるけれど、体に向かって放たれたら回避は不可能な魔術だけど、蓄光というタメのあと直進する魔術であるため、バーニィは発射の前に躱していてまったくかすらせなかった。


「フローラの矢ぐらい密度の濃い弾幕にしないと当たらないよね」

「普通なら当たるわよ・・・バーニィの身体強化の精度が高すぎるのよ」

「そうなの?」

「えぇ・・・」


 バーニィとウザい男が肉薄し接近戦になった。ウザい男は防戦しながら魔術は使えないらしく、剣と盾を振り回し対抗していた。けれどバーニィにはカスリもせず、バーニィの持つ僕の短剣は、ウザい男の鎧を「ギャリギャリ」という音を立てながら削っていった。

 バーニィが比較的軽いワイバーンの革装備に短剣2本という装備に対して、全身アダマンタイト製のフルプレートに大きな盾に長剣という重装備なウザい男は疲労が早いようで、肩で息をしながら棒立ちで盾を振り回すだけになっていった。

 「ギャルン」と少し違う音が鳴ったと思ったら、ウザい男の鎧の右腕の部分が切り裂かれたようで、血を流し剣を手放していた。

 ウザい男は左手の盾を振り回しながら何か叫んでいるけど声が聞こえないので良く分からなかった。


「勝負になってなかったわね」

「うん、弱くないけど相手が悪かった」


 ウザい男が疲れてまともに動けなくなったので、バーニィの攻撃が「ギャリンギャリン」とリズミカルなものに変わっていった。

 右腕だけでなく左腕部分も切り裂かれ、盾も手から離れ、さらに兜の部分にも傷がついて行った。

 カール殿下は腕を前に出して何か言ってるけれど、バーニィの攻撃は続いていった。

 そして兜が切り裂かれてウザい男の顔が露出した。


「あれ?相手はカール殿下じゃない」

「へ?」

「マジル・ポット! 宮廷魔術師団長の弟でアダマンタイト級冒険者! つまりカール殿下が替え玉を使ったのよ!」


 決闘は申し込まれた方は、代役を立てられるけど、申し込んだ方は本人が出ないとならない。つまりここでも不正が行われていたと言うことになる。王家は絶対に負けないモードで挑んだようだけど、バーニィの相手にならず敗北してしまったようだ。


「不正じゃねーか!」

「王家は神聖な決闘をなんだと思っているんだ!」

「宮廷魔術師団長の暴走という可能性も・・・」

「関係あるかっ! 宮廷魔術師団の指揮権は王家にあるんだっ!」


 何やら会場が不穏な空気になっていた。

 バーニィはウザい男の不正により勝利が確定した。

 バーニィは会場に落ちている剣を盾を闇魔術の収納で回収すると、さらにうなだれてるマグラ・ポットの装備の剥ぎ取りを行っていった。勝利側が装備を受け取る約束となっていたのそれを着実に実行しているようだ。

 こんな不正ばかりの決闘だし、あとで装備がすり替えられる可能性もあるから仕方ないよね。

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