第18話 歓迎はされないでしょう(エカテリーナ視点)

「お父様・・・私、アニー・ナザーラ男爵令嬢と文通しあえる関係になりましたの」

「文通?」

「同じ「日」の加護を持つもの同士仲良くした方が良いと思い、手紙を出してみたのです」

「なるほど・・・それはいい考えだな・・・」

「それで、先方から遊びに来ないかという誘いがありましたの」

「何!? 男爵令嬢の方が訪れるのではなく、公爵令嬢であるお前を呼び付けたのか!?」

「いえ、手紙の中に、自然がいっぱいで綺麗な場所が多いとあったものですから、見てみたいと書いたら、そう返事が来たのです。あちらは身の安全を考えているようで領外に出ないよう言われてるようですわ」

「そういう事か・・・」


 手紙の中の小さなサインだけでは情報共有が出来ないため、なんとか直接交流が出来ないかと思った。私は屋敷から出る事を禁じられているし、相手は立場の低い男爵令嬢という事もあり傭兵に守られている状態で、護衛しやすいよう、人の往来が少ない辺境の街から出ないないようにしているそうだ。


「旦那様・・・良い話かもしれません。和解の為の使者を送ったという形を取れば、陛下の覚えが良くなり謹慎も明けやすくなりなすし。クゾルフ様の復職の工作もしやすくなるでしょう」

「なるほど・・・」


 いつもは不快にしか感じない家宰の言葉だけれど、今回に関してはナイスアシストだと感じた。王都の方で動きがあってもこちらには影響は無いだろうし、私が自由に動けるようになる方が大事だからだ。


「では護衛をつけて行ってくるといい。折角だし長く滞在し友誼を結んでおけ。特にアニー・ナザーラにはな。我らの陣営に取り込むには警戒が解かれた方が都合が良いだろう」

「分かりました」


 非常にうまく物事が進んだ。洪水対策や貧民対策など農民の蜂起の可能性を潰す提案については完全にスルーされてきたので思わぬ快挙に、喜びの衝動が沸き上がってしまう。


△△△


 しっかりと整備された王都周辺の街道までの道を進むのは快適だった。それを越えると領境を超える度に道が悪化していき馬車が揺れて乗り心地が悪化する。

 後列の馬車の車軸が痛み交換が発生して立ち往生という事もあった。


「辺境に近づくとこうなっていくのね・・・」

「土が肥え水が豊富なので穀物の生産が盛んらしいね」

「魔の森に近づくと魔物が増えて危険だし、鉱山が無くて海から遠いから領地は貧しい・・・って家庭教師達に聞いていたのだけれど、人の表情は貧しい感じがしないわね」

「エメール公爵の領地は5公5民。7公3民のマグダラ公爵領に比べて相当年貢が安いんだよ」

「あと食料が行き渡っているんでしょうね・・・売るほどあるのでしょうから」


 前世の感覚からすると、半分が税金として取られると言うだけで高いと思うのに、私が産まれたマグダラ公爵領はさらに重い税金を領民に課している。農地は少ないのに鉱山街があるので人口が多い。だから食料は不足がちで価格が高い。そして領民に重い税を課しているので領民は貧しい。

 けれど領都だけは非常に立派で領都にいる限りは領民が飢えている様には見えない。王都に負けない程の闘技場や観劇場や美術館や噴水公園があり、みんなお洒落な格好をしている。水害のあと領民が蜂起するのも当然という事だろう。


「ここがエメール公爵領の領都街壁?・・・随分と質素ね・・・」

「街壁や城壁はすごい立派です、魔物の侵攻から領民を守るためでしょうか」

「質実剛健という感じなんでしょうね・・・」


 エメール公爵領領都エメールの街はマグダラ公爵領領都マグダラと街のコンセプトが随分と違った。


「この辺は魔の森を含め未開拓の山から魔物が溢れる事があるそうです、私も冒険者時代にここで人食い巨人の群れと戦った事があります」

「人食い巨人?」

「体長5メートルぐらいの巨人です、傷つけても再生するんで剣が通じにくいのんです」


 傷が再生する巨人という事はオーガじゃなくトロルだろうか。TRPGではトロル、ウォートロル、トロルディザスターの3種いたけどそれだろうか。基本的に敵も味方も1マス1ユニットでほぼ同じ大きさで表現されていていたので体長5mと言われても分からない。

