第71話 勘違い系は気色悪くて嫌いだ

「前世の僕の最後は寂しいものだった。リナは恋人に殺され、両親はそれによって壊れてしまった。結婚する事も無く、最後は病院・・・こちらでいう診療所で独り寂しく死んだ」

「うん」

「だから、今いっぱい家族がいることが嬉しいんだ」

「うん」

「僕はフローラの子供が欲しい」

「私もお兄ちゃんの子供が欲しい」

「でも僕にはフローラに子供を授けてやれない」

「うん」

「だからバーニィの事を考えて欲しい、僕もバーニィを思うようにしていく。そうしたら子供が出来るような事が出来るかもしれない」

「・・・分かった・・・でも始めてはお兄ちゃんと2人きりが良い」

「分かった」


 僕はバーニィの方に目を向けた。バーニィは微笑をしながらそれを聞いていた。


「こんな僕とフローラだけど大丈夫?」

「うん、僕は2人の間に入っていった。だからそれで充分だよ。僕はアニーから女として愛して貰えるよう。僕はフローラから男として愛して貰えるようにするよ」


 バーニィはとても穏やかな顔をしていた。何か諦観をしたような穏やかな、でも儚げな顔だ。もしかしたらこれが前世の女の子だった時の顔なのかもしれないと思った。


△△△


 2日後に体調が回復始めたため学園に復帰した。学園では僕とフローラとバーニィとリーナの件で不穏な噂が流れていた。何やら僕がアリーナの部屋でバーニィが不倫している所を目撃して逃げ帰り、そのあとフローラが激怒して怒鳴り込んだというものだ。


「えっ? 違うの?」

「うん、ほら女性のアレでなんか不安定な日に変な冗談を言われて、悲しくなっちゃっただけなんだよ。普段僕だったらその場では怒るけど、すぐに笑って許せるようなものだったんだけどさ」

「学園を休んでいたのもそれが理由?」

「そう、僕のって結構重いんだ」

「そうなのね・・・私も重いからなんとなく分かるわ」


 不穏な噂が流れているのに、僕とフローラが笑顔で、バーニィとも仲良くしている事から、カタリナが僕に噂の真相を聞いてきたのだ。


「僕もリーナも浮気なんてしてないんだけど、状況的に痴話喧嘩したとしか思われなかったんだよ。場所が悪かったね・・・僕も不用意にエカテリーナ嬢の部屋に立ち入った事を反省したよ」

「なるほど・・・ではエカテリーナさんが謹慎状態なのは可哀想ですわね」

「カールとの婚約解消が成立するまで大人しくしていた方が良いというのは確かだよ。誘拐事件の犯人も捕まって無い訳だしね。味をしめた犯人にまた襲われる可能性はあるからさ」

「それもそうね、マグダラ公爵は国内一の鉱山を持つ大金持ちですものね」


 マグダラ公爵家の鉱山が枯渇寸前という噂は、まだ知られていないようだ。豊かな鉱山があるのに税が重く、領民に恨まれているから狙われたんだという噂が以前立っていたし、義憤にかられた何者かがリーナを誘拐したと思われているようだった。


「それよりエリスお姉さまには随分とお世話になったよ。何度も何度も部屋を訪れて優しく声をかけてくれるんだ」

「リーナさんとフローラさんはお姉さまに気に入られていますものね」

「うん、あの大きな胸に抱かれるとフワフワと気持ちが楽になるんだよね」

「そうなんですのっ! 私もお姉さまのようにそうやって他人を癒せる存在になりたかったんですのっ!」

「でも今は?」


 僕がニヤニヤとマギと談笑しているブレイブの方を見ると、カタリナは顔を赤くして俯いてしまった。どうやらその胸をブレイブ甘える事に使う作戦は大成功しているようだ。


△△△


 僕が学園に復帰した5日後にリーナとカール殿下の婚約解消が発表され、リーナが教室に現れるようになった。


「不用意な事を言ったわ、ごめんなさい」

「いいよ、僕も体調が悪い日で不安定だったんだ」

「それはエバンスから聞いたわ、かなり重いんですって?」

「うん、酷い時は3日ぐらい起き上がるのも辛いんだ」

「そうなのね・・・何かあったら協力するから声をかけてね」

「ありがとう」


 僕と復帰したリーナが仲よさげに話しているからか、バーニィとリーナの不倫の噂は1年S組の中では完全にとけたようだ。

 まだ校内浸透している訳ではないけれど、自然とおさまってくれるだろう。


「アニー嬢、少し話がある」

「はい何でしょうか?」


 リーナと話が終わるとカール殿下が声をかけてきた。貴族同士で話をする時は、上位者側から声をかける決まりがあった。明らかに親しくなっている状態ならば許されるのだけれど、そうでなければ平手打ちを受けてしまうらしい。

 学園にいる間はそのへん免責されているのだけてど、あまり弁えないでいると周囲から白い目で見られるそうだ。

 僕は男爵家とこの学園に通う中ではかなり低い階級となる。だから基本的に自分から初対面の誰かに話しかける事はしていなかった。

 カール殿下から声をかけられたのはこれが最初なので、話す事はこれが最初ということになる。


「バーナードとエカテリーナが浮気をしていた事実は本当に無かったのか?」

「ありませんよ?」

「ではなぜあんな騒ぎになったんだ?」

「僕が冗談を真に受けて泣いてしまったんです。私が泣いて帰ったのでフローラが怒ってくれたんです」

「その冗談とは何だ?」

「プライベートな事なので話せません」


 話せる訳ないよな。目の前の男を落とす方法を話していたなんてさ。


「話せ、命令だ」

「お断りします」

「なに?」

「他人の秘密にしたいプライベートを聞くなんて殿下はデリカシーが無いですね」

「何だと!?」

「女性に嫌われますよ、リーナと婚約解消して新しい人を見つけないといけないんですよね?」

「お前に言われるまでもない」

「では女性に好かれるようにして下さい。王子の婚約者という餌に釣られた羽虫ばかりが近寄る事になりますよ」


 なんとなく前世の社長の息子の事を思って忠告した。あいつ、あんなに満面の笑みで結婚したのに托卵されてたんだもんなぁ。


「お前のような女は初めてだ・・・」

「そうですか、それはご愁傷さまです」

「貴様の事は覚えておいてやろう」

「別に良いですよ、ただの男爵令嬢程度なんですから覚える価値はありませんよ」

「フッ・・・」


 キザったらしく去っていくカール殿下を見て鳥肌が立った。ああいう勘違い系は気色悪くて嫌いだ。

 社長の息子はあんなに気持ち悪い男じゃ無かったけど、こっちの勘違い系は違ったようだ。社長の息子をカール殿下なんかと似てるなんて思って悪かったよ。

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