第20話 それだけだったよ

「私が死んだあとそんな事になっていたんだ」

「あぁ・・・」


 リナが刺されて死んだあと、ストーカーだった男はすぐに捕まった。そして計画的な殺人であるとして懲役25年の実刑となった。

 親父とお袋は極刑を望んだけれど、殺人行為自体は予め凶器を用意し待ち伏せするなど計画的ではあるけれど、初犯だった事もあり検察による求刑は無期懲役。そして長い裁判の結果懲役25年の実刑が決まった。仮釈放は早ければ9年ぐらいで出るらしく、身勝手に人を殺したにしては罰が軽いように思えた。


 ただ警察にストーカー被害の届け出していたリナが殺された事は警察の不祥事として世間で騒がれた。近所でメディアによる悪質な取材が続き、お袋が心を病んでしまう事態になった。

 親父はリナを殺した男が出所したら殺しに行くと言い続けた。けれど服役囚の情報は遺族に全く入って入って来ず、どうなっているのかさっぱり分からず、酒を飲むとそういう事を叫ぶ厄介な存在になっていた。


 リナは頭の出来が良く容姿が良かった。出来が悪く不細工で高校を中退して土方をしていた僕とは違い、両親にとても可愛がられていた。

 リナも僕の事を下に見ていた。だから仲があまり良くないと言われればその通りだったと思う。


 そんな家族関係ではあったけれど、僕はリナを妬んだり両親を憎む事は無かった。リナと違い、小中高とあまり真面目に勉強して来なかったのは事実だし、不細工ではあったけれど体は非常に丈夫に産んで貰えた。

 リナを贔屓はしていたけれど、薄給の僕を実家から追い出すといった事は無かった。

 僕は友人と飲み歩いたり食べ歩いたりと、健康的な生活では無かったけれど、定年後にガンが見つかるまで大きな病気をした事は一度も無かった。


「ふーん・・・ちゃんと両親を看取ってくれたんだね・・・」

「お袋は最後、ずっとリナに会いたいと言っていたけれどな」


 親父は65歳で心筋梗塞で亡くなり、お袋は88歳で白血病で亡くなった。それを看取ってホッとした時に僕の胃ガンが見つかり、一度は手術が成功したと言われたけれど、今度は3年後に膵臓にガンが見つかり転移していた事が分かった。

 僕は手術の難しさと生存率の低さを説明され、再度の手術は断り緩和治療にして貰った。そして最後は意識不明になったので分からないけれど、多分一人寂しく病院で死んだ。


 俺は残りの余命を、親父の心残りにしていたリナを殺した犯人への復讐に使う事にした。幸い両親の遺産など結構なお金が残っていたので、土方時代に知り合った裏稼業の人に、リナを殺した犯人を捜すのと仕返し屋に頼んで残酷に殺して貰う依頼をした。

 奴は12年で仮釈放したあと、顔を整形し偽名を使って、まるで過去の罪が無かったかのように両親の会社を継いで悠々自適の生活をしていたらしい。

 仕返し屋は奴を誘拐して山に連れ出しじわじわといたぶるように殺してくれた。奴の妻や子や孫には手を出させなかったけれど、奴を殺す直前にAIで作られた無惨に妻や子や孫が殺される映像を見せ「殺してくれ」と懇願させてから殺したそうなので。復讐としては中途半端かもしれないけど、親父やお袋の無念が少しは晴れたのでは無いかと思う。


 奴の遺体は山の廃屋のバスタブの中で薬品で溶かされ回収されたものを下水に流して処理したそうで見つかる事はまず無いそうだ。その廃屋も解体されるそうなので完全犯罪という事なのだろう。

 警察が僕に行方を知らないか聞きに来たけれど、知らぬ存ぜぬで返しておいた。警察は僕が大金を使って奴の身辺を調べていた事を知っていた。けれ僕はその1ヶ月後に病院で死んでしまったので秘密はそのまま墓の中だ。仕返し屋がどうなったかまでは責任が取れないけれど、あれだけ証拠が消されたら見つかる事は無いんじゃないかなと思う。


「ちゃんと敵討ちしてくれたんだ」

「すぐに死ぬことが分かっていたからね。僕には残される家族もいなかったし怖いもの無しって奴だよ」

「お父さんとお母さんもこっちにいたら自慢できるね」

「どうかな?復讐を願っていた親父は褒めてくれるかもしれないけれど、お袋はお前に会いたいと、ずっとそれだけだったよ」

「そっか・・・」


 両親やリナには復讐が終わったあと墓前に報告した。けれどリナに伝わっていないようなので、墓前に報告すると草葉の陰を通して伝わるというのは迷信なんだなと思った。


 奴が失踪する日は俺はエジプト旅行していたし、修了の報告を受けた後は許される範囲で豪遊しまくったので、死んだ時に銀行に金が殆ど残らなかった。俺が産まれた時に両親が建てたという老朽化した家だけが、最も近い血縁者である従妹に残されただけだと思う。綺麗に解体すると土地代と相殺されてしまうぐらいのボロなので、相続放棄したかもしれないけれどね。


「それでお前は皇太子と結婚するのか?」

「暗殺に怯える生活なんてしたくない・・・また殺されるなんて嫌だよ・・・」

「エバンスって奴の事が好きなのか?」

「えっ?」

「気が付かれてないと思ってたのか?」

「うん・・・」

「お前って分かりやすいんだよ・・・フローラも気が付いていたぞ?」

「お兄ちゃんはフローラちゃんの事が好きなの?」

「好かれているのは分かるけど、さすがに前世は70近くまで生きたし、あの年齢には何も思わないよ。何年か経てば意識するようになるかもしれないけど、僕の体は女だしフローラだっていつか違うと気がつくだろ」

「なるほどね・・・」


 フローラは俺とリナが接触する事に嫉妬のような反応をしていた。僕は身体的には女だけど、フローラは今は僕の事を男の子だと認識している。恋愛か兄妹愛かは分からないけれど、かなり意識されている事は分かる。

 俺とリナは転生者同士として話をするため、二人っきりになれる機会を伺っていたのだけれど、その様子をフローラに察知されて邪魔されていた。

 リナのそばにいつもいるエバンスは、リナの言うことを聞いていたけれど、怪訝な反応はされていた。エバンスは僕が女だと思っているので、フローラの様に嫉妬はしないようだけど、僕と密談すると知ってかなり顔をしかめたのだ。

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