第22話 脆いものだったようだ

「フローラ、勉強の時間だろ?」

「ぐー・・・ぐー・・・」

「キュー・・・キュー・・・」

「チー・・・チー・・・(ぐー・・・ぐー・・・)」

「そうはならんだろ・・・」


 フローラは勉強が苦手だ。でも学園を始める前に読み書き計算ぐらいは出来ないといけないため家庭教師が宛がわれる事となった。

 僕もリーナも読み書き計算が出来ているため免除されていた、フローラはそれを命じたエルム男爵に「お父たん嫌い!」と言ってプクーっと膨れていた。

 フローラが家庭教師と勉強中、僕やリーナやエバンスは、エルム領の騎士や、「雷轟」13番隊のみんなや、リーナの護衛騎士達と剣術の訓練をしていた。

 それを終えて屋敷に戻ったら、フローラの家庭教師が、廊下でフローラを探していた。何でも九九の7の段を教えている時に、トイレに行きたいと言って部屋を出たきり帰って来ず、今日のノルマが達成出来ていないそうだ。使用人にお願いしてフローラの部屋も見たけどいなかったそうだ。

 みんなで手分けして探そうという事になり、見つけたのは僕の部屋だった。そして1人と2匹がベッドに入り狸寝入りをしていた訳だ。


 口で「ぐー・・・ぐー・・・」と言いながら寝る奴は居ないし、ウサたんもチーたんも寝る時は静かだ。フローラに「寝たふりちて」とでも言われて意味が分からず、咄嗟にフローラの真似をしているのだろう。


「ほら起きないとくすぐるぞ?」

「ぐー・・・ぐー・・・」

「キュー・・・キュー・・・」

「チー・・・チー・・・(ぐー・・・ぐー・・・)」

「ほらコチョコチョコチョ」

「きゃははははははっ!」

「キュ・・・キュー!」

「チッ・・・チー!(にっ・・・逃げろっ!)」


 僕に脇をくすぐられて逃れようとベッドの上で暴れるフローラと、その動きに巻き込まれないようにベッドから飛び出して一目散に逃げる2匹。フローラ、ウサたん、チーたん三姉妹による桃園の誓いは脆くも消え去ったようだ。


「明日からキャンプに行くんだぞ? 7の段出覚えられないとキャンプ取りやめにされちゃうぞ?」

「7の段むじゅかちい・・・」

「慣れだよ、魔術の呪文と一緒さ」

「わたちまじゅちゅちゅかえない・・・」

「練習すればそのうち口が回るようになるよ、ゼノビア様も小さい頃そうだったんだろ?」

「うん・・・ちょうだって・・・」

「それに、もうすぐお姉ちゃんになるだろ?」

「うん・・・」

「逃げるお姉ちゃんじゃ無いって所を見せないと、ゼノビア様も安心して赤ちゃん産めないぞ?」

「しょうにゃの?」

「フローラが手がかかる子だったら赤ちゃんの世話に集中出来ないだろ?」

「わたち手がかからにゃい子になにゃる!」

「そうそう、その意気だよ、ほら顔を洗っておいで、先生待っていてくれてるから」

「あいっ!」


 ゼノビア様は最近懐妊していたらしい。予定日は4ヶ月後らしい。


「ほら先生にごめんなさいしよう」

「ごめんなさちゃい」

「ちょっと急ぎすぎましたね・・・少しゆっくりとやりますよ」

「良かったな」

「あいっ!」


 フローラに飛びながらついていくウサたんとチーたん。

 チーたんって僕のパートナーなのに、今ではフローラにベッタリだよな。

 フローラはチーたん言葉は分からないらしいけどどうやらウサたんが翻訳してフローラに伝えているらしいんだよな。


「フローラは見つかったのね」

「僕の部屋に隠れてたよ」

「兄貴なら匿ってくれると思ったのね、随分慕われてるわね」

「絵本を読み聞かせたぐらいなんだがなぁ」


 僕が来るまでゼノビア様だけにベッタリで屋敷の外に出ず、同世代の友達居なかったみたいだしな。


「明日から魔の森に行くっていうのに余裕そうねぇ」

「頼もしい道案内頼んでるしね」

「兄貴の祖父母達ってそんなに凄いの?」

「父方の祖父母は「静風」と「堅土」の二つ名を持つ冒険者。母方の祖父母はオークの巣からの村への侵攻を半年抑えた魔の森の狩人だよ」

「・・・良く分からないけど凄そう」

「元々4人でミスリル級冒険者チームやってたらしいよ」

「準英雄級じゃないっ!」

「森でゲリラ戦やられたら「雷轟」全部隊集めても勝てない相手ってマーカスが言ってたよ」

「「雷轟」って冒険者だとオリハルコン級相当の実力者がリーダーしてるって言われている傭兵団なんだけど」

「火力不足でドラゴン討伐に失敗したからミスリル級止まりだけど、模擬戦ではアダマンタイト級と渡り合ってたらしいよ」

「アニーはその教えを受けてる訳ね・・・」

「そういう事、「雷轟」のみんなが護衛対象である僕と森に行くのも、僕が心得を叩き込まれていて、足手まといにはないとわかってくれたからだよ」

「なるほどね・・・」


 ウサたんの言葉が分かるフローラはまだしも、僕については自身が足手まといでないと示さないとエルムの街近郊の森であっても同行は許されなかった。マーカスと木剣で打ち合い、そこそこの冒険者レベルに戦える所を示す事で許された。

 最初は森の遊歩道部分や浅い部分から始まったのだけれど、ウサたんの有能さがわかっていき、どんどん奥に進むようになったけどね。


 今度は魔の森に行くことになった。浅い部分でのキャンプといってもかなり危険魔物もいる森なので、説得材料が必要だった。例え魔の森が非常に森の幸に溢れる場所であり、ウサたんの実績があっても、魔の森はエルムの近郊の森とレベルが違う。

 今回は魔の森のエキスパートである僕の祖父母達勢揃いで護衛兼道案内をお願いする事でエルム男爵から許可がおりた。それにエルム領の騎士達と、「雷轟」13番隊と、リーナの護衛騎士達も居るし大丈夫だろう。

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