第17話 ちゅぱつちんこー!
僕とフローラがウサたんが護衛を伴って森に出かけると、美味しいものを持ち帰って来る事は屋敷中に知られていて、護衛の「雷轟」13番隊の人も、屋敷の使用人たちに袋と背かごを手渡されて「お願いします」と言われるようになった。
「今日は木苺メインだからね」
「ジャムにしたら最高っすね」
「タルトも捨てがたい」
「獲物は忘れてないよな?」
「おうっ!」
「ウサたんさん、今日もたのんます」
「キュー」
「ちゅっぱつちんこー!」
傭兵のみんなは魔物にも対応出来るよう、藪を開く道具を剣鉈にしている。他にも解体用のナイフを腰に刺し、樹脂で防水加工された麻布のシートやロープなども背負いつつ。僕とフローラを囲みながら歩いている。
周囲には、幼児2人がオッサン風の集団に囲まれて歩いているようにみえる筈だ。けれど僕も含めてこの中に生物学上の男は1人もいない。
ウサたんは草食だけど、ウサギや大鼠やイノシシや鹿など食用の獲物を見つけるのもうまいので、教えてくれる。
「キューキュー」
「あっちの藪25m奥にのうちゃぎが4匹いゆの」
「へへ・・・・こっちは風下だな、ビリー、マイク、ジョン、行くぞ!」
「「「おうっ」」」
風と闇属性の呪文を唱えて気配と姿を消した4人が藪に向かい3分もすると、クビを折った状態の野ウサギを1匹づつ持った4人が戻って来る。
フローラはもうそれ見ても取り乱す事は無くなった。
「ウサギのスープ楽しみだね」
「俺は香草焼きの方が好きだがな!」
「解体したら追いかけるぜ、川はあっちだったよな」
「キューキュー」
「木苺はまだあっちの方にゃの」
「了解」
ノウサギ解体班の4人と分かれて先に進んだ。ウサたんがフローラの頭をテシテシと叩いて先に行こうと催促しているからだ。
「キューキュー」
「あしょこにこちあぶりゃがあゆの」
「了解」
1人がコシアブラを摘むため分かれた。
「キューキュー」
「あしょこにたりゃのめあゆの」
「了解」
ウサたんは「キューキュー」と言ってるようにしか聞えないけど、フローラとはちゃんと聞き取り僕達に教えてくれる。
「キュー」
「あっちのぎょうじゃにんにきゅぎゃくちゃいって」
「了解、ボブ行くぞ」
ウサたんは苦手だけど、みんな行者ニンニクが大好きだ。行者ニンニクを摘んだ人は、屋敷につくまでウサたんの風上に入らないよう立ち回らなければならない。
「キューキューキュー!」
「あっちにまんどらごりゃがあゆかりゃきけんって」
「マジか! 周囲に誰もいないか確認してから抜かないとな、全員集まるまで待つぞ」
「キューキュー!」
「そんにゃものよい木苺がしゃきって」
「あとでハチミツをこんぐらいの壺ごとプレゼントするから待ってくれ、良い金になるんだ」
「キューキューキュー!」
「まんどりゃごりゃは3ちゅありゅから、2ちゅぼじゃないとゆりゅちゃにゃいらって」
「マジか! 出す出す! 2壺だす!」
「キュー」
「しょうだんしぇいりちゅらって」
商談成立ってウサたん・・・まだ幼いのにキッチリと交渉するとは・・・恐ろしい子。 マンドラゴラ狩りは周囲の状況を把握しなければならない。100m以内に他の人がいたら退避させるか危険であることを知らせなければならないからだ。
幸い今いる場所は森に入ってから300mは奥地に入っている。ここまで来るまで人の気配無かった。そして風魔術による索敵でも100m以内に人の気配は無い。もし気配を隠して付いてくる人がいるならそれはアサシン認定しても良いだろう。
しばらく待っていると「雷轟」13番隊全員が揃ったので、作戦会議となった。
ちなみにマンドラゴラは抜くと奇声を発し、気をしっかりと持たないと気絶や時にはショック死する危険な植物だ。ただしものすごい滋養強壮力が高いため高値で取引されていて、未処理でも1本金貨5枚で売れるそうだ。
薬師はそれを毒抜きして乾燥させて煎じて大さじ3杯ぐらいの量になったものを、耳かき一杯づつ精力剤として販売するそうだけど、最後は金貨100枚以上の値段になるそうだ。
「土柔らかくして茎をロープでくくったぜ」
「じゃあ全員集まれ! ロープの穴以外を風壁、土壁、水壁で覆うぞ!」
「「「「おう!」」」」
「全員耳を塞げ!」
「「「おう!」」」
「行くぞっ! 叫べっ!」
