第29話 何かが関係しているかもしれない
「おにいたん、おいちいねぇ」
「蛇っぽい尻尾の部分がこんなに柔らかいとはなぁ・・・」
「パイソンみたいに噛みちぎれない肉かと思ったわ」
「そうじゃろう・・・蛇みたく見えるが、あれはボンジリの延長なんじゃよ」
ボンジリか・・・鳥とは思えないほどジュワっと肉汁が出るのも納得だ。
「キューキュー!」
「チーチー!(おいしー!)」
肉食じゃないウサたんとチーたんは黄金樹の実を食べている。麻雀のサイコロぐらいの大きさに小さく切ったものが10個ぐらいだけど、それだけでも銀貨1枚ぐらいの価値にはなる高級果物だ。
「黄金樹の実ってこんなに沢山なるんだな・・・」
「さすがにこれは異常だろ」
黄金樹というのは黄金色した林檎が成る木だ。100個以上実っていたのでみんな1個づつ食べている。
黄金樹の実は食べると魔力量が増えると言われている。魔力が回復するのでは無く、魔力の保持量が増えるのだ。ただ1回で沢山食べても効果は重複しないらしい。1年に1個ぐらい食べるので充分なんだそうだ。それに味は完熟林檎という感じで美味しいけれど感動する程の味では無い。余った分は売ってしまった方が良い。
お爺ちゃん達は今更魔力量が増えても仕方ないと他の人に黄金樹の実を譲った。お爺ちゃん達を除くと総勢で23人と2匹だ。だから4個づつ配り、残りはマリア母さんやエルム男爵夫妻へのお土産にすることとなった。
「ほわぁ・・・綺麗な泉だ!」
「この水飲めますよね」
「美味い水じゃよ」
「よーし、テントを張るぞっ!」
泉の周囲は野営地に最適だと聞いていたので、全員で野営の準備を始める。歩き通しだったのそろそろ休みたい。フローラも限界で最後の1時間はローズお婆ちゃんに背負われていた。
「水場なのに魔物や獣の気配が無いですね」
「そうじゃのう、ここで遭遇した事はないのう」
どうやら泉の周りは安全地帯になっているようだ。
「石碑・・・ASCII変換で翻訳出来そうだわ」
「アスキー変換?」
「模様がマルと縦線だけって聞いて、2進数じゃないか思ったのよ。そしてコンピューターで使われるASCII変換で翻訳やってみたら、意味のある文字列になりそうなのよ」
「えーっと・・・とりあえず読めるって事で良いんだな?」
「その場で全部読むのは無理よ、あまりに文字が多いの。今回は石碑の文字を書き写して村に戻ってから翻訳するわ」
「了解」
膨大な数の01の文字の羅列って書き写すだけでも大変そうだな。
泉の近くで水使い放題の状態なのでコカトリススープを作ってみんなで飲んだ。鶏ガラ出汁ということなのだけどものすごいコクが出ておいしい。
アンナお婆ちゃんとローズお婆ちゃんがコカトリス解体の際に骨を捨てず皆に泉まで運ぶよう言った理由に納得の味だ。
「こんなの王都で飲んだら1杯でいくらになるんだ?」
「銀貨3枚でも売れるだろ」
「だなぁ・・・」
「おいあれ・・・」
「解体の時に出た卵だろ?」
「米を入れて卵って絶対に美味い奴だろっ!」
「コカトリスの卵って1個金貨10枚だぞ!?」
「さらに仙人ネギキター」
「やべぇ・・・1杯金貨数枚の雑炊だっ!」
「匂いがたまらん」
コカトリス雑炊も完成し全員に行き渡る。みんな1口食べて放心している。
「俺お嬢様について来て本当に良かった」
「マグダラに帰りたくない・・・」
「騎士団辞めようかな・・・」
リーナの護衛騎士達に不穏な言動が見られる。平民出らしいけれど騎士団員であれば給料は高いはずなので、結構いい暮らしをしていると思うのだけど違うのだろうか。
「キューキュー!」
「あっちに何かがいりゅって」
「何か?」
「キュー!」
「怪我してりゅって」
「えっ・・・また聖獣?」
怪我と聞いてチーたんが出番だと思ったらしく、黄金樹の実の芯の部分をツンツンする事を中断して飛んで来た。
「チーチーチー!(怪我の事なら任せてっ)」
「行こうか」
「キューキュー」
「こっちらよ」
2人だけで奥に行くのは危ないと思いヨウムお爺ちゃんについて来てもらった。
見つかったのは手足の一部が石化して倒れている人だった。コカトリスにやられたのかもしれない。
服に血が滲んでているから怪我もしているようだ。
チーたんが見ることでどんどん治療が行われていった。石化も治り綺麗な姿になった。
「こやつは森の妖精じゃのう・・・」
「えっ?」
「妖精たん?」
「耳が尖っておるじゃろ?」
「本当だ・・・」
「お耳が長いの」
「森の奥に住んでおるんじゃよ、時々この辺でも見かける事があるのじゃ」
「そうなんだ・・・」
乙女ゲームで魔族とされる種族が住んでいるのは、帝国の迷いの森だけでは無いらしい。
「声をかけても無視されるのじゃが悪さをして来ることは無いのじゃ、そっとしとくのが良いのじゃ」
「黄金樹の実を採りに来たのかな」
「わたちの1個あげゆ」
「優しいのぅ」
その時の森の妖精がパチっと目をあけた。警戒の顔をしたけど自身の体をペタペタと触り、治療された事に気がついたらしい。
「はいあげゆ」
「・・・」
森の妖精は黄金樹の実を差し出しているフローラの顔を見つめたあと、黄金樹を手にとった。
「戻ろうかの」
「うん」
「キューキュー」
「バイバイ」
「チー(私も実を食べたい)」
森の妖精をその場に置いて泉に戻った。
森の妖精と遭遇した事はリーナにも話しておいたほうが良いんだろうな。ゲーム的な何かが関係しているかもしれないし。
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