第62話 胸に視線が行く理由
「ウサたん、チーたん、行くよ」
「キュー!」
「チー!(ワーイ!)」
旅裝から貴族と言えるけれどカジュアルな服装に着替えて出かけた。僕はもう胸の大きさのせいで男物の服を着ると違和感しか無くなってしまったので、無理やり着ていた男物の服はナザーラ街に置いてた来た。
「お兄ちゃん可愛いよ」
「ありがとう、フローラはもっと可愛いよ」
「エヘヘ・・・」
昔は可愛いと言われると嫌だったけれど、フローラから言われるときだけは胸の中が熱くなって嬉しくなるので受け入れている。
「お嬢ちゃん達何か探しているのかい?」
「王都では何が売ってるんだろうとブラブラと見ているだけだよ」
「なんだ、外から来たのかい」
「うん今日来たばかりだよ」
「もしかして学園生かい?」
「うんそうだよ」
「小綺麗な嬢ちゃん達だと思ったら貴族様だったのかい」
「僕はずーっと北の田舎の村に居たから平民と余り変わらないよ、フローラは最初からお嬢様だったけどね」
「そうかいそうかい、でも王都は面白いものが集まるけど悪い事する奴も多いからね、注意するんだよ」
「うん、ありがとうおじさん」
なんか親切そうな露天商のおじさんに声をかけられた。売っているものは葉野菜なので、今日買いたくなるものでは無かった。
「チー!(あれ食べたい!)」
「うん? あれ? さくらんぼだ! こっちだとこんなに早く出回るんだね」
ナザーラ領やエルム領で、さくらんぼが出回るのは2月後ぐらいだ。王都は南方で標高も低く気候が暖かいから、旬に違いがあるみたいだ。
「キューキュー」
「ウサたんも食べたいみたい」
「かご3つ分買っていこう、僕たちのおやつだけじゃなく、ウサたんやチーたんの食事に丁度いいしね」
「チー!(ワーイ!)」
ウサたんは1日10粒でチーたんは3粒ぐらいしか食べないだろう。1かごで50粒ぐらいあるので3カゴもあればかなり楽しめるだろう。
「3カゴ下さいな」
「おや、随分と可愛らしいお嬢ちゃん達だね、うーん銅貨60枚だが・・・50枚にまけとくよ」
「ありがとうお兄さん」
「ははは、お兄さんていう歳でもないよ、はい半銀貨で丁度だね、おまけに10粒つけるから歩きながら食べな」
「ワーイ」
なんか色々オマケされ過ぎな気がするけど良いのかな、実際にさくらんぼはナザーラの街で買う時の4倍も高い。ボッたくられた感じはしないので王都価格なのだろう。
「とりあえず僕とフローラは3粒づつ、ウサたんとチーたんは1粒づつだね、食べ終わってまだ食べたかったら言ってね」
「うん」
「キュー」
「チー(はーい)」
ハンカチでキュッキュと拭いてから口に含むとほのかな甘さと少し強い酸味が口に広がった。僕たちのところで食べたさくらんぼより小粒で味が淡くて酸味が強い感じだ。
「キューキュー!」
「チー!(おいしー!)」
「少し酸っぱいけど美味しいね」
「うん爽やかな味だね」
種をハンカチの上にプッと吐いて軸もそこに置いた。
「フローラもここにペっとしな」
「うん」
ナザーラ領にいるときなら、鉢植えに植えて苗木を作って、公園に植樹していたけれど、残念ながら王都でする事は出来そうも無い。
「キューキュー!」
「ウサたんがもう一粒欲しいって」
「チー(お腹いっぱい)」
「はいウサたん」
最初の頃と大きさの変わらないチーたんと違い、ウサたんは結構大きくなっている。昔はリスぐらいだったのに、今はミニウサギぐらいの大きさがある。その分食べる量は増えていた。
「お嬢ちゃん達可愛いねぇ、お兄さんと遊ばない」
「遠慮します」
「連れないねぇ、良いじゃないの、少し遊ぶだけだよ」
「臭い、キモい、近寄るな」
「このガキっ!」
「キャー! 痴漢よっ!」
「おっ・・・おいっ! 何もしてねぇだろっ!」
「私達そういう女じゃありませんっ!」
ナンパをしてきた奴に非難するような目が降り注ぐ。
「お嬢ちゃん達大丈夫かい?」
「このおじさん怖かったですぅ」
「お・・・おいっ」
「お前ちょっと向こうに行こうか」
前世の女友達が使っていた、痴漢冤罪によるナンパ撃退術を見様見真似でやっただけだが効果は抜群だった。
「災難だったね、ほら飴玉やるから元気出すんだよ」
「ありがとうお兄さん」
「お兄さんって、そんな歳じゃないんだがな」
なんだろう、女の子の格好をしているからか、おじさん達があり得ないぐらい優しい。なるほど、こういう環境を当然のように享受してきた女の子が大きくなると、勘違い系の痛い女になるんだな。
「お兄ちゃんすごいね」
「何が?」
「みんなお兄ちゃんにメロメロになるよ」
「えっ?お嬢ちゃん達って言ってたしフローラもだろ?」
「ううん・・・みんなお兄ちゃんの胸をチラチラ見てたよ」
「えっ?そうなの?」
「うん・・・」
「まぁ仕方ないよ、減るもんじゃ無いし好きに見たら良いよ」
「お兄ちゃん大胆」
「僕は男だからね、気持ちは分かるんだよ」
「ふーん・・・そっかぁ・・・」
フローラが何か納得したような顔をして頷いていた。
「お兄ちゃんが時々私の胸に視線が行く理由が少し分かったよ」
「えっ?目線行ってた?」
「うん」
そっか・・・前世で男だった時の癖はこっちでもちゃんと残ってたんだな。最近少し前世が男であった事に自信が無くなって来ていたけれど、ちゃんと男だったと見直す事ができたぞ。
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