「「「うおぉーーーーーっ!」」」
マーカスがロープを思いっきり引っ張ったあと、ロープを離し、土壁のロープの為に貫通している穴を塞ぐように寄りかかって手で耳を塞いだ。
その瞬間に何重もの魔術壁を突破して絶叫音がほぼ密封状態の空間に響き渡った。
みんな自身が気絶しないよう雄叫びを上げている。気合が入るし、自身の声を耳の中で反響させることで、マンドラゴラの絶叫を多少打ち消す効果があるそうだ。
フローラは両手で耳を塞いで「キャーっ!」と叫び、ウサたんはフローラの股の間に顔を突っ込みながら「キューっ!」と叫んでいる。
僕も息の続く限り叫び続けたけれど、周囲が異常な程静かになっていることに気が付き黙った。耳から手を離すと、魔術壁の中でみんなの息を整える音だけが聞こえていた。
「魔術壁解除・・・」
魔術壁が展開される前と変わらない森の風景が広がっていた、けれど虫の声や獣の鳴き声などがなくなり、風に揺れる草木の音しか聞こえなかった。
「ヒャッハー! 金貨15枚だぜっ!」
「抜け駆けするなっ!」
「キューキュー」
「あっちかや、いのちちのおちっこのにおいがしゅりゅって」
「おいっ! イノシシがあっちで気絶してるみたいだぞっ! マイクっ! ハンスっ! 覚醒する前に仕留めに行くぞっ!」
「おうっ!」
「雷轟」13番隊のみんなが、僕とフローラを置いて離れてしまった、一応彼らは僕たちの護衛なんだけどな・・・。この静けさからして周囲に危険は無くなってるんだろうけどさ。
「うるちゃかったの」
「キューキュー」
「でもすごい沢山お金が稼げるんだってさ」
「ハチミツたのちみなの」
「ミューキュー!」
みんなを待っていると、少しだけ強い風が吹き、頭の上の方でガサガサと梢が大きく揺れた。パラパラと音がするのは枯れ枝や種などが落ちたのだろうか。右手の方で大き目の何かが落ちたのかポテっという音がした。そちらを見ると白い毛玉のようなものが落ちていてプルプル震えていた。
「小鳥しゃんっ!」
「白い小鳥だね、ジュウシマツじゃないな・・・柄が少し違う感じがするけど嘴が小さくて黒いしシマエナガかな?」
「キュー!」
「ウサたんもこんな感じで倒れてたんだよ」
「マンドラゴラで気絶させちゃったんだろうね、治癒が効くかな・・・הכאב נעלם」
僕がシマエナガっぽい小鳥を治癒していると、マンドラゴラ回収に向かっていた6人が帰って来た。
「3本とも取れたぜ、しかも2本はすごく大きかった」
「ネズミとかリスとか鳥が気絶して木から落ちてたぜ、食いごたえがなさそうだからそのままにしておいたけどな」
「うん・・・坊主と嬢ちゃんは小鳥拾ったのか?」
「白くて嘴と首と尾の付け根と足が黒・・・」
「おい・・・それって・・・」
なんか驚いてるけど、シマエナガなら騒ぐようなものじゃないよな。この時期のシマエナガにしては柄が白に寄ってるし少し変だけどさ。
「これってシマエナガじゃないの?」
「カラドリウスかもしれない・・・」
「ふーん・・・珍しい鳥なの?」
「聖獣だよ」
「えっ?」
マジマジと聖獣と言われた小鳥を見ると、丁度覚醒したのか、僕とパッチリ目があった。
「チーチー(ありがとう)」
「えっ?」
「キューキュー」
「おはなしできるの?」
聖獣は僕の肩に乗ると僕の首のあたにり体をこすりはじめた。
「きゃわいいの」
「キューキュー!」
「カラドリウスって人に慣れるのかよ・・・」
「どういう聖獣なの?」
「見たものの病気や怪我を癒す力があるんだよ・・・ほら・・・俺のここにあった擦り傷が消えちまった」
「今日潰れた俺の手の豆もツルツルになっちまってらぁ」
なんかデタラメな力だな。
「その力は間違いねぇな」
「見られるだけで癒される事があるから、幸運を招く聖獣って呼ばれてるんだ、招く幸運はカーバンクルとは随分と違うけどな」
「なるほど・・・」
「キューキュー!」
「しょんな事より木苺らって!」
「それもそうだな・・・」
マンドラゴラを見つけて抜いたら、たまたま近くの木に聖獣が止まっていて、気絶して落ちた?
偶然にしては出来すぎな気がする。幸運の聖獣であるウサたんが、別の幸運の聖獣を招き寄せたとかそういう事なのかな?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます