第21話 わたちのお兄たんにゃのっ!(エカテリーナ視点)
「わたちのお兄たんにゃのっ!」
「ちょっと間違えただけよ、ごめんね?」
私が間違えて兄貴をフローラの前で兄貴と呼んでしまったため、フローラが泣き出してしまった。
散々、泣いたあと兄貴と聖獣達に慰められて泣き止んだ所で話が出来るようになった。
「あなたのお兄ちゃんは取らないわ」
「うしょじゃにゃい?」
「えぇ・・・私には別にお兄ちゃんがいるもの」
そこで私はエバンスにチラっと目線を向けた。
それを見たフローラは納得したような目をして涙を拭った。
「リーナはエヴァンチュがしゅきにゃの?」
「そうよ?」
「お兄たんはフローラのものなの」
「分かったわ」
兄貴がフローラをよしよしと撫で、聖獣達が「チーチー!」や「キューキュー!」と言いながら祝福する様に二人の周りを回っていた。
小さい頃、転んで泣くと兄貴にこんな感じに慰められていた事を思い出した。
私は小学校高学年の時から泣かなくなり、兄貴に慰められる事が無くなった。
時期は少し曖昧だけどきっかけは覚えている。中学校3年生だった兄貴が顔面を沢山腫らして帰った事を同級生の友達に話したら、兄貴が不良って言われている人達と良くつるんでいて、とても怖がられていると教えられたからだ。
両親が兄貴の友達を嫌っていたのを知っていたけれど不良と呼ばれている事を知らなかった。兄貴を嫌っていなかった私は兄貴の部屋に入り「悪い人と付き合うのを辞めて」と言った。
兄貴は悲しそうな顔をしたあと、目を背けて「出来ないよ」って言った。多分兄貴なりの理由があって彼らと付き合ってるいたのだろう。でも分からなかった私はとても泣いた。けれどその時の兄貴は慰めてはくれなかった。
その日から私は、「兄貴のようにならないで」と言う両親の言葉通りに優等生になり、次第に兄貴の事を嫌うようになった。
前世の実の兄妹がお互いに兄妹と言い合わず、お互いに血の繋がりが人を兄と妹として接しているという変な関係になっている事に少しし不思議な感じがした。
かといって、今更私と兄貴が兄妹のようになりたいと思わないし、なてるとも思っていない。前世の兄貴を兄として扱って来ず、その関係を失っていたし、最後の瞬間まで「何で私が」と思い家族の事を考え無かった。
「リーナ・・・」
「本当の気持ちよ?」
「僕は絶対にリーナを守るから」
「うん、おねがい」
私はエバンスお兄ちゃんに鉱山の枯渇とそれに伴うマグダラ公爵家の没落と、私が暗殺される可能性について話をしてある。
エバンスお兄ちゃんの実家だったマクレガー男爵家は、貴族派筆頭のマグダラ公爵家と貴族派ナンバー2の本家であるマクレガー侯爵家との橋渡し役で鉱山とは関わり合いが無く全く知らなかったようだけど、私の話が起こり得る事だと思った様で真剣に聞いてくれた。
マグダラ公爵家の没落前に皇太子から婚約破棄される方法については、兄貴から1つ良いアイディアを貰った。
実は悪役令嬢である私がヒロインを陥れるために誘拐を画策するという事がイベントとしてあった。
学園3年生の1学期に冒険者としての指名依頼があると言われ、それを受けて依頼主がいるという酒場に行くとそこの客に襲われるのだ。
街中の室内なので使用魔術に制限があり、1対5人の戦闘になり、負けると誘拐される。
誘拐が成功した場合無事に帰って来た場合でも「処女性」が失われたと考えられて王族との婚姻は破談されてしまう事になる。
1学期の間、冒険者ギルドに行かなければ回避出来るけど、金銭的にかなり困る事になるし、悪役令嬢であるエカテリーナを糾弾する話が1つ減り断罪イベントが失敗しやすくなる。
