第63話 覚悟は出来ている(エカテリーナ視点)

「マグダラの姫はしかと学園に返したぞ!」

「う・・・うわぁっ! あの時の誘拐犯だっ!」

「キャーっ! 助けてっ!」

「リーナっ! 無事だったの?」

「まさかマグダラ公爵令嬢!?」

「リーナお姉ちゃん!」

「おいっ! 衛兵を呼べっ!」

「エカテリーナさん、とりあえず僕の上着を・・・」

「あ・・・ありがとう・・・バーナード殿下」

「あの男はどこに行ったっ!」

「ママぁ〜」

「生きてたのか・・・」

「誘拐犯を捕まえろっ!」


 私は入学式の最中に誘拐犯に化けたエバンスお兄ちゃんによって、挨拶中の学園長の影から舞台上に投げ出された。髪は短く切られてボサボサで服は下着と薄手の貫頭衣のようなものしか身につけていない。

 誘拐犯に化けたエバンスお兄ちゃんは舞台袖に走り去り、急いで駆け寄ったバーニィが自身の上着を被せてくれた。

 その後走り寄って来たアニーとフローラも上着を下半身の部分かけてくれ、女性としてあるまじき羞恥ものの格好では無くなった。


 カール殿下は放心状態を装った私に近寄っては来なかった。婚約解消待った無しではあるけれど、最後に男気ぐらいは示して良いのではと思った。


「保健室に連れていくよ、アニーとフローラはエカテリーナがあまり見られないように目隠しになって」

「うん」

「分かった」


 バーニィが私をお姫様抱っこをして、エリーとフローラが私の足にかかっていた自身の制服の上着を広げて周囲の目隠しを作った。


「随分痩せたね」

「10日間殆ど食べて無いの」

「なるほど・・・」


 誘拐されている状態である事に信憑性を持たせるために、私はバーニィが用意した隠れ家にいる間、水と少量の塩しか摂取せずに過ごした。


 バーニィによって保健室に運ばれてベッドに寝かされると、保健室にカール殿下と共に、入学式の来賓として来ていた国王陛下と護衛らしい大人たちが入って来た。


「エカテリーナ嬢、無事だったか」

「陛下・・・はい・・・ただ髪を切られてしまいました・・・」

「あぁ・・・可哀想に・・・」


 貴族女性にとって手入れされた髪は美しさの象徴でもあり、命より重いという人もいた。


「生きていたのか」

「はい、カール殿下、なんとか生きながらえました」

「そうか・・・」


 カール殿下にとっては、生きていた事がショックだったようだ。死んでいた方が恋人と死に別れた可哀想な俺様ポジでいられるもんね。残念でした。私は死にません。


「今日はゆっくりと休むが良い、これからの事は後で話そう」

「陛下・・・お気遣い頂きありがとうございます」

「うむ・・・」


 陛下の退室に合わせてカール殿下も外に出ていった。


「僕とフローラは寮に戻ってリーナの着替えになりそうなものを取って来るよ」

「お願い」


 急ぎ足でアニーとフローラが保健室を出ていった。

 保健室に居るのは、私とバーニィと保険の先生だけになった。


「先生、リーナは10日間まともに食べていないそうです、何か食べさせたいのですが、学食から何か貰って来て良いですか?」

「あぁ、パン粥を作らせて持ってきてくれ、ロジャーがそう言っていたと言えば作ってくれるからな」

「はいっ」


 バーニィも保険室を出ていき、保健室の先生と二人っきりになった。


「あの3人は知り合いかい?」

「はい、アニーさんは私と同じ「日」の加護を持っている方です。加護のせいで狙われていたためフローラさんのご実家に保護されていました。その時に私は文を通じて仲良くなりました。その後実際にお会いしてお友達になりまそたの」

「なるほど・・・」

「お二人ともとても魅力的な方だったので、カール殿下を通じて知り合ったバーナード殿下にお話をしたら、バーナード殿下は2人に会いに行かれて、そのまま気に入り婚約をなさったのですわ」

「あんなパニックになっていた状態ですぐに駆けつけ冷静の対処しここまで運ぶ、こんな事は普通の15歳には出来ない、確かに素晴らしい友人だ」

「はい・・・自慢の友人です」


 こんな危ない橋を一緒に渡ってくれる人が他にいるだろうか。探せばいるかもしれないけど下心ありな気がする。


「これから君には試練があると思う・・・」

「カール殿下との婚約解消ですよね」

「・・・あぁ・・・分かってしまっているんだね・・・」

「はい、さらわれた直後に助けられていない時点で傷物になったとみなされたと覚悟を決めていました」


 それを狙ってこの狂言誘拐を行ったのだ、覚悟は出来ている。


「学園に通っていれば誹謗中傷を受ける事もあるだろう」

「はい」

「学園を辞めても誰も文句を言わないと思う」

「いえ、私は父とは折り合いが悪いのです。戻ったら監禁されたうえ、酷い結婚を組まされるかもしれません」

「そうか・・・困った事があったらこの保健室に来てもいいからな、頼れる友人達も連れて来てもいいぞエカテリーナ嬢」

「はい、ありがとうございます・・・えっと・・・」

「ジーロン・マースだ」

「ありがとうございます、ジーロン先生」


 保健室の担当教諭は良い方のようだ。下心があるかもしれないので警戒は必要だけどね。


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