 スチルでは巨体で表現されていたレイドボスも、TRPGパートの戦闘では1マスのユニットでしか無かった。


「切り傷を再生するのなら、メイス使いのあなたなら大丈夫って事かしら?」

「いえ、切るより再生は遅いですが、こいつで潰しても再生します。「森の殲滅」という4人組の冒険者グループに身体強化と火魔術が得意な2人がいまして、切りながら燃やして再生出来なくしてくれたんです、私はその2人が戦いやすいよう挑発して注意を引き付けながら盾で攻撃を躱していた感じです」

「なるほど・・・」


 教えてくれたのは私の護衛のために付けられた騎士達の隊長であるザック・バーディス騎士爵だ。元ミスリル級冒険者で「粉砕」という2つ名を持っていたそうだ。

 魔術の防壁で身を守りながら、巨大なハンマーを振り回し、10m級の一つ目巨人を単独討伐した事があるらしい。

 それはドラゴン討伐に匹敵する実績らしく、それはオリハルコン級の実力があるそうだけど、オリハルコン級冒険者になるにはドラゴンバスターになる事という条件があるためミスリル級止まりだったそうだ。

 ちなみにドラゴンバスターになるためには、ワイバーンの様な亜竜討伐では認められないらしく、たまに人里にやってくる逸れドラゴンを待つか、山奥などドラゴンが生息する領域に行き狩らないとならないらしく、かなりハードルは高いそうだ。


 ザック・バーディスは、護衛騎士を決める際の面接で北部辺境地域に行った経験があると言っていた。そして稽古の様子から実力はマグダラ公爵家の騎士団で有数だと分かった。下級貴族の出という事で冷や飯を食っていたので勿体ないと思い隊長に指名した。他にも平民出という事で実力があるのに冷遇されている団員を指名させてもらった。

 選抜終了後に、マグダラ公爵が不審な顔をしていたので、いざという時に使い捨てに出来るので丁度いいと言ったら納得していた。


 エメール公爵領領都エメールの街は、対魔物戦闘を想定して作られているようだ。大型の飛行型魔物に対応するよう城壁の上には大型の石弓も据付られている様子が見える。

 外壁や城壁は所謂コンクリート製で平坦だ。登攀する魔物の引っ掛かりが少ないので、突き落としやすそうに思う。

 街に入ると魔物の襲来の時にシェルターとしても使えそうな堅牢そうな建物が多く並んでいる。中に食料を持ち込み立てこもり魔物たちが過ぎ去るのを待つだけでも助かる可能性が高そうに思う。


 マグダラの街の街壁は砂岩を切り出して積み上げたものだ。目地の間を強調する事で、整然と同じ形の石が積み上げられている様子が分かり見栄えが良い。垂直に積み上げられているけてど、目地の間があるので鋭い爪を持つ魔物なら登る事が出来るのではと思う。けれど人同士の戦争だと城壁の壁をへばりついて登る人は想定しない。城門を破城槌で破るか、雲梯などをかけて登るのが普通だからだ。

 国境に近く鉱山の領有について争った地であるために対人戦に特化した造りをしている。壁の向こう側から来る弓矢や魔術弾を防ぎやすいよう片側に屋根がかけられ、油壷や石を落としやすいよう下側に小さな穴が開けられていた。


「エメール公爵宛ての親書をさっさと渡して出ましょうね。エメール公爵はアイツとあまり仲が良くないようだし歓迎はされないでしょうしね」

「そうだね・・・」


 エメール公爵とマグダラ公爵は対立関係にある派閥のトップ同士という事もあって仲が良くない。領地の状態を見る限りエメール公爵の国王派閥の方が勝っているように思うけれど、経済力という点では鉱山や港を押さえている貴族派閥の方が勝っているそうだ。

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