第70話 立ち向かう強さが必要

 泣きつかれて寝て朝になったら体調は最悪だった。どうやら生理になってしまったらしい。

 最近は生理でも体調はそこまで酷くはならなかったのだけれど、今日は体調不良に抗って起き上がる元気が無くる程の状態になっていた。


「チー(元気出して・・・)」

「キュー」

「お兄ちゃん・・・」


 フローラ僕を見ながら目に涙を溜めている。


「大丈夫、生理が始まってしまっただけだよ、久しぶりに起き上がれないみたいだ」

「お兄ちゃん愛してる」

「僕もフローラを愛してるよ」


 フローラが僕にキスをすると、フローラの目から貯めていた涙が僕の鼻の上にポタっと落ちた。


「悲しい時にキスをしたらだめだよ、幸せな時にしないと」

「お兄ちゃんに愛してるって言われて幸せだったんだよ」

「それなら笑って、僕はフローラの笑った顔が好きなんだ」

「私もお兄ちゃんの笑った顔が好き」


 僕とフローラは泣きながら笑って何度もキスをした。下着の股の所がどんどん血で濡れていき気持ち悪く不快だけど、フローラの涙と唾液で顔が濡れていくのは気持ち悪く無かった。


 部屋の扉がノックされて「僕だけど・・・」というバーニィの声が聞こえた。


「帰って!」

「待って、フローラ、バーニィに入って貰って」

「何でっ!?」

「逃げて良いことなんてないよ。僕にはもっと立ち向かう強さが必要なんだ。あんな事をされても平気でいられる強さが」

「でも・・・」

「体が女になる前なら、泣いて逃げたりなんかしなかったよ。怒ったあとすぐに笑ったと思うんだ」

「うん・・・」

「フローラお兄ちゃんはそういうお兄ちゃんだろ?」

「私はどっちのお兄ちゃんでも関係ないっ! どっちのお兄ちゃんでも愛してるっ!」

「僕は、昔の僕の方が好きなんだよ」

「だから立ち向かうの?」

「うん・・・だってフローラが泣くところなんて見たく無いから」

「お兄ちゃん・・・」


 フローラは自身の涙跡を袖でゴシゴシとこすってから、少し引き攣った笑顔を作った。


「バーニィを入れてあげて」

「うん・・・」


 フローラは部屋の扉の施錠を外して開けるとバーニィを部屋の中に招き入れた。


「ごめんなさいっ!」

「うん良いよ、僕も泣いて逃げるなんてらしく無かった、ちょっと生理の日で体調が悪かったんだ」

「それでそんなに顔が青いんだ・・・」

「うん、僕、生理が結構重いんだ。始まったばかりの時もこんな感じに動けなくなっちゃってたんだよ 」

「知らなかった・・・」


 フローラは僕が穏やかなな様子である事に安心したのか、ポットに魔術でお湯を作り注ぎ始めた。ポットの中には僕が生理が酷い時にマリア母さんが淹れてくれた薬草茶が入っているらしく、その独特の香りが部屋中に広がっていった。


「バーニィも僕と同じで心と体が逆だろ?だから僕だけ被害者ぶるのは間違っているんだ」

「私は心臓が悪くて体が大きく成長しなくて、生理も来なかったんだ。だから女になる前に男になったからそこまで違和感はないんだよ」

「そっちの方が辛いじゃないか。僕はこれでも前世は老人になるまで生きたんだよ。最後は病院で死んだけど未練もなく死ぬことが出来た。しかも次の生も体の性別の違おはあるけれど丈夫に生まれた。だからこれぐらいの体調不良は小さなハンデだよ」

「僕は今一番幸せなんだ、健康な体と可愛い婚約者が2人。だからこれからも続けていきたいんだ、アニーとフローラを愛しているんだ」

「それは男として女を?女として男を?」

「両方から両方だよ、僕にとって人生は前世も今世も自身の性別が曖昧だった。そして愛する人は前世と今世を合わせてもアニーとフローラだけなんだ」

「そっか・・・」


 フローラが僕に茶を淹れて持って来てくれた。フローラはお茶を口に含むと、僕の上体を抱えて口移しでお茶を飲ませてくれた。


「フローラにとってバーニィは男?それとも女?」

「私にとって男はお兄ちゃんだけ、他の人の性別は特に意識していない」

「そっか・・・」


 フローラは女だ。けれど僕と男としてちゃんと見てくれている。


「僕はバーニィを女として見れるようにならないと恋愛は出来ないと思う」

「うん・・・僕はそれで良いよ、僕はこれからアニーだけの時は前世のような女の子になってみる」

「前世での名前は何?」

「マシロ・・・産まれた時に酸欠で顔がどす黒くなってて、そのあと真っ白になったんだって」


 友人の赤子がへその緒を2周首に巻いて産まれて、どす黒い顔で産まれたって言ってたな。

 バーニィもそんな感じだったのかな。


「分かった、バーニィが女だなと思ったらマシロと呼んでも良い?バーニィという名前だと男にしか思えないんだ」

「うん、分かった、僕は名前をマシロに変えるよ」

「そんな事が出来るの?」

「うん、リンガ帝国は幼名制度があるんだよ。成人後に改名しても大丈夫」

「そうなんだ・・・」


 名前を変えられたとしても、自分は改名まではしたいと思わないな。マシロもアダ名みたいな感じで考えていたからさ。


「ヤハイエ聖国の人は洗礼名を持っているよ。ビリーも確かサミュエルって洗礼名持ってたよ」

「かっこよすぎてビリーに似合わないね」

「前世のビリーを知っているからそう思うだけでしょ?」

「ううん、見た目だけなら前世の方がかっこよかったよ」

「えっ?そうなの?」


 そう、ビビリンは前世、モデルになれるんじゃないかっていうほど顔とスタイルが良かった。上がり症で注目されるのが嫌だからならなかったけどね。

 高所恐怖症、先端恐怖症、対人恐怖症を持ち、下戸で、沢山の食物アレルギーを持ち、外食がまともに出来ないというハンデを持っていた。

 顔とスタイルの良さの変わりにそういうものを背負わされたのかと思っていた。


「性格が色々ビビりだから付き合ってもすぐに別れちゃうんだ、別れるときは女に酷い目に合わされて二次元しか愛せなくなったと言ってたな」

「だからエロゲマスターで包容力のある年上の女性が好きになったって事?」

「かもしれないね」


 ビリーの話をしていて気持ちはあがって来たけど、体は言うことを聞いてくれないらしく起き上がろうとすると動悸が早くなり強い頭痛が襲って来た。


「フローラ」

「なぁに?」

「僕とリーナとバーニィには前世の記憶がある。僕は69歳で死んだ男だった。リーナ・・・いやリナは24歳で死んだ僕の妹だった。そしてマシロは20歳で死んだ女の子だった」

「・・・リナは妹?」

「うん、僕とフローラのように仲は良くなかったけどね」

「・・・うん・・・」


 フローラは僕の妹である事にもこだわりがある。だからリーナが前世で本当の妹だった事はショックがあるかもしれない。

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