第48話 天はあるがままである事を望んでいる(エカテリーナ視点)
飢餓対策として荒地でのカサバ芋栽培の導入を行い、それが軌道に乗り始めた。冬の餓死者が格段に減り領民の笑顔が増え、カサバ芋栽培の導入を指揮していた私の評判は上がった。領地に洪水が起きて領民が蜂起しても私が殺される恐れはかなり減っただろう。
私が領民に対する評判が上がった事を面白く思っていない奴らが出て来ていた。領主であるマグダラ公爵と次男である私の2つ下のヴェルドだ。
長兄のクゾルフと違い、ヴェルドは3年ぐらい前までは可愛い弟だった。けれどクゾルフと同じようにマグダラ公爵から帝王学を学び出した頃から自身を中心に世界が回っていると勘違いし始め、私に生意気な言葉を使うようになっていた。
私がヴェルドを批判的な目で見ている事を注意して来たマグダラ公爵を睨みつけたら叩いて来た事があった。私はマグダラ公爵に一発叩かせた後、叩き返しておいた。盛大に吹っ飛んで気絶し粗相をしているマグダラ公爵を見て私はとても愉快な気持ちになり大笑いをした。それ以来ヴェルドは私が睨むと悲鳴をあげて逃げるだけの存在になった。マグダラ公爵は懲りずに怒鳴って来るけど叩いて来る事はないし、無視していればそのうちいなくなった。
そんな事があり私と彼らの関係はかなり険悪になっていた。そんな彼らが私のカザバ芋導入の成功を妬むのは当然だった。
マグダラ公爵は領民にカサバ芋の収穫量に応じた税をかける事を決定した。マグダラ公爵とヴェルドが勝ち誇ったようにニヤニヤした顔をしていたので当てつけだとすぐに分かった。
実は私はマグダラ公爵家の宝物庫から物を盗むようになっていた。エバンスの持つタルタロスの曲刀の能力を使えば影を通じて部屋に気づかれずに侵入するなど訳は無かったのだ。
最初は目立たない場所にあるものを中心に奪っていたので気が付かれていなかった。けれど私はニヤニヤされたその日に屋敷の宝物と金庫の中身を全て収納リングに入れた。
翌日屋敷は大騒ぎになっていた。使用人たちが忙しなく走り回っていて何かを探していた。私の部屋にも家宰がやって来たけれど、私の部屋を一瞥して出ていくだけだった。収納リングの存在は世間では知られていないもののようだった。
領内で検問が行われて捜索が行われたけれど、全ては私の収納リングの中なので見つかる訳は無かった。
結局領内にいたいくつかの盗賊団が討伐され、街の裏組織的な所に騎士団が踏み込むといった騒ぎが何件か起きたが結局は手掛かりが見つからずマグダラ公爵が家宰や騎士団長を怒鳴りつける日々が続くだけだった。
ある日マグダラ公爵夫妻が王都に行った日に、バーニィに頼んで王都に運んで貰い、王都屋敷の宝物庫と金庫の中身も全て奪っておいた。かえって来たマグダラ公爵は非常に不機嫌な様子で帰って来るのを見るのは非常に愉快だった。
△△△
「最近マグダラ公爵の周りが騒がしいようだな」
「屋敷に盗賊が出た様です」
「そうみたいだな」
ある日カール殿下に呼び出された。マグダラ公爵が不機嫌で周囲に当たり散らすので、事情を聞きたかったのだろう。
「領民に重税ばかりかけるので天罰でも下ったんじゃないかと思います」
「盗賊は天が遣わすものじゃない」
「では天は何を遣わしてくれるんです?」
私はカール殿下の顔をジッと見た。
王家は神に連なる存在で代弁者のようなものだ。その地を統べるのは神に認められていると自称している。
貴族は手柄を立てて王家に取り立てられる事でなった存在だ。けれど王家は何かに取り立てられてなる存在ではない。国王が代替わりをする時に教会に行き、ヤハー様の一番の僕を自称する教皇の手により戴冠を受けるけれど、それは神に認められた存在であると宣言するための儀式だ。
「天はあるがままである事を望んでいる」
「天は盗賊は盗賊のままである事を望むという事ですか?それではなぜ衛兵は盗賊を捕まえるのですか?」
「衛兵が盗賊を捕まえる衛兵のままでいる事を天が望むからだ」
「なるほど・・・」
さすが王家の帝王学を学んだ皇太子だ、詭弁の勉強はかなり嗜んでいるらしい。
「盗賊がまだ捕まらないのは、まだ捕まらないよう天が望むからですか?」
「そうだ、天が望むなら時が来た時に盗賊は捕まるだろう」
なかなか面白い解釈だなと思った。けれどその考え方は嫌いだ。もしカール殿下が困っていて私に助けを求めてきたら、「天はカール殿下に困る事を望んでいます、天が望む時が来たらカール殿下は困らなくなるでしょう」と返そうと心に決めた。
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