第46話 この先生きのこれるのだろうか
ナザーラ男爵家が領主家となって、いつの間にか3年が過ぎていた。
ベヘム村からエルムの街までの道を整備し続けたため小さな馬車であればすれ違える程度に広くなった。ベヘム村とエルムの街の往来がしやすくなったおかげで物資の輸送がスムーズになっている。
村だけで消費されていた魔の森の産物が新鮮なまま街に送れるようになったため、村人の現金収入が増えて豊かになった。そのため村から出ていった若者が帰ってくるという現象が起き人口が若干増加している。
噂を聞きつけて村に移住をしてくる人もいた。特にリーナの護衛騎士団だった人が何故かマグダラ家の騎士をやめて村人になった。
その中で、何故か騎士爵を返上して騎士団長をやめてきたザックが、元「雷轟」13番隊で唯一売れ残っていたキャンディさんと結婚した。
ザックの年齢は45歳。前妻と死に別れ忘れ形見である娘が独り立ちしていて一人暮らしだったらしい。
養子にしていた兄の子が王国騎士になり騎士爵を継いだ事と、娘が嫁に行って独り立ちしているため、自身が騎士を続ける意味はなくなったため、冒険者に戻りたいと思ったらしく、騎士団時代に一番楽しい思い出のあったベヘム村に移住して来たらしい。
元「雷轟」13番隊は元護衛騎士団達が入植した当時は、村にやってきた先輩のよしみで面倒を見ていた。気が合って結婚までした人もいる。ザックは養子への引継ぎがあったためか、リーナの護衛騎士隊の中では最後に村にやって来た。ザックは元隊長同士だったという事で、キャンディが面倒を見る様な感じで一緒に狩りをする事が多かった。
ある日、元「雷轟」13番隊は元護衛騎士団達の共同チームが足跡を追っていたというトリケラトプスに似た三角嘴竜という名の亜竜の一種を倒して凱旋した。その日、ザックはキャンディと昔話をしながら酒を酌み交わし、気が付いたらザックはキャンディとベッドインしていて、責任を取って結婚するという約束をさせられていたそうだ。
「盛った?」
「何のことだい?」
「マンドラゴラを煎じた薬って高いよね?」
「金貨3枚もしやがったな」
「盛った?」
「何のことだい?」
毎晩獣の様な咆哮が聞えるというザックとキャンディの新居から出て来て朝日を眩しそうに見ている干からびたような男が哀れに思う。
「チーたん・・・癒してあげて」
「チー・・・(任せて・・・)」
「助かります・・・」
夜に頑張りすぎた男は、太陽が黄色く見えるようになるらしい。ザックには今太陽が何色に見えているのだろうか。僕が好きなレモネードのような仄かな黄色だろうか。チーたんが好きな林檎の果汁のような淡い黄色だろうか。ウサたんが大好きな蜂蜜のような濃厚な黄色だろうか。フローラが好きなメープルシロップのような茶色がかった黄色だろうか。
「今日は何を狩るかな!」
「亜竜が売れたんだし、お金にはしばらく困らないんじゃない?」
「お腹の子が大きくなったら働けなくなるだろ?その前に稼ぐんだよ」
「えっ?気が早くない?」
Xデーからまだ2週間しか経ってない、さすがに今妊娠したと言ったら托卵だと言わざるを得ないだろう。
「10日前が丁度孕みやすいタイミングだったし、アレが来る感じもないからな。今頃腹にいるんじゃねぇか?」
「そうなんだ・・・」
取り合えず12歳の子供にする話じゃ無いよね?
「お兄ちゃんおはよう!」
「おはようフローラ」
フローラはまだ少し舌足らずだけど活舌はかなり良くなっている。魔術の方もどんどん発動できる種類を増やして居て、無詠唱も少しづつ増やして言っている。
「おー! 丁度良かった、今から一狩り行こうと思ってたんだ」
「ウサたんが今日は赤桃が美味しくなる日だって、ノーホーンバイソンも近くに居るってさ」
「ノーホーンバイソン良いねぇ・・・ステーキが楽しみだよ」
「にんにくたっぷりで精力満点ステーキだなっ!」
「にんにくを食べ過ぎるとウサたんが嫌がるのよ」
「程ほどにね・・・」
キャンディが精力満点と言った時に、ザックがビクッっと体を震わせたのは何故だろう。
「さぁあんた! 40秒で支度しな!」
「はいっ!」
ピッと背筋を伸ばして家に入っていったザックだけど大丈夫だろうか・・・。
「お兄ちゃんは支度大丈夫?」
「大丈夫だよ」
収納リングを見せるだけで意味が伝わったようで理解してくれた。
ザックとキャンディの新居から「31、32、33」というカウントダウンの声と「まって・・・ボタンが・・・」とせわしない声が聞えていた。
「お待たせ、行こうか」
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「息が荒いよ?」
「キューキュー!」
「チーたん・・・癒してあげて」
「チー・・・(うん・・・)」
「助かります・・・」
ザックはこんな生活でこの先生きのこれるのだろうか。
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