第56話 全員壁ドンしてくるんじゃないの?
フローラの15歳の誕生日を祝うためエルムの街に行き、そしてナザーラの街に戻った翌日、ビリーが神妙な顔をして僕が剣を振っている場にやってきた。
「マリアさんって良いっすよね」
「えっ?」
「診療所で一緒にいるじゃないっすか」
「あぁ・・・」
「なんかあの人と話しているととても落ち着いた気持ちになるっす」
「・・・」
ビリーは診療所に訪れるナザールの街の怪我人を治療している。イケメンである事もあり、自身で治療魔術を使える女性すらわざわざ診療所を訪れてビリーの治療を受けているらしい。
自身で治療魔術を使える人は多いため、余程の緊急性のある怪我人でなければ、治療を受けに来たりましない。診療所は治癒魔術では治療できない病気の人やダンジョンでの戦闘や建築作業中に大けがを負った人が運ばれてくるのを治療するぐらいだ。
ナザールの街の診療所は今までマリア母さん1人で対処が可能だった。けれどマリア母さんは一応領主家の人間だ。だから治療魔術が得意なビリーが来た事で診療所を任せる事になった。
しかしビリーが診療所に来た事で治療を受けに来る女性が急増してしまった。診療所の経営的には助かるのだけれど、ビリー1人では男性の治療に手が回らない状態になってしまった。そのためマリア母さんが診療所に戻り、男性の治療をするようになった。
「あの優しい笑顔も聖母って感じっすよね」
「僕の母親なんだが?」
「お母さんを俺にくれないっすか?」
「・・・本人が了承するなら良いけど・・・僕が18歳になるまで再婚は無理だぞ?」
「構わなっす! いやむしろ良い時期っす!」
マリア母さんは貴族家開祖の妻という扱いで操を立てる事が推奨されていると聞いている。僕的には幸せである事が1番なので、本人が望むなら再婚しても構わないと思っている。
マリア母さんが再婚する場合、開祖の妻という肩書を無くす必要があり、その場合は貴族籍を抜く必要があるそうだ。けれどマリア母さんは未成年である僕の後見人だ。僕は一応16歳で成人として扱われる。貴族学校に入って居る間はマリア母さんにお願いするしかない。何故なら現在ナザーラ男爵家の貴族は僕とマリア母さんしかいない。16歳でバーニィを婿に迎えフローラをバーニィの側室迎えても、3人とも学園に居るため助けにならない。
僕達3人が学園を卒業する日までにマリア母さんが再婚してしまった場合、僕の代わりに領地を見る貴族の後見人を探す必要がある。その後見人は信頼できる人でないと、利権の多くを外部に持ち出されてしまうなんて事が起きてしまう。
僕もマリア母さんも領地経営の素人だ。実際にバーニィを信頼して任せてしまっている。けれどマリア母さんさえ領地に居てくれれば、バーニィに確認が取れるまで大きな契約は交わさないという事をお願いする事が出来る。だからマリア母さんが再婚するにしても僕が卒業するまで待って貰う必要があった。
僕が18歳になる頃、マリア母さんは36歳となる。前世では35歳で死んだビリーにとっては36歳は良い時期らしい。
ちなみにビリーは神職には俗世の肩書が不要という扱いらしく、貴族のような特権階級ではあるけれど平民扱いだ。だから開祖の妻であるマリア母さんと結婚により平民に出来るので結婚するのに支障が無かったりする。
「随分と年の差婚だけど良いの?」
「良いっす」
この世界のビリーは俺の少し年上だけど同世代とも言える差しかない。だからもしマリア母さんとビリーが結婚すると、母さんが同級生と再婚したという感じになる。少し複雑な気持ちになるけれど、それもこれもマリア母さん次第という事だろう。
△△△
「リーナを誘拐してここに連れて来るから」
「えっ?何で?」
15歳になり王都の学校に行く準備をそろそろしないといけないなと思っていた矢先にバーニィが不穏な事を言って来た。
「あれ?リーナと皇太子の婚約解消させるために誘拐するっていうの、アニーのアイディアだって聞いていてたけど?」
「あぁ! 言った言った! けれどかなり昔だよ?」
「あの時からずっとリーナはいつ誘拐されるのが良いか考えていたらしいよ?」
「ふーん・・・それで今なんだ・・・」
「うん・・・今だとそのまま学園に入学する事になるし、誘拐から解放された後に学園の寮に入れば軟禁されるって事が起きないでしょ?」
「軟禁されるとどうなるの?」
「皇太子と婚約破棄された代わりに、訳アリの相手でも構わないっていう貴族に売られるように嫁がされる」
「うわぁ・・・」
「16歳になれば成人となるから、本人の同意無しに婚約させられる事が無くなる。リーナは誕生日が早いから、学園入学直前の今誘拐されれば、皇太子と婚約破棄する話がまとまる前に16歳を超えらるんだよ」
「なるほどね・・・ってあれ?それなら16歳になったあと誘拐された方が良いんじゃない?」
「皇太子の婚約者の状態で学園に入りたくないんだってさ」
「ふーん・・・そんなに皇太子って嫌な奴なの?」
「えっ?そんな事無いよ?ただ自信過剰の俺様系で鼻につくだけだよ、壁ドンとかされるの好きな人なら合うんじゃない?」
「あれ?乙女ゲームって男は全員壁ドンしてくるんじゃないの?」
「それは違うよ、壁ドンする相手は1ゲーム中に1人か2人ぐらいだよ」
「そうなんだ・・・」
前世で乙女ゲームなんてした事が無いけど、悪役令嬢逆転モノだと攻略対象はみんなええかっこうしいの若造で、壁ドンしてればカッコいいとか思ってそうな頭空っぽキャラばかりだったから、乙女ゲームの攻略対象っていうのはみんなそういうものだと思ってたよ。
そういえば攻略対象って皇太子とバーニィとビリーの事しか知らないな。他はどんな奴なんだろう?
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