第35話 昔から文字を書くのは苦手なんだ

 リーナから手紙が来たけれど、返すのが面倒くさい。前世の昔から文字を書くのは苦手なんだ。

 フローラの代筆の時は文章が短くて良かったけど、僕が前世の兄と知ったからか長文で手紙を送って来る。


 リーナの手紙には、僕とリーナ以外にも転生者が見つかったと書かれていた。そういう事もあるだろう。

 そいつは魔王がいるとされる迷いの森があるというリンガ帝国の第二皇子でゲームでの攻略対象の1人らしい。魔王が誕生しないよう、森の妖精が捕まって見世物にさせないようにしたいと話しているそうだ。帝国は魔王の侵攻によって滅びるそうなので、それを防ぐのはそいつにとっては大事な事らしい。


 そいつも帝国の滅亡を知っていて放置が出来ないタイプなのだろう。僕もスタンピードとやらでベヘム村の人が死ぬのは嫌だしな。


「魔の森から魔物が沢山来た時の為に避難所みたいな場所を作った方が良くない?」

「避難所?」

「エルムの街だと立派な外壁があるじゃない?でも村ではあんなの作れないでしょ?」

「そうじゃのう・・・」

「どこかの洞窟に食料を備蓄して置いて、万が一の時に避難できるようにするとか、強固な建物を1つ作って魔物が過ぎ去るまで立てこもれるようにするとか、地下室作って隠れてやり過ごすようにするとかさ」

「なるほどのぅ・・・」


 村を囲う強固な壁を作る余裕はベヘム村にはない。また作っても強固過ぎる壁は村の利便性を悪くしてしまいそうに思う。


「滝つぼの裏が洞窟になっているが、少しだけ遠いのぅ・・・」

「えっ?何それ、見てみたい」

「行くならもう少し暖かくなってからが良いのぅ、洞窟の中も湿っていて肌寒いからのぅ」

「そうなんだ・・・でもそんな場所じゃ避難するのは辛いね・・・」

「そうじゃのぅ」


 濡れたままの場所じゃ体力を奪われ続けるだろう。食料を備蓄する場所にも向かないだろうしそこは避難場所には適さないと思う。


「強固な建物や地下室を作るなら領主の館を作ったらどうかの?」

「領主の館?」

「ベヘム村はナザーラ男爵領になったんじゃろ?領主様一家がこんな家に居候してたら恰好がつかないじゃろ」

「お爺ちゃんの家は立派だよ」

「ありがとうのぅ」


 普段は食糧倉庫にでもなっている窓の無い四角い箱みたいな建物を考えていたけれど、領主の館なら少しは見栄えよく作る必要があるのかな。


「領主の館を作るならどこが良いかな?」

「そりゃ村長の家と教会があるの所じゃのぅ」

「立ち退かせるって事?」

「領主ならその権限はあるじゃろ」

「したくないなぁ・・・」

「それなら魔の森の中に作るのが良いかものぅ」

「魔の森の中?」

「泉のあった辺りじゃよ、森を歩いていくのであそこに行くには2日もかかるのじゃが、直線距離ならあそこまで3時間ぐらいの距離なのじゃよ、そして周囲より少し高台になっているのに水が湧くという好立地なんじゃ」

「そうなんだ・・・」

「そこまで道を作ると言う面倒はあるのじゃが・・・」


 ヨウムお爺ちゃんの話を聞いて僕は別の事を考えていた。裏ダンジョンから魔物があふれ出すなら裏ダンジョンの周りに壁を作って囲って出られない様にしたらいいじゃないと。


 僕は前世で建設現場に携わる仕事をしていた。その中で金持ちの家を作る機会があったのだけど、核爆弾の直撃にも耐えられるシェルターを作れと言われて厚さ50cmの鉄筋コンクリートで囲われた地下室を作った事があった。バンカーバスターみたいな貫通弾の直撃には耐えられないけれど、上空で核爆弾が破裂した程度ではそれで充分耐えられ設計になっているそうだ。

 この世界にはドラゴンというものすごく強い魔物がいるけれど、核爆弾より強い攻撃が出来るとは思えない。コンクリートなら何度もトロ箱で練った経験があるのでこの世界でも材料があれば作れる自信がある。鉄筋も鍛冶屋に頼めば作って貰えるだろう。


「なんじゃ、面白い顔をしておるの」

「少し面白い事を考えたんだよ」


 泉の広さは直径で5m程度だった。縦横7m、高さ3m、厚さ0.5mの豆腐建築だとすると・・・7×7×3-6×6×2.5で・・・57立米。モルタル1立米で2.3tだからモルタル13.1t必要・・・モルタルはセメント:砂:水が2:6:1だから、セメントが約29.1t、砂が約87.4t、水が約14.5t。

 セメントはエルムの街の資材屋で売っていた。品質は分からないけれどエルムの街の街壁を見る限り、そこまで悪いものでは無いように思う。

 砂はベヘム村の近くで川砂が採れる。5mmのふるいにかければ細骨材として使える筈だ。

 水は泉から汲み放題なんだから現地調達可能だ。


 僕が地面に数字を書いて計算をし始めたからヨウムお爺ちゃんが怪訝そうな顔をしていた。


「これは何じゃ?」

「秘密~」


 このアイディアをリーナの手紙に書いてみよう、どんな文面で返そうか悩んでいたけど、これであれば文字数をかなり稼ぐことが出来そうだ。

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