第36話 イラっとしてしまった(エカテリーナ視点)
兄貴にリンガ帝国のバーナード殿下が転生者で協力関係が築けそうだと手紙で連絡したのだけど返って来た手紙を見て絶句してしまった。
書かれていたのはスタンピードをやり過ごすために食料を備蓄した要塞や地下室を作る方法が書かれていて、裏ダンジョンになってしまう泉の周囲を核シェルター並みの厚さのコンクリートで囲うというアイディアを思いついたというものだ。
ご丁寧にも図と計算式が書かれていて、これなら村を囲う壁を作るより簡単にスタンピードを防げると書いてあった。
そういえば前世の兄は土方のような仕事についていた。こういう事を考える頭はあったのだろう。
それに対して、リンガ帝国のバーナード殿下ついては「よろしくやってくれ」の一文だけで片付けられていた。魔王の襲来による帝国の滅亡に対して興味が無いのだろう。関心の無い事については適当になる癖は相変らずのようだ。
兄貴のアイディアには欠点があるので指摘させて貰った。丈夫な壁で囲っても、下が土のままならワーム型や土竜型など土に潜って移動する魔物は防げないからだ。
それと石碑を泉に放り込むのが封印を解く事になりそうだから、石碑自体をコンクリートで固めて動けなくした方が現実的だとアイディアを返しておいた。
この手紙を読み、「さすが大卒・・・」と言っている兄貴の顔が思い浮かんだ。それを想像するだけで何となくイラっとしてしまった。
兄貴と違い、フローラからは可愛い絵の書かれた手紙が届く。文字の部分の内容が薄いのは年相応ではあるけれど、一生懸命に書いてくれているのが見えてとても微笑ましい。
「お兄ちゃん、兄貴のこの手紙をどう思う?」
「リーナが洪水をなんとかしようと考えているのと同じ事をしているなと思うよ」
「えっ?」
「アニーさんは深く考える事が苦手なんだろ?」
「えぇ・・・」
「でも考えたんだよ、どうしたら良いのかって」
「・・・」
なるほど、兄貴なりに頑張っている部分だといえばそうなのだろう。
「リーナは洪水をどうすれば止められるか考えたかい?」
「考えたよ・・・」
「それは公爵に働きかけてなんとかして貰うって方法だろ?」
「それしか無いじゃない」
「アニーさんは誰かに動いて貰う方法じゃ無く、自分で止める方法を考えたんだよ」
「・・・」
エバンスお兄ちゃんは兄貴をえらくフォローしていた。
「アニーさんは、自分で出来る範囲はやるけれど、それを超える部分については本人がどうするしかないって考えているんじゃないかな?」
「領民に洪水がなんとか出来る訳ないでしょ?」
「それはリーナも同じでなんとも出来ないんだよ。アニーさんも最初はスタンピードをやり過ごす方法を考えていたんだろ?」
「えぇ・・・」
「食料を備蓄しておく、避難場所を作っておく、そういったやり過ごし方は洪水でも出来る方法じゃないか?」
「・・・どんだけ必要なのよ、食糧と避難場所は」
「計算してみたらいいじゃないか、考えるのが苦手なアニーさんでもやったんだよ?」
「エバンスお兄ちゃんは兄貴の味方なのね・・・」
「俺はいつでもリーナの味方だよ」
「違うじゃない!」
私は、エバンスお兄ちゃんが私より兄貴を取ったかの様に感じてしまった。ヒロインに攻略対象を奪われる悪役令嬢の気持ちがこんなだとしたら、これによってヒロインを憎むようになるのだろうかと、叫んだ事で冷静になった頭で少し思った。
「リーナは自身の意見に賛成するだけの人が欲しいのかい?」
「・・・」
「不慮の事態の時にダメダメになったリーナを、アニーさんはどうやって助けてくれた?」
「私に襲い掛かって来た奴に立ち向かって追い返し、私を警察・・・衛兵の所に連れて行き、私が襲われないように相談してくれた・・・私に日が落ちて人通りが少なくなくなる前には家に帰って来るように言った」
「その結果は?」
「帰る時間が遅くなって家に着く前に暗くなった日に襲われて殺された・・・」
「リーナが死んだあとアニーさんはどうした?」
「そいつを殺した・・・」
「洪水はアニーさんにどうにか出来るものなのかい?」
「無理・・・」
「いざという時逃げられるように体を鍛えておく・・・あとはなんくるないさだっけ?アニーさんはちゃんとリーナに答えを言っているよ、それをリーナが受け取らなかっただけだよ」
「今日のエバンスお兄ちゃんは嫌いよ」
「俺はリーナがいつも好きだよ、俺はリーナの為だったらいくらでも頑張れるから」
「・・・」
なんだろう、この世界でも私は兄という存在に弱いのだろうか。全然似てないと思っていたエバンスお兄ちゃんと兄貴が重なって見えてしまった。
前世の兄貴は何かが起きても飄々としている事が羨ましく、時に頼もしくて、だから本気で嫌いになれなかった存在だった。そしてエバンスお兄ちゃんも兄貴の様になってきている気がする。
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