第27話 さすが大卒だな・・・(エカテリーナ視点)
悪役令嬢として産まれた私にとって、破滅的な運命のシナリオブレイクを狙うにあたり、ヒロインの中身が同じ転生者で、しかも中身が前世の身内である兄貴というのはこの上なく幸運な事だ。だけど前世もそうであったように兄貴は何となく私をイライラさせる存在だ。
私はいつも真面目だった。小中高大とずっと優等生だったし両親の期待通りに地元の銀行という手堅い所に就職した。唯一の失敗は高校時代から付き合っていた男がロクデナシになってしまった事ぐらいだと思う。
兄貴はいつも不真面目で、親の言う事を聞かず、友達と遊び歩いていた。ブサメンだからか恋人が出来た事は無かったけれど、仲間は多くいつも楽しそうにしていた。
私は小学校の頃まで兄貴と仲良くしていたけれど、中学校の頃から見ているとムカムカするようになって口も聞かなくなった。兄貴の気配を感じると部屋に閉じこもり、不快な居候がいるという感じで接していた。
兄貴は不真面目だった事もあり高校を中退し、日雇いのバイトのような仕事をして暮らすようになった。稼いだお金は車の改造や友達との遊興に使い、家には一銭も入れなかった。柄の悪そうな連中との付き合いも多く、近所で悪い噂も流れていた。
両親は「あいつのようになるなよ」と言いながらも「スネを齧らないだけ立派だ」とフォローしていてさらに私を余計にイライラさせた。
私は銀行に就職したあと当てつけるように家にお金を入れた。「リナはすごいなぁ」と飄々と言いながら改造した車で出かける兄貴を、私は良く睨みつけていた。
そんな兄貴ではあったけれど、ストーカー化した元カレが家に突撃して来たとき、冷静に追い払い、オロオロしている両親にかわり、警察への相談しに行くのについて来てくれた。
その後少しだけ兄貴と打ち解け、リビングで食事をしたりテレビを見ている時に兄貴が入って来た時にイラつく頻度は減った。
元カレの事は、半年も過ぎたあたりで油断してしまい「残業せず暗くなる前に真っ直ぐ帰ってこいよ」という兄貴の忠告を守れず殺されてしまったのは本当に自業自得だと思う。きっちりと仇討ちをしてくれたと聞いて本当に感謝している。
転生後に再会した兄貴は前世と変わらず飄々としていた。ゲームヒロインに産まれたため前世のブサメンとは正反対の美少女なのに、髪をばっさり切り自身を男の子だと言い、冒険者目指してると言って傭兵や騎士に混じって木剣を振っていた。
兄貴の母親であるナザーラ男爵夫人が「せっかく可愛く産んだのに勿体ないわぁ」とか「そろそろ礼儀作法を覚えないよねぇ」とか言われてもどこ吹く風だ。それどころが前世の両親と兄の姿と重なって見えてしまう。
兄貴は「プリンセスエデン」の内容を殆ど知らなかった。最初はアニメを見て知っているみたいな事を匂わせていたけどブラフだったらしい。そのくせ自身の不幸フラグを綺麗に折っていた。義妹となるフローラとの確執は無く、父親が新たな貴族家の初代となる事で、学園でイジメを受ける可能性をほぼ無しに出来ていた。
そして2つの加護があることと、冒険者になると言って鍛えた事で高い戦闘能力を獲得しているし、チート級の聖獣を2体従えていて、魔王が王国に攻めて来てもなんとか撃退してしまいそうな状態だ。
飄々と明るい性格のおかげで、エルム男爵家の騎士達や、「雷轟」という護衛の傭兵達だけで無く、私の護衛騎士達とも打ち解けてしまっている。
そして極めつけは兄の身内だという祖父母達だ。魔王とされる森の妖精と戦闘は、最後迷いの森という彼らのテリトリーで行われるため、かなりの苦戦をするのだけれど、兄貴は森でのゲリラ戦のエキスパートである祖父母たちから冒険者の心得えという名の薫陶を受けていた。つまり兄貴は意図せず魔王との戦いの準備を着々と積み重ねている状態だったのだ。
こういう結果を見せつけられるにつれ、真面目に取り組んでいる私が馬鹿みたいな気がして、中学校の時から感じていた兄に対するイラつきを今更のように思い出してしまうのだ。
先の展開の陰鬱さを伝えても、「えっ?僕がそんな鬱ゲーのヒロインしなくちゃならないの?」なんて言っているのに口元が笑っていて悲観的な様子を感じない。
「お爺ちゃん達に案内して貰って調べてみるか」とか「森の妖精が捕まらないように出来ないかな」なんて楽しそうに言うのだ。
元冒険者だった護衛騎士団長から、「ドラゴンに挑みに行く冒険者は楽しそうな顔をする」という話を聞いた事がある。兄貴はそういう冒険者達と同じ正常バイアスにかかった人間なのだろう。悲観的に物事を考えてしまう私とは正反対の存在で、見ているとイライラしてしまうのだ。
「なんか楽しそうね・・・」
「裏ダンジョンって事はレアアイテムとかあるんだろ?」
「えぇ・・・それまでの最強装備を上回るチートな装備が落ちてるわよ」
「そんな装備があるならリーナの破滅エンドも何とかなるんじゃないか?」
「そりゃそうでしょうね、でも裏ダンジョンの攻略なんてゲームのエンドコンテンツなのよ?」
「リーナはその攻略知識があるんだろ?」
「えぇ・・・攻略情報は転生後に覚えている限りメモして紛失する可能性も考え何度も読み返して暗記したもの」
「じゃあ大丈夫だろ」
「簡単に言うのね」
「リーナは答えがあるものを解くのは得意だったからな」
「どういう事?」
「リーナは昔から頭は良かったのに不慮の事態の時はダメダメだっただろ」
「・・・」
反論出来ない部分なので黙るしか無かった。
「なんくるないさって言うだろ?」
「どこの言葉よ」
「沖縄の言葉で何とかなるって意味らしいぞ?」
「gue sera,seraとかWhatever will be,will be方が分かりやすいわ」
「どこの言葉だよ」
「スペイン語と英語よ」
「さすが大卒だな・・・」
映画の主題歌の歌詞で覚えていただけで、英語はともかくスペイン語なんて学んだ事はない。
英語の慣用句として有名な「Whatever will be,will be」が分からないとは。
同じ転生者とコンタクト取るために、国際標準語である英語が確実だろうと「Where are you from」と手紙で書いたけど、兄貴が翻訳出来たのは結構ギリギリだったのかも知れない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます