第23話 絶対あとで後悔する奴だ

「何を作っているの?」

「あっちの料理の再現よ、マグダラでは料理なんてさせて貰えなかったの」

「へぇ・・・何を作るの?」

「プリンよ」

「なるほど、好きだったもんな・・・」

「そうね・・・」

「プリンって冷やす道具なくても作れるのか?」

「水魔術と風魔術を併用すると氷が作れるのよ、気化熱の応用なんだけどね」

「何それ、僕も知りたい」

「良いわよ別に」

「他にも魔術を知ってるのか? 僕が知ってるのは、冒険に使えるからと教えられたものだけなんだ」

「えぇ・・・公爵家で調べられた限りの呪文を知ってるわよ」

「マジか・・・」

「貸し3つで全部教えるわよ」

「うわっ・・・絶対あとで後悔する奴だ」

「部屋の温度を下げる呪文もあるわよ?」

「聞きます聞きます、暑い夏は嫌なんですっ!」


 こいつ文系だったし銀行に就職したけど、高校時代に化学部に所属してたんだよな。付き合ってた男が化学部だったってだけなんだけどな。その時期に動画サイトで面白実験動画をみていたので、家族共有パソコン開くと、オススメとして紹介される動画が、そればっかりになっていたんだ。


「カラメル作るついでにベッコウ飴も作っておくか・・・キャンプの時の携帯食に出来るでしょ」

「良いねぇ」


 エルム領ではサトウダイコンを生産し砂糖に加工しているため、結構安価に手に入る。

 リーナは「異世界では甘味は贅沢ってのが定番なのに、甘味に溢れているのは、単純に乙女ゲームの世界だからだと思ってた」と言っていたけれど、何でもかんでもゲームに絡めて納得しちゃうのはリーナの悪い癖だなと思う。

 可愛い下着があるのは乙女ゲームの世界だから。コスメが充実してるのは乙女ゲームの世界だから。風呂とトイレ充実してるのは乙女ゲームの世界だから。

 砂糖の生産者がいなければ甘味なんか作れない。可愛い下着があるのはデザインした人がいるからだし、風呂とトイレも仕組みを開発しt発明家がいたからだ。

 そんなに乙女ゲームというだけで世界が便利になるなら、僕はエアコンと冷蔵庫とスマホとネットの開発をお願いしたいものだ。


「いい匂いがしゅるの」

「キュー!」

「チー!(甘い匂い〜)」


 カラメルの焦げる甘い匂いに誘われて、フローラ三姉妹がやってきた。どうやらまた桃園の誓いを結び直したようだ。


「珍しいをお菓子作ってるのよ」

「なんていうお菓子にゃの?」

「プリンっていうお菓子よ」

「プリン?」

「プルプルしてて甘いのよ?」

「ぷりゅぷりゅ?シュライムみたいに?」

「そうね、スライムみたいにプルプルしてるわね」


 スライムはゴミや汚水を処理する有益な魔物だけど、そういう場所で飼育されているので美味しいというイメージは湧きにくいだろう。


「ベッコウ飴も作ってくれるんだってさ」

「ベッコウ飴?」

「キャンプの時に持っていくおやつだって」

「おねぇたんしゅごーい!」


 あれ?フローラはいつの間にリーナをお姉さんと呼ぶようになった。少しだけ誕生日が早いけどリーナは同年だぞ?それを言うなら僕もだけどさ。


「いつの間にリーナをお姉さんと呼ぶようになったんだ?」

「おにいたんをおにいたんと呼ぶからよ?あたちより誕生日が早いからおねえたんなの」

「僕よりリーナの方が誕生日が早いけどそれはいいのか?」

「おにいたんはおにいたんなのよ?」

「僕はフローラだけのお兄ちゃんじゃ無いのか?」

「おにいたんはあたちだけのおにいたんなのよ?」

「リーナは僕をアニーと呼んでいるよ?」

「だけどおにいたんはリーナを妹だと思ってるのよ?そしてリーナはおにいたんをおにいたんと思ってるのよ?」

「僕の妹はフローラだけだぞ?」

「わたちはおにいたんの妹じゃないのよ?」

「えっ?」

「わたちはおにいたんの奥さんなのよ?」

「いつの間にフローラが僕の奥さんに?」

「しゅきあってたら夫婦なるのよ?おにいたんわたちが好きでしょ?わたちもおにいたんがしゅきなのよ?」

「なるほど・・・」


 良くわからないけれど、フローラの中ではそれで理屈が通っているらしい。


「2人はまだ結婚してないでしょ?」

「お母しゃんに、子供同士は結婚出来ないって言われたのよ・・・」

「結婚しないと奥さんならないんじゃない?」

「結婚しなくても奥さんや旦那になれるのよ? マーカシュがお父しゃんを、エルムの旦那って呼ぶのよ?」

「なるほどね・・・」


 フローラなりに色々考えて矛盾を解消していった結果、リーナをおねえたん呼びすることになった訳か・・・。小さい頃の勘違いをし、それを大人になっても治らないという事がある。これも訂正するべきだろうか。別に害は無いし良さそうな気がする。

 僕とリーナはエバンスに目を向けた。エバンスは目が見えないのに、僕とリーナに見られたと気配で察し顔を背けた。

 僕とリーナはお互いに見つめあい頷きあった。


「私もアニーを兄貴と呼んでも良いの」

「いいよ?でもおにいたんはわただけのおにいたんなのよ?」

「分かったわ・・・」


 保留・・・それが僕とリーナが出した結論だった。

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