第73話 余に恥をかかせるなっ!

「バーナードっ! 貴様に決闘を申し込むっ!」


 カール殿下が外して投げた手袋をバーニィが避け背後に落ちた。こういうのって相手にぶつけられなければ成立しないと思うのだけど、カール殿下は定型文の口上を述べた。


「手袋当てられて無いけど」

「それは貴様が避けたからだろう!」

「まぁ良いけど・・・それで何を賭けるの?」

「アニー嬢との婚約を解消しろ、俺様の婚約者になった方が幸せになる」

「うわダッサ・・・アニーを振り向かせられないからってこういう手段取るんだ」

「ふん、俺様のモノになれば、すぐに魅力に気づくさ」

「アニーはモノじゃないんだけどね・・・逃げたと思われるのも嫌だから条件次第では受けても良いよ」

「それは何だ」

「負けたら王位継承権を放棄して平民になってよ」

「何?」

「アニーは元々平民だった両親から生まれた子だよ?僕と会う前は村娘をしていたそうだしね。それを君がアニーを無理やり自分のものにして、将来は王妃をさせようとしている。はっきり言って滑稽だね」

「貴様・・・友人だからと舐めた口を聞くと後悔するぞ」

「友人は婚約者を無理やり奪おうとしないよ、自称君の友人である太鼓持ちなら婚約者を喜んで差し出すんだろうけどね。それで応じるの?応じないの?」

「無論応じる、「日」の加護を持つ俺様が「人」の加護の貴様に負ける訳ないからな。例え貴様が努力していてもこの差は覆しようが無い」

「井の中の蛙だねぇ・・・いいよ、じゃあ正式な書面にして提出してよ、後であんな事を約束して無いとか言い出されても面倒だしね」

「貴様・・・皇太子である俺様が嘘をつくとでも思ってるのか?」

「うん、思ってるよ。外交なんて化かしあいだしね。それが分からないなら、どっちにしても君は国王に向いてないよ」

「クッ・・・吠え面かくなよっ!」


 周囲が呆気に取られている間に僕が商品となる決闘が行われる事になった。頭の中では「けんかをやめて」という前世の上司の奥さんの18番であるカラオケソングが頭を巡っていた。

 別に色目なんて使ってないんだけど、どうしてこうなった。


△△△


「1対9だって、ちなみにバーニィが1ね」

「9倍かぁ・・・じゃあ金貨1万枚賭けておこうか、あまり旨味が無いと思われると賭けるの人が減っちゃうから」

「そうなると4対6ぐらいになるね」

「うん大体3対7になるよう賭け金を維持していってよ」

「了解、ほぼ総取りになっちゃいそうだね」

「それが狙いだからね」


 決闘は武器と魔法とアイテムの使用が全て自由で殺害もOKという全てアリアリルールで行う事になった。国宝級のとんでも無い武器や装備を持ち出して決闘を行うつもりなのだろう。

 バーニィは条件に、相手の武器や防具やアイテムは勝った方が所有権を持つというものを追加させた。万が一奪われたら困るような恐ろしいものを使ってこないように牽制するためらしい。


「バーニィはどんなものを使うの?」

「一応見栄えがするよう、ワイバーン皮の鎧にアダマンタイトの短剣を持つよ、相手が不壊属性の武器を持ち出す可能性があるから、収納リングに入れてる大剣使うかもしれないけどね」


 アダマンタイトの短剣はオルクダンジョンのラスボス戦のあとの部屋に再ドロップしていた宝箱の中に入っていた短剣だ。僕の持っている短剣に形が似ていて、マシロが平時に腰に差している。


「僕の短剣も持って行く?」

「借りようかな。あれは切れ味良すぎて、相手の武器や防具を壊しちゃうのが勿体ないけど、勝つほうが大事だしね」


 出し惜しみして負けたら叶わない。なにせ僕自身の貞操がかかっている、バーニィには必ず勝って貰わなければならない。


△△△


 決闘が行われるのは王立闘技場で、無制限の試合であるため宮廷魔術師数十名が結界を張って維持するらしい。


「キューキュー」

「ウサたんがズルがあるって言ってる」

「どういう事?」

「あそこの宮廷魔術師達がウザい男に結界を張ってるって」


 なんて酷い試合だ。決闘は正々堂々という言葉が聞いて呆れる。


「マギ君の父親が指揮してるから宮廷魔術師団ね・・・」

「何それ、組織のトップが不正してるの?」

「組織どころか国ぐるみかもね」


 最近父親が贋金のせいで降爵して伯爵令嬢になったリーナが国ぐるみの不正だと教えてくれた。

 

「宮廷魔術師団がズルをしてる!」

「なに?」

「カール殿下の方に結界を張ってるよ!」

「はぁ?王家がイカサマしてるのか!?」

「そんなズルをして勝った相手なんて絶対に好きにならないからっ!」


 僕の風魔術で拡散された商品である僕の叫び声は会場中に響き渡り騒ぎになった。騎士団が収めようとするけれど興奮は収まらない。特に貴族派の貴族が騒いでいる。国王派と違い、王家の力を削ぎたい集団だからだろう。

 貴族派の貴族は嫌な奴だと聞いているけれど、王家の独裁を防ぐ意味では必要な派閥ではあるようだ。


「ちゃんと公平にやれっ! 余に恥をかかせるなっ!」


 観客席にいたエメロン国王が大声をあげた。もしかして宮廷魔術師団長の暴走?部下の管理はしっかりしてよね。


「目をつけられるわよ?」

「ダンジョンを狙って仕掛けられているなら、もう手遅れだよ、それより貞操の危機の回避が大事」

「それそうね」


 ほんと人の貞操を何だと思ってるんだ。もしこれでバーニィが負けてあの勘違い男に襲われたら、国王も含めて関係者の股間を何度も蹴り上げて、跡取りの作れない体にしてやるからな。

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