第59話 確認するのはあとで
「なるほど、この身代金を要求する手紙を送ればいいんだね?」
「お願いするわ」
リーナが誘拐されてしばらく経ったあと、リーナから渡されたのは、自身の身代金を王家とマグダラ公爵家に要求する手紙だった。
2通とも読ませて貰ったけれど、内容が随分と違った。
マグダラ公爵家の手紙には、以前マグダラ公爵家の宝物を盗んだのは自分で、その時に同時に奪った鉱山の収益に対する粉飾の証拠を、王家に渡されたく無かったら身代金を用意しろと書かれていた。
王家には、マグダラ公爵家の鉱山の粉飾に関する証拠を持っている、それが欲しければ身代金を用意しろと書かれていた。ご丁寧にも王家への手紙にはその証拠の写しの一部まで書かれていた。
マグダラ公爵家から王家へ上がった鉱山収益の報告書と食い違いがあることに気がつくだろう。マグダラ公爵家は鉱山の収益に沿った税を王家に納める事になっているため、粉飾の内容如何ではかなり重い罰が下されるだろう。
鉱山を適切に管理できていないと言われ、王家に取り上げられてしまう恐れすらあるそうだ。
「ふーん・・・王家にとっては厄介な貴族派への牽制と、マグダラ公爵家の重要な収入源を押さえる事が出来る訳か」
「ウフフ・・・そうね・・・」
「まだ何かありそうだね」
「それは秘密」
それにしてもマグダラ公爵家の鉱山の収益は結構すごい、オルクダンジョンからあがる収益の6割ぐらいあるらしい。僕たちナザーラ男爵家はその3割ぐらいなので・・・えっと・・・0.3÷0.6で・・・2? つまりマグダラ公爵家の方がうちの倍ぐらい経済力があるのかな?
「じゃあこっそり届けて来るから」
「気をつけてね」
身代金の受取場所は、マグダラ公爵家が、鉱山の汚染された排水により人が住めなくなった村の枯れ井戸の中。王家が帰らずの森の近くにある、魔物のスタンピードによって滅びたとされる古代の遺跡跡だ。
どちらも周囲に木が生えていて空間転移で行きやすい場所であるため選んだらしい。
身代金は土魔術使い放題になる剣を持っているバーニィが地下から回収しに行く事になっている。
受取場所は周囲が見張られていることが予測されているため、ウサたんの察知能力を期待して、フローラもバーニィについていって、穴の方向の確認と見張りの状況を中継する。見つかって戦闘になる可能性も考え、僕は2人が入っていく穴の周囲を見張る役となっている。
僕の周囲の見張りは密かにチーたんが上空から監視してくれるので、よほどの事態でなければ大丈夫だろう。なにせ全員レベルはカンストしているのだから。
△△△
「キューキュー」
「指定場所に皮のカバンが置かれている」
「じゃあ行こうか」
「気をつけてね」
フローラとウサたんとバーニィは帰らずの森の奥から地面に掘られた縦穴を飛び込んでいった。既に廃墟近くまで掘っているためあとは少しだけ繋げるだけだ。
帰らずの森に侵入する事は、魔の森のトレントの長老を経由し帰らずの森のトレントの長老と話をする事で可能となった。
代わりに帰らずの森のトレントの長老に寄生しているカミキリムシの幼虫っぽい魔物の駆除を依頼されてする事になった。
幼虫を駆除したあと、チーたんの能力で回復したトレントの長老は上機嫌になり、僕たち精霊を渡そうとしたので、リーナとエバンスに与えて貰った。
エバンスは精霊を通じて外を見ることが出来るようになり涙を流して喜んだ。
そのあとエバンスはリーナの方を見て「美しい・・・」と呟いたあと、恥ずかしくなったのか赤面し俯いていた。
「チーチー(異常なーし)」
「森の中までは監視できないみたいだね」
誘拐犯が帰らず森の中からやってくる事を想定して、森の際では王国の兵士らしい人が監視していたけれど、中に入って来ることまではしなかった。帰らずの森と名付けられるように、この森は魔の森や迷いの森に匹敵する魔境として恐れられている場所だからだ。王家は何度も入植を試み失敗しているらしく、先代のエルム男爵が魔の森の近くであるべヘム村を作ったと聞いた王家は、懐疑的な言葉をかけ、スタンピードに備えよと忠告したらしい。
「回収してきたよ、バーニィは穴を塞ぎながら戻って来るから待っててって、あと探知の魔道具が入ってるかもしれないから開けて確認するのはあとでだって」
「了解」
探知の魔道具なんてあるんだ、そりゃ警戒が必要だ。
△△△
「マグダラ公爵からの身代金は下の方は贋金だよ、デザインが潰れてて変だし重さも微妙に軽い気がしたから曲げてみたらペリッと金が剥がれた」
「バレたらリーナが殺されるって思わなかったのかな?」
「実際にお金が無かったかもしれないわ」
「お金が無い?」
「どういう事なの?」
「鉱脈が枯れ始めているのよ」
マグダラ公爵領でも同じ要領で身代金を回収し、バーニィによって案内されたヤハイエ聖国にある山奥の廃教会で収納リングから身代金を出した。ここなら探知の魔道具があり位置が特定されても問題ないらしい。山奥だから電波の通りが悪いという感じの場所なのだろう。
「王国の身代金は本物っぽいよ、あとこれって探知の魔道具?」
王国の身代金が入ったカバンを調べていたフローラがカバンの底の部分から怪しい魔道具を見つけたようだ。
「本物を入れたって事は粉飾の証拠が欲しいんでしょうね」
「そして鉱山を取り上げたいんだろうねぇ」
「枯れ始めてるのにねぇ・・・ウフフ」
なんかバーニィとリーナが同じような悪い顔をしているな。
あれ?もしかして枯れかけた鉱山を餌に王家から身代金をせしめたのか?
「それでリーナは悪い顔をしてたのか・・・」
「悪い顔って何よ」
「さっきもウフフって言いながら、口の端だけ上げた怪しい顔してたぞ」
「えっ! 私そんな顔してるの?」
「してるしてる」
まぁ顔が良いからか悪の組織の女幹部って感じで映えるけどね。
「粉飾の証拠はしっかり身代金をくれた王家に渡すって事で良いわね、ついでに公爵が作った贋金も王家へプレゼントしましょうか」
「あれ?贋金作りって・・・」
「子爵以下なら死罪、伯爵以上なら二段級降爵と当主交代で領地は転封ね」
「うわぁ・・・リーナ良いの?」
「あの地は別の人に治めて貰った方が良いわ、大洪水が起きかねない危険な土地なのに、ここ十数年まともな治水をしていないのよ」
「そうなんだ・・・」
良く分からないけど、リーナも色々大変だったんだな。
「この探知機はどうするの?」
「これは僕が処分するよ」
「何か使い道があるの?」
「まぁね」
なんかバーニィもますますリーナみたいな悪い顔してるな。
「バーニィもリーナみたいな怪しい顔してるよ」
「実際に悪い事考えて居るからね〜」
「えっ・・・私こんな顔してるの?」
「うん、似てる」
「僕とリーナは同類なんだよ」
「ショックだわ・・・」
狂言誘拐の共犯者になってる僕がいうのも何だけど、リーナとバーニィはこんな事をずっと前から計画し話し合っていたそうだし、こういう裏で暗躍みたいな事が好きなんだろう。僕やフローラと違って頭が良いみたいだしね。
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