第49話 ここは今後発展していきます
領主邸が完成したため落成式を開いた。エメール公爵と同じ派閥の領主達全てに招待状を出したけれど、当主の参加はエルム子爵だけで、代理人を出したのはエメール公爵とエルム子爵の隣領の3領主だけ。他は出席辞退の手紙を出す領主が半分、何も反応も寄越さない領主が半分といった感じだった。
「この地には勿体ない程の領主館ですな」
「街の完成模型とやらは見ましたか?」
「冒険者ギルドはともかく商業ギルドや鍛冶ギルドやあんな立派な協会・・・果たして必要ですかな」
エルム子爵への義理で参加したらしい3領主の代理人は5階建ての立派な領主館に嫉妬してか嫌味の様な事を言っていた。
「料理も田舎料理臭いですな」
「塩と砂糖とスパイスは質が良いですが量をケチっておりますな」
「背伸びをしているのが見え見えですな」
素材の味を引き立てるためにあえて薄味にしているのだけど、塩や砂糖やスパイスを利かせるのが金持ちの証みたいな価値観の貴族とは認識が合わないらしい。
「こんな立派な屋敷を維持できるのか?」
「えぇ・・・魔の森は豊かですから・・・最近ベヘム村も人数が増えていますしね」
エルム子爵はマリア母さんを心配するような言葉をかけてくるけど、その心配は不要だとすぐに知ることになると思う。
「領主館の向かいにあるあの覆いは何ですかな?」
「派手なモニュメントでも作ったのでしょう」
「こんな辺境に見に来る人などおらぬでしょうに」
この3人は嫌味を言う為に派遣されて来たのかな?まぁ今度の付き合いは表面的だけにすればいいだけなので適当に流せばいいよな。
「魔の森の開発は順調のようですな」
「えぇ、父も母も魔の森の傍で暮らしてきました、だからどこをどのように切り開いていけばいいのか良く知っていました」
「それは頼もしい事だ、エメール閣下もお喜びになる事だろう」
嫌味な3人に対してエメール公爵の使いの人は紳士的だった。さすがは派閥のトップの代理人ということなのだろう。
開会をするために、僕とマリア母さんとフローラとバーニィが壇上に並んだ。ヨウムお爺ちゃん達も並べたかったけれど、平民であるため貴族がいる場所で壇上には並ばせる事が出来ないらしい。
「今日は領主館の落成にあたり、お集り頂きありがとうございます。亡き夫オルクに変わり感謝申し上げます。さてこの度この地を領都ナザーラとする事に決め領主館を建てました。それには理由がございます。まずこの地は周囲より少し高く水履けが良い地です。けれど、何故か周囲から一番高い場所に綺麗に沸き続ける泉がありました。それは現在切り開いた場所に人が一杯に住んでも行きわたらせられるほど多くの水でした」
ここまでは爺ちゃんが街をここに置いた方が良いと考えていた理由だ。
「そしてもう一つ。領主館の向かいにある覆いの中に理由があります。それはあの覆いの中にダンジョンの入り口があるからです」
ここで会場が静まり返ったあと大いに沸いた。けれど「は?」や「嘘だろ?」という真偽を疑う声の方が多数だった。
「ダンジョンを見つけたのは偶然でした。泉の周囲を切り開いている時にたまたま発見したのです」
元々ダンジョンがあったなんて知っていたなんて教えるわけにはいかないしね。領地を貰う前に知っていたとしたら、元領主であるエルム子爵や派閥のボスであるエメール公爵に伝えて居ないのは問題があると見なされかねないからね。
「そこでこの場所の有用性に気が付きました。だから現在身の丈に合わない程の領主館を作り、周囲を区画している所です。それだけ発展の可能性が高い地であると我々は確信したのです、ではダンジョンの入り口をご覧に入れましょう」
マリア母さんが合図をすると、ダンジョン入り口となっている祠に被せられた布きれが取り除かれた。
「私や私の夫の両親は元ミスリル級冒険者です。しかしあのダンジョンでは1階層の入り口辺りで戦うのもギリギリでした。それほど強い魔物が中にいるのです。本日冒険者ギルド宛てにダンジョンの発見と、魔物の強さの評価を依頼する手紙を出しております。どんな結果であろうとここに冒険者達が集まり、多くの素材が運び出され、そしてそれを求める商人が押し寄せるものと思っております。ここは今後発展していきます。皆様とよりよい関係を築ける事を私たちは望んでおります」
マリア母さんの言葉を半信半疑で聞いていた人たちも本当だと分かったらしく、狼狽していた。エルム子爵は参ったという顔をし、エメール公爵の代理は紅潮し、嫌味を言い続けた3人の使者の顔は青ざめていた。
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