第26話 裏ダンジョンがあるのよ

 歓迎会の宴の後、リーナを人気の少ない家の裏手に誘い、魔の森の奥にある泉の事を何故気にしていたのか質問した。エバンスはいるけれど、エバンスはリーナが大丈夫だと太鼓判を押す存在なので、周囲の警戒をさせつつ同席させている。


「あの泉の底には裏ダンジョンがあるのよ」

「えっ?裏ダンジョン?」

「えぇ・・・」


 あれ?この世界って乙女ゲームなんだよな?何でRPGっぽい単語が出てくるんだ?

 そういえば以前僕がドラゴンと戦うともいってたな。乙女ゲームって何だ?


「魔王を倒した直後ぐらいにヒロインの故郷でスタンピードを起きるのよ、その原因が始まりの村の近くにある魔の森の奥の裏ダンジョンだったって訳」

「なるほど・・・」


 リーナはべヘム村を「故郷の村」と呼んでいた。ゲームはヒロインはエルム領から王都の学園に向かうシーンから始まり、べヘム村は幼少期の回想シーンでのみ登場し名前は不明だけど、僕から聞いた地形や建物の配置から間違いないと言っていた。


「裏ダンジョンってどうすりゃ良いんだ?」

「ゲームでは魔王の残党が封印を解いたといわれていたわ」

「どうやって解いたんだ?」

「そこら辺の描写は無いわ」

「なるほど・・・」


 魔王討伐には興味がないけど、故郷が壊滅する事になるのは嫌だなぁ。


 そもそも魔王が束ねる魔族っていうのが良く分からない。

 物語で描かれている1000年以上前に現れた魔族という存在の特徴は前世のファンタジーで良くあるドワーフにそっくりだ。ズングリムックリで髭モジャで洞窟に住み酒を好み鉱山で鉱石を掘り金銀財宝を作り出す陽気な存在だったらしい。

 ただ言葉を介さなく交渉出来ない存在で、ある時突然人を襲うようになったため討伐したと物語に書かれている。


 言葉を介さないのは言語形態が違っただけでゃないか。襲って来たのは逆鱗に触れるような事をしたからではないか。僕はそう思うけれど、魔族を束ねていた魔王を討伐したら魔族も世界から消えそうだし、魔族が使っていたという遺跡はあるけれど、魔族は言葉を介さない存在だったように文字が無いため真相は闇の中だ。


「そういえば魔王ってどんな奴なんだ?物語に書かれてるのと同じドワーフっぽい感じか?」

「いいえ、今度はエルフっぽい感じよ。リンガ帝国の迷いの森の奥に住んでいるわ。排他的で外部と一切接触してこない種族よ。ただ突然人族に襲いかかって来るわ」

「迷いの森って迷った狩人を癒したっていう妖精がいるとされる森か?」

「えぇ・・・」

「それってその妖精が魔王なんじゃ無いのか」

「えぇその通りよ」


 妖精ってイタズラ好きとか言われているけど、どちらかというと善なる存在だよな。それが魔王と言われるってなんか違和感あるな。


「その妖精が襲って来るのって人間の方に問題があったからだったりするのか?」

「えぇ、森で倒れた妖精を見つけた人間が街で妖精を見世物にするのよ」

「返せば戦争にならずに済んだのでは?」

「森から出た妖精は長生き出来ないのよ、だから見世物にされた森の妖精は同朋に助けられた時には既に死んでいたとなっているわ。人間は襲って来た森の妖精達をさらに捕まえようとするわ、そして怒った森の妖精達は人を無差別に襲い出すのよ」

「それでリンガ帝国が滅びるのか」

「えぇ、怒った森の妖精は言葉を介さず襲って来るわ。だから魔王と同じものとして討伐するしか無かったってストーリーだわ」


 なんだその侵略した側が手痛い反撃を受けた事に腹を立てて、相手をファシストだと言って世界の敵であるかの様に扇動し始めるような話は。社会を風刺でもしているのか?


「乙女ゲームってそんな暗いストーリーなのが普通なのか?」

「さぁ?だけどゲーム性もストーリーもグラも良かったから神ゲーって呼ばれてたわよ」

「神ゲー?」

「美形のイケメンキャラ達が美しい魔族たちと死闘をする。次々に明かされる人間の醜さと愚かさ。その結果の後味の悪さ。鬱ゲーなのよプリンセスエデンって」


 鬱ゲーってヒロインが死んだり寝取られたりするゲームだっけ?あっ・・・乙女ゲームだから寝取られるのは男の方か・・・それはどうでも良いけど。


「僕がその鬱ゲーのヒロインやらなきゃならないの?」

「優しい父親が貴族の横暴によって死亡。「日」の加護に目覚めた事で周囲で起きる醜い争い。義家族との確執。学園でのイジメ。魔王討伐に強制参加。明かされる魔族の真相。魔王討伐後に故郷が壊滅し家族を失う。そんな暗い世界で唯一の希望がイケメンとの恋なのよ」


 そういうのを乙女ゲームって言っていいの?もっとお花畑な女性がフワフワとした世界でキャッキャウフフするゲームじゃ無いの?


「お父さんとの別れは辛いけど、エルム男爵家との仲は良好だし、父親が男爵家の初代になった事で貴族のイジメは殆ど起きないみたいだよ?」

「そうなのよね・・・私が不幸フラグ折ろうと頑張ってるのに全然うまくいってないっていうのに、兄貴は無自覚に成功してるのよね・・・」

「異世界だし魔法のある世界だから冒険者になりたいって言ってただけなんだがなぁ・・・」


 なんかジト目で見られているけれど、妹にそういう目で見られてゾクゾクする性癖は持っていない。だからそんな目で見ないで欲しい。

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