第47話 子供が出来た日からご無沙汰になったって人の話

 魔の森の泉まで切り開かれた道を進むと、大きく切り開かれた場所に到着する。そこはナザーラ男爵領領都ナザーラの建設地で、今は領主館と区画された道路だけが作られている。領主館の周囲は水堀になっていて、川から引かれた水と領主館の敷地の中にある泉が流れ込んでいる。領主館の向かえは大きな広場にする予定だけど今はそこに小さな土壁で覆われている。じつは土壁の覆い中にダンジョンの入り口が開いているのだけれど、それは一部の人しか知らない。


「屋敷の完成も間近だね」

「ダンジョンの開放はいつなんだい?」

「屋敷の落成式の時だよ」

「人が一気に集まるだろうねぇ・・・」

「冒険者ギルドの難易度判定もまだなのに?」

「集まるのは冒険者だけじゃないさ、ドロップ品目を買い付ける商人と、その商人を相手に商売をする商人という感じに人が集まって来るんだよ」

「そうなんだ・・・」


 そういう街の事は僕の婿となるバーニィが考えている。街の区画など僕にもマリア母さんにも良く分からない話だった。しかしバーニィはエメロン王国のダンジョンやリンガ帝国のダンジョンを訪れた事があり詳しかった。 

 またバーニィは前世で、街づくりシミュレーターをかなりやり込んでいたみたいで、絶対に渋滞を出さず、公害を出さない街づくりをするのが難しかったと言いながら、なぜここにこういったものが僕やマリア母さんやフローラの前で熱弁した。

 僕もマリア母さんもフローラも、バーニィの話を聞いて完全に頭がショートしてしまったため、街の区画決めについてはバーニィに完全に任せる事にした。

 バーニィはやる気をだし、領主館、練兵所、役所、冒険者ギルド、商業ギルド、鍛冶ギルド、魔術ギルド、学校、教会、救護所、孤児院、住宅街、商店街、鍛冶街、宿屋街、倉庫街、公園といった感じに区画を書き、土魔術で作った街の完成モデルの立体模型まで作った。建設作業員はそれに合わせて区画を行い、領主館と道路を作っている状態なのだ。


 ただし領主館を含めた建物の内装については建築に携わっていた僕がかなり拘った。換気や採光や取水や排水に留意した建物作りについては失敗談が数多くあるため、それが起きない屋敷作りを行った。

 僕は前世で古民家の再生にも何度か携わったので、現代科学が無くても成立する家の作り方は分かっていた。

 それにこの世界は魔術という技術がある。実はウラヌスの大鎌の無尽蔵な風魔術は非常に街づくりには有効だと思っている。領主館に併設してある物見の塔は給水塔としても機能させている。綺麗な泉の水を風による圧送で給水塔に送りそれを各家庭に配管で分配する仕組みを作ろうと思ったのだ。

 また同じ無尽蔵な風魔術の力で排水の曝気と圧送を行い水を浄化しながら排水する仕組みを作ろうと思っている。給水塔や浄水場や水路の定期的なメンテナンスは必要だけど、その辺は難しい技術は要らないので、鍛冶屋に委託しておけば問題無い筈だ。あとは屋敷の地下室の台座に埋設してあるウラヌスの大鎌に手を置いて念じれば勝手に圧縮空気を作ってくれ送ってくれる。それらをバルブで開閉して分岐させていけば必要な箇所に必要な空気を送る事ができる筈だ。

 一応動きっぱなしだと、配管やバルブの全体的なメンテナンスが必要な時に止める事が出来なくなるのでオンオフ出来るしくみにしてある。使い方はマリア母さんとお爺ちゃんとお婆ちゃんには説明してあるので、僕が学園に行っている間に動かせないとか止められないと困る事は起きない筈だ。


「赤桃はどっちなんだい?」

「キューキュー! キュー! キューキュー!」

「ここから2時の方向2800m先だよ、ノーホーンバイソンが川沿いに12体居て、その少し上流に赤桃の木あるって」

「なるほど・・・って事はあそこか・・・到着まで2時間、2頭持ち帰るのが限界かね、仕留めた後は私とこの人が解体するから、あんたたちは赤桃の収穫に行っとくれ」

「キューキュー! キュー!」

「フォレストウルフが22匹うろついてるから気を付けてね」

「私とこの人なら100匹程度なら片手間だよ」


 屋敷の建設地を過ぎると道は無くなり道となる。僕とザックとチーたんは2人と1匹のやる気満々な会話を聞きながら後ろをついていっている。


「新婚生活はどうなの?」

「随分刺激的だよ、前妻とは随分違うタイプけどキャンディは可愛いしね」

「可愛いんですか」

「あぁそうさ・・・娘も嫁に行って、兄の子も独り立ちして、あとは老いるだけと思っていたけど、キャンディのおかげで逆に若返っているよ」

「そうなんだ」


 ザックはキャンディと結婚してからゲッソリ老けたように見えているけれど、本人は若返っていると感じているらしい。


「赤ん坊が出来たらもっと若返らないとだね」

「子供が出来れば毎日求められたりしないだろうし、元気が戻る筈だよ」

「なるほど・・・」


 前世で妻に子供が出来た日からご無沙汰になったって人の話を聞いた事があったっけ。あれ?そういえばそう言っていたのは、避妊具に穴を開けられて出来たのがあいつだとぼやいてた社長だったっけ?後で托卵されたって発覚した社長の息子だったっけ?

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