第57話 ただのモラハラ男だと思う(エカテリーナ視点)

 15歳になり誘拐される準備を進めていった。まず私はマグダラ公爵に王都屋敷から学園に通うのではなく寮に入ると言った。

 私はカサバ芋の件でマグダラ公爵と険悪な関係になっており、他の奴らからは腫れ物を扱うような態度を取られていた。だから距離を置きたいという私の態度はマグダラ公爵も理解した。


 本来寮は王都に屋敷を持たない地方の下級貴族家の子弟の為にあるので、王都に屋敷を持つ公爵家令嬢が入るのは外聞が悪い。けれど宝物庫から財を持ち出した事で、応接間や客間など外部の人を招く際に見られる場所以外の装飾品がかなり寂しくなっていて、見すぼらしくなっていた。

 実際に王都の屋敷から、私の送り迎えの為の使用人を新たに雇い入れるより、私が学園の敷地内の寮に入り徒歩通学させた方が、下級貴族でも払える範囲に設定しているため安上がりだった。

 鉱脈はまだ残っているらしいけれど採掘量は減少していていて、資金繰りが悪化しだしていた。

 マグダラ公爵家にとって、私が寮に入ることは資金的にはかなり都合が良いことではあった。


 マグダラ公爵の中では色々な計算が渦巻いたようだけど、家宰の耳打ちによって私が学園の寮に入る事が認められた。

 お金は入寮時に一括払いと月ごとの分割払いがあるらしいけれど、さすがに分割払いは見栄が悪すぎたのか、マグダラ公爵は一括で支払っていた。

 1番安い相部屋でも良かったのだけれど、マグダラ公爵は使用人控室もある1番豪華な個室を手配していた。

 1番安い部屋では外聞が悪すぎると考えたようだった。


△△△


「王宮では大人しくしているんだぞ」

「分かっておりますわお父様」


 王城で開かれる新春の宴の日になった。

 私はデビュタントの日以降、王宮のパーティーへは、カール殿下のエスコートを受けて向かうため、マグダラ公爵と同じ馬車で向かうことは無くなっていた。


「エバンス、行ってくるわね」

「行ってらっしゃいませお嬢様」


 多くの使用人たちが屋敷の前で整列して見送りする中、私はエバンスお兄ちゃんだけに声をかけてカール殿下の手を取り馬車に乗り込んだ。


「まぁまぁじゃないか」

「ありがとうございます」


 もっと女性を立てるように褒めれば良いのに、俺様系のカール殿下はこの程度が限界らしい。ゲームではヒロインに「俺様の為に着飾ったのか」とか「頑張った方じゃないか」とか「俺様が選んだ衣装だし当然か」とか上から目線の発言ばかりで、立場と顔の良さが無ければ、ただのモラハラ男だと思う発言しかしなかった。

 それだからパケ絵では最高で固有の攻撃エフェクトもカッコよくて、序盤から強くて使いやすいと評価を受けていたのに、プレイヤーによる攻略対象の好感度ランキングで4位と微妙なのよ。


「学園では寮に入るらしいな」

「えぇ、少し家とは折り合いが悪いものですから」

「それもそうか・・・まぁ不便な生活を楽しむのも良いんじゃ無いか?」

「私、自分の身の回りの事は殆ど出来ますのよ?」

「そうなのか?それは知らなかった」


 前世では平民だったし、エルムの街にいた頃は結構自由に過ごせたので身の回りの事はしていた。厨房に入り、前世の料理の再現をさせてもらったりもしていたぐらいだ。


「エルム子爵様の街にご厄介になっていた時は、今より自由でしたのよ?」

「なるほどな・・・でも王宮に入ったらそうもいかなくなるぞ」

「それは存じておりますわ」


 度々王宮に招かれて王妃教育を受けているため、その辺の窮屈さは良く知っている。王宮に入るつもりなどサラサラ無いので形ばかり受けているだけだったけど、知れば知るほど王妃とはウンザリするものだと思い知った。

 旦那とは大きなテーブルの反対側に離れて食事。

 他の貴族の奥さま達を集めてお茶会をするけれど、その場では派閥同士の争いの場でもあるため、調停役のような気を使ったものになる。

 王宮に勤める使用人達の躾役でもあるため、小姑のようにあら捜しをし続けないといけない。

 各国の重鎮達が来た場合は、その奥方の接待をしなければならないため、各国の文化や風習に沿った対応が求められる。

 そして夜は相手の精を多く受けるため、常に相手を満足させるように立ち回らなければならない。疲れていようが、体調が悪かろうが、相手が求めたら対応しなければならない。

 そして飽きられれば放置され、側室や愛妾を抱くのを許さなければならない。


△△△


「今日は着飾ってるねぇ」

「カール殿下に贈られたものですのよ?」

「なるほど・・・こういう趣味なんだね、ゲームのヒロインに贈るドレスと違う感じなのは、リーナに合わせた感じなのかな?」

「興味が無くて使用人が選んだだけかもしれませんわよ?」

「そういう事もあるか・・・でも似合っているよ」

「ありがとう」


 カール殿下とファーストダンスを踊ったあと、誘われたバーニィと踊った。


「僕はこのあとお花摘みで離席するから、その少し後に攫いに来るからね」

「お願いしますわ」


 私はこれから変装したエバンスお兄ちゃんによって攫われて、ベランダから王城の中庭の庭園に行き、そこの木に居るアニーの手によりナザーラ領主館の裏庭の木に空間移動する。


△△△


「キャー!」

「悪徳領主であるマグダラ公爵家の姫は預かった!」

「何奴っ!ひっ捕らえろっ!」

「むっ! 消えたっ! 闇魔術のかなりの使い手だっ! 逃げられるぞっ! 扉や窓を死守しろ! 足元の気配を探れっ!」


 エバンスはタルタロスの曲刀の力でバーニィの影に入り王宮に入り込んでいた。そしてバーニィの控室に待機し、お花摘みといって部屋を出たバーニィの影に入ってパーティ会場に戻って来た。そして私の足元の影に移り、バーニィが少し離れたあとに私の背後に現れ、私が抱き上げられ悲鳴をあげた所でマグダラ公爵家を糾弾する事を言って私と共に他人の影からバーニィの影に潜った。


 気配を探れと言われても多くの人が騒いでいる状態では、気配を殺してる私達を見つける事は出来ないだろう。

 王城の兵士は会場から誰も出さないように頑張っていたけれど、会場から逃げ出そうとする貴族たちを抑えきれず、私達は会場を出ていく人の影に紛れて脱出し、庭に向いアニーと再会して脱出する事が出来た。


「エバンスはすぐに戻した方が良いんだよね?」

「お願いするわ」

「じゃあ少しだけ待ってて」


 王都屋敷にいたエバンスお兄ちゃんがいなくなれば、犯人だと思われてしまう。だから私が攫われたという連絡が王都屋敷に伝わる前に戻る必要があったのだ。


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