第25話 高いハードルだけど頑張れ
朝から馬車で移動したためべヘム村についた時には正午を少し過ぎたあたりだった。この時期のべヘム村は蝉の鳴き声が周囲からこだましている。久しぶりに訪れたのでそれを懐かしく思った。
蝉は火で軽く焼き、中にある筋肉の部分を取り出して食べるのが、村の子供たちにとってのおやつの1つだ。平民は火魔術が得意となる「人」の加護を持つ人が多いので、捕まえ次第焼いて食べる事が出来る。 別の加護を持っていて火魔術が使えなくても近くの人に焼いて貰える。
僕も最初は抵抗があったけど、慣れると鳥のササミのようで結構美味しいので食べていた。なにせこの世界は1日2食が普通でベヘム村もそうだった。貴族の様にお茶の時間という名のおやつタイムが無いのでお腹が空くのだ。
村は領主のお嬢様が来るという事で歓迎ムードを作り上げていた。先見の騎兵を伝令に出していた事もあり、村人が全員で村の門の前で整列していたのだ。
「エルムだんちゃく家のフローラでちゅ、よろちくお願いちまちゅ」
「ようこそ参られた、是非ともゆっくり滞在下され」
一応領主の娘による視察という形を取っているため、視察団のトップはフローラということになっている。この挨拶はエルムの街での視察でもした事があったし、馬車の中でも練習したので、舌足らずではあったけどきちんと挨拶出来た。
「父さん、母さん、ただいま」
「お爺ちゃん、お婆ちゃん、ただいま〜」
「また大きくなったのぅ」
「ミートパイを作ってあるからゆっくりしていきなさいね」
ヨウムお祖父ちゃんとアンナお婆ちゃんは、時々僕とマリア母さんを訪ねてエルムの街に来ていたので、そこまでご無沙汰という訳では無い。
エルム領の騎士達や「雷轟」13番隊のみんなに緊張が走っているのは、エルムの屋敷でヨウム爺ちゃんとアンナお婆ちゃんと手合わせした時の記憶があるからだろう。
ヨウム爺ちゃんとアンナお婆ちゃんは2人で「雷轟」13番隊の8人と互角の戦いをして一目置かれているのだ。
この世界では魔物を倒すと力の一部が取り込まれ強くなるといった事が起きるらしい。長年魔の森ので狩人をしてきたヨウムお爺ちゃんとアンナお婆ちゃんは、それをずっと行って来たため、かなりの強者になってしまっているらしい。
リーナの騎士達が怪訝そうな顔をしているのは、リーナがエルムの街に来る直前にヨウムお爺ちゃんとアンナお婆ちゃんがやって来たばかりで、まだ一度も手合わせしていないからだろう。
フローラとリーナとその専属メイドとエバンスは村長宅に宿泊。僕とマリア母さんとガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんはヨウムお爺ちゃんとアンナお婆ちゃんの家に厄介に宿泊する。他の随行者たちも村人の家に民泊のような形で散っていった。
べヘム村は豪雪地帯にあり、長い時間雪に閉ざされる事もあって、閉塞感がないよう間取りは大きく、食料や焚き木などの備蓄をするスペースもあるため、家が大きめに作られていた。
夏場の今は備蓄を貯め出す時期であるため、まだ空きスペースがあり、外からの来訪者を受け入れる余裕がかなりあった。寝具の持参は必要だけど、暖かい季節なので、野営用に持ってきた毛布を被れば床で寝ても風邪をひかない陽気だ。
そういえば僕に良くちょっかいをかけて来ていたパウロの奴がリーナをポーッと見てたな。一目惚れでもしたのかな?公爵令嬢というかなり高いハードルだけど頑張れ。
△△△
夕方に歓迎の宴が行われた。上位の魔物の肉はかなりの高級品らしいけど、べヘム村ではありふれた食材だ。他にも魔の森で採れる山菜類も王都に行けば薬膳に使われる高級食材らしい。素朴な味付けだけど「雷轟」13番隊やリーナの護衛騎士たちにはかなりの好評だったようで、「酒が進むぜ!」と言いながら村人と陽気に手土産で村に持ってきた酒の樽を開けていた。護衛って一体何だろうと言うような醜態ではないかと思う。
「その泉のほとりに石碑のようなものがありませんか?」
「あるのぅ・・・古代の遺跡じゃと思って調べたが良く分からなかったがのぅ、お嬢ちゃんは良く知ってるのぅ」
「えぇ、以前本で読んだ事があるので」
「なりほどのぅ、発見したのは儂らが最初じゃと思っていたが、既に知られていたんじゃのぅ」
「今は知られてないと思いますので、お爺様たちの発見で良いと思いますよ」
リーナがヨウム爺ちゃんに魔の森の奥にある泉とそこにある石碑の事を聞いていた。僕も聞いた事があるけど周囲に遺跡があるわけじゃないらしい。ヨウムお爺ちゃんとアンナお婆ちゃんは古代の人が泉を神聖なものとして崇めていた名残りじゃないかと言っていた。
「あの泉の石碑の由来でも知ってるの?」
「後で教えるわ」
「わかった・・・」
何だろう、秘密にしなければならないものなのだろうか。まさかゲーム関連の場所なのか?
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