第3章 領地持ちの貴族令嬢になった編

第34話 浄化って何を意味する魔法だろうか?

「お兄たーん! 遊びに来たよ~!」

「おー! 良く来たねぇ」


 僕とマリア母さんはナザーラ男爵領となったベヘム村に戻った。俺達が帰ると聞いたフローラがギャン泣きしてしまったが、エルム子爵がフローラに週替わりでベヘム村に訪れて良いという許可を出す事でおさめる事が出来た。


 ベヘム村の統治については、村長を家宰に任命し委任をする事で何とかなっている。エルムの街にいた時に、家臣になってくれそうな有能そうな人を探してみたけれど、家宰を任せられそうな文官タイプの人材は探せなかった。なんせ魔の森に接した開拓地の村しかない領地に行きたがる人は少なかった。

 村長はエルム子爵家ベヘム村代官で、さらにベヘム村開拓団団長という役職を持った人だった。 けれどベヘム村がナザーラ領になった事でナザーラ男爵家ベヘム村代官となり、そのまま家宰として採用する形を取ったらしい。


「おー! ウサたん来たなら丁度良い! フローラ様、俺達と一狩り行こうぜっ!」

「いいよぉ」

「キューキュー!」


 ただ、「雷轟」13番隊は傭兵をやめてそのままベヘム村に移住してきた。魔の森での狩猟生活にハマってしまったらしい。

 傭兵をやめた事で彼女達は男っぽい恰好をやめた。戦場では女は軽く見られるし、敵から弱点だと思われ集中攻撃を受ける事になるから男装し男の名を使ってなり切っていたそうだけど村人になった事で不要になったらしい。


 女性が増えた事で、村の男達が非常に喜んでいた。なぜなら一夫多妻が認められているこの国では、甲斐性のある男性に集中して女性が集まる傾向にある。そのため村の若い女性が街に買い出しに行ったり、村の産物を売りに行った際に、経済力のある男性に見初められ嫁に行ってしまうという事が起きてしまい、ベヘム村の若手に男女比の不均衡が起こっていた。

 このままでは限界集落化が起こっていたところに現れた、若いと言うには少しとうが入っているけれど出産適齢期ではある女性が8人。しかも全員体が引き締まっていて健康的だ。少し男っぽくて荒っぽいけれど、辺境の村の男達にしたら充分許容範囲内。彼女達もアプローチをかけられて満更でもないようで、その内カップルも誕生しそうだ。


 ちなみに「雷轟」13番隊のみんなは男の偽名をやめ女性の名前に戻っているのだけど、今までの印象があるのでとても違和感があった。隊長のマーカスの名前が実はキャンディという可愛らしいものだったので、しばらくは顔を見るだけで噴き出してしまっていた。


 魔の森の開発は現在手を付けていない。ヨウムお爺ちゃんが「彼らのテリトリーを余り犯してはならないのじゃ」というのでそれに従っている感じだ。一応泉の奥からさらに数日奥に行った場所が彼らが常時出没するテリトリーらしいので泉ぐらいまでなら大丈夫だとヨウムお爺ちゃんは言っている。

 でもなんとなく恵み溢れる森を開拓してしまうのは勿体ない気がしている。それより先にエルムの街までの、馬車ですれ違うのに苦労する狭い山道をなんとかして欲しい。せっかく魔の森の産物があるのに、道が悪くて売りに行けるものが限られるのが問題だと思う。オークの肉だってエルムの街に持って行けば猪よりも良い値段で売れる高級品。リーナから氷魔術を習った事だし、あとは道さえ良ければという感じなのだ。


「お兄たん、やっと1つ魔術が使えたの」

「おー! 何を覚えたの?」

「暗視だよ」

「えらいぞっ!」

「えへへ・・・」


 フローラも少しづつ舌足らずが解消している。活舌が良くなってきたのでそろそろかと思っていたけれど、やっと1つの魔法が発動したようだ

 フローラ「虫」の加護を得ているので闇魔術が伸びやすい。闇魔術は影に潜ったり出来る隠密特化と言われる魔法だ。それに、非常に詠唱が長く魔力を大量に消費するため使い手が少ないけれど、異世界チートにある収納も闇属性の魔術で、使えるものは周囲から一目置かれる。

 ちなみに僕もリーナも収納の魔術の発動は一応成功している。ただ僕は熟練度がなかなか上がらず魔力消費量が非常に重いままだ。どうやら「日」の加護は光属性に成長の恩恵があるのと逆に、対極にある「虫」の闇魔術は上がりにくくなっているようで成長しにくかった。

 ちなみに「日」の対極が「虫」、「虫」の対極が「人」、「人」の対極が「雨」、「雨」の対極が「雲」、「雲」の対極が「地」、「地」の対極が「嵐」、「嵐」の対極が「日」になっているそうだ。頭がこんがらがるのであまり考えないようにしている。


 光魔術は一応リーナに習ったけれど使う場所が良く分からない。浄化って何を意味する魔法だろうか。汚れを取るのかなと思い床の汚れに使ってみたけれど、発動は感じても変化は起きなかった。このままでは光魔術は部屋を明るくするか、強烈な光で目くらましする魔術で終わってしまいそうだった。

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