第42話 テンプレイベント(エカテリーナ視点)
「それで冒険者ギルドでテンプレイベントがあったんだよ」
「へぇ・・・どんな?」
「若い冒険者にいちゃもんつけるギルマスと、新人冒険者からカツアゲしようとする万年カッパー級冒険者に遭遇したんだ」
バーニィが突然私を訪ねてやって来た。
裏ダンジョンでレベルをカンストさせ今は聖獣を探しにドラゴンがいるオリン山の周辺を捜索しているそうだ。
狙っているのは学園3年生の時に王都に襲来するレイドボスである光輝竜。対軍隊戦であるため戦闘パートではボスのブレスで吹き飛ぶ自動行動を取る王国兵のカードが加わった戦闘を行う。
モブ兵士のカードは20枚あり光輝竜は30ターン戦うか、HPゲージを2/5まで削る事で逃げていく。モブ兵士のカードの損失数と光輝竜のHPゲージの減り方で、光輝竜の鱗や牙や爪や角といった戦利品の数と種類が変わる。その素材を使った防具がゲーム中の最強防具となるため、私も攻略サイトを見ながらモブ兵士死亡5人以内、18ターン以内撃退という最高評価を目指して、ランダムに自爆突撃を繰り返す王国兵に悪態をつきながら何度もやり直したものだ。
オリン山では光輝竜は見つからなかったけれど、大量のワイバーンに遭遇したらしく、撃退してその素材を冒険者ギルドに持っていったそうだ。その冒険者ギルドでテンプレ通りの絡まれ方をしたらしく、バーニィは面白おかしく話していた。
「それは興味があるわね」
「でしょ?でもギルマスもベテラン冒険者も犯罪奴隷行きになったからしばらく見れないかもね」
「犯罪奴隷行き?」
「皇族である僕に喧嘩を吹っ掛けたんだからさ・・・まぁ偽名でギルドに登録してたから僕が皇族なんて彼らは知らなかったんだけどね」
「なるほどね・・・彼らは災難だったわね・・・」
そりゃ10歳にも満たない3人組がレベルカンストした化け物でその内1人が皇族なんて誰も思わないわよね。
「フローラが怒って元オリハルコン級のギルマスを頭突き1回で沈めたのには笑ったよ」
「何それ」
フローラはアニーの事でスイッチが入ると怖いけれど、それ以外は天真爛漫な可愛い子だ。それにレベル60相当と言われるオリハルコン級を頭突きで一撃って、レベルカンストの99とはいえ加護が1つのフローラに出来るものなのだろうか。
「フローラは長い時間尋問されてお腹が空いて気が立ってたらしいよ、ギルドの外に出たとき屋台からいい匂いが漂っていて、そこに行こうとした時に絡まれたんだよ」
「食い物の恨みって奴だったのね」
空腹は疲労や病気といった状態異常と同じようにバッドステータスとなり能力減少が起きる。戦闘パートでは道中はサブキャラに戦闘させたり、食料の配給量を増やしたり、ポーションを使ったりしてその辺を回避していた。収納リングを得る前はアイテムを遠征で持ち運べるアイテムの量に制限があるためその辺のコントロールが難しい。
バッドステータスはキャラによっては出る直前に能力値が跳ね上がり確定クリティカルを出すという隠し特性を持つキャラが何体かいた。
確かバーニィは疲労が点灯する直前に能力値が上がるので、同人誌では疲労でハイになった状態で覚醒し、皇太子に襲・・・いやこれ以上は彼の名誉の為に考えないででおこう。
ゲームでは、私やフローラは敵側で、戦闘パートでは味方に出来無かったため分からなかったけれど、フローラは空腹直前で覚醒するパターンのキャラだったらしい。
話は、その翌日行ったオリン山遠征で光輝竜を倒すというゲームでは出来なかった事を達成した話が続き、そこで光輝竜が守っていた卵を5個手に入れたという話になった。
「2個は君たちにあげるよ、スカイドラゴンの場合は自分の魔力を注ぎ続けて孵化させると、親だと認識するようになって騎乗できるようになるらしいよ」
「これは光輝竜の卵って事?」
「守ってたんだしそうだろうね」
スカイドラゴンは非常に貴重な騎獣だ。ペガサスより早く頑丈で火のブレスを吐くため空の要塞とも言われている。
「それで君たちをパワーレベリングしようと思ってるんだよ」
「えっ?」
「こんな騎獣を手に入れたら周囲に狙われちゃうだろ? それにアニーへの2つ目の貸しも返しておきたいしね」
「既に貰い過ぎよ・・・私達が返さなければならない方だわ」
「1つの貸しには1個返す、そういうものだよ。それに僕たちレベルカンストで装備もほぼ最強。学園入学まであまりやることないんだよ」
「な・・・なるほど・・・それなら是非お願いしたいわ」
こんな化け物みたいな状態になってもバーニィは王国の学園に入学するつもりなのだろうか?帝国の皇太子を押しのけて皇帝になった方が良いんじゃないのだろうか?
「エバンスに贈った曲刀を使えば、屋敷をこっそり抜け出す事が出来るでしょ?」
「え・・・えぇ」
「では就寝時間を回ったら屋敷の裏の3本のブナの木の所に来てよ、裏ダンジョンまで飛ぶからさ」
「分かったわ」
私とエバンスお兄ちゃんは熟練度は高いけれど魔物と戦った経験が無いためレベルはそれほど高くない。特にエバンスお兄ちゃんは大器晩成型の「人」の加護であるためレベルが50以上にならないとハッキリとステータスは上がり始めない。
△△△
夜になり就寝時間、エバンスお兄ちゃんの曲刀のによる闇魔術の影移動で屋敷を抜け出し、裏手の3本ブナの前に行く。
「ジュマお願い」
『・・・』
「ヒィッ!」
誰も居ないと思った場所からバーニィの声がしたと思ったら、その方向から裸で少し緑がかった半透明な女性が現れた。私は幽霊が現れたと思い悲鳴を上げてしまった。
エバンスお兄ちゃんも怖かったのか私の前に立って警戒をしてくれているけれど手足が震えていた。
「驚かせてごめん、彼女が精霊になったドライアドなんだよ」
「わ・・・分かったわ・・・夜に見ると幽霊みたいだわね」
「肉体を失って僕に宿ってる状態なんだよ、あとアニーとフローラに宿っている方は青白いからもっと幽霊に見えるよ」
「霊に取り憑かれてるみたいだわ・・・」
「本当にね」
ジュマと呼ばれた精霊が木の中にズブズブと入って行き、そこにバーニィも手を突っ込んだ。
「ここを通り抜ければ裏ダンジョン手前に出るよ。 あまり時間をかけると魔力消費がきついから急いで通り抜けてね」
「わ・・・分かったわ」
私達も意を決して木に飛び込むと、目の前には石碑のある泉が広がっていた。
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