また冒険者ギルドで指名依頼を断る事も出来るけど、冒険者ギルドの評価が下がり、ゴールド級冒険者への昇格イベントを逃し、その後起こる光輝竜襲撃イベントは後方支援となり最強の防具を作るための報酬は得られなくなる。。
幸い戦闘は5ターン持たせるとカール殿下が駆けつけて来るので
兄貴はゲームのイベントとしてのそれを知らなかったけれど、たまたま読んでいたネット小説に、そういった描写の作品があったそうで、可能かどうか聞いて来たのだ。
一生誘拐犯に犯されたという不名誉な噂が付いて回り、貴族的な良縁には恵まれなくなるというデメリットはあるけれど、王家を傷つけない方法で婚約破棄が可能となる方法ではあった。
救助後に私は自宅に軟禁されてしまうけれど、出奔して隠れ住む事に比べたら非常に身は安全となる。
マグダラ公爵家が没落した際に、金策の為に金持ちに売られてしまう可能性が残されるけれど、それこそマグダラ公爵家が捜索する力も失っているだろうし、出奔はしやすくなる筈だ。それこそエバンスお兄ちゃんと愛の逃避行をしたって良いのだ。
「私が婚約破棄となったら次に婚約者候補に兄貴が入るんじゃない?」
「僕は平民出の男爵令嬢だぞ?無いだろ・・・」
「今の陛下は才のみを挙げよという人よ?兄貴の実力を知ったら手放さないんじゃない?」
「僕も出奔した方が良いかな・・・」
「「日」の加護ってほんと迷惑・・・」
「リーナは本当の加護は「雲」なんだろ?」
「そうね・・・」
「でも信じて貰うのは無理か・・・」
「そうねぇ・・・」
お互いに本気で身体強化を行って的を破壊してみたけれど、私も兄貴も加護が2つあるため相乗効果があるようで粉砕してしまった。
普段身体強化を使う際は、私も兄貴も同じ様に無詠唱にし、さらに効果を落とすようコントロールしているそうだ。今回、練兵所について来る護衛がいなかったので、詠唱で身体強化をして的を殴ってみた。私と兄貴の本気を初めて見たエバンスは絶句していた。
「「海」って何の効果があるんだ?」
「そもそもどんな加護か分からないのよ・・・加護による魔術の威力増幅以外に良く分かって無いし」
「「空」も良く分からないんだよなぁ・・・」
「ヤハー様に聞いたらわからないって言われるだけなのよね・・・」
ヤハー様は自分の与えた加護じゃないものに興味が無いらしく、それに対する返事はかなりそっけない。
「そういえばヤハー様に男の方の祈りの場に入って良いって言われてたっけ」
「心が男だから?」
「そうらしい、リーナと違って災難だねって言われたんだよ。同情されたんじゃないかな」
「変な神様よね・・・」
「それは同感・・・」
兄貴の連れているチーたんの力で身体強化の暴走で傷ついた体がどんどん修復される。ゲームの戦闘パートではヒロインだけ自動回復スキルがあったけれど、聖獣カラドリウスの効果だったんだろう。
「私も聖獣欲しいなぁ・・・」
「出会ったのは偶然だよ?」
「聖獣って魔の森には結構住んでいるの?」
「チーたんを見つけたのは魔の森じゃなくエルムの街の北東の森だよ。ウサたんの仲間は結構いるみたいだけど、チーたんの仲間はいないみたい」
「ふーん・・・」
「あの奥に見える万年雪の山にはフェンリルがいるって伝説があるよ。あとかなり奥地に火山があるそうなんだけど、そこには多種多様なドラゴンが飛んでるのを見るらしい」
「あそこのドラゴンはレイドボスなんだけど・・・」
「そうなんだ・・・と言う事は将来の僕は戦うのか?」
「うん」
「マジか・・・」
兄貴は目を見開いて呆けてしまった。
乙女ゲームのヒロインの人生は希望に溢れているけど、作中は主人公らしく波乱万丈なイベントが多い。アニメでも結構戦闘シーンが多かったと思うのだけど、多分兄貴は殆ど見ていないのだろう。
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