第14話 人の言葉も理解できてる

 カーバンクルの白い子供は治癒の魔術が効いたのか木陰に移してすぐに覚醒した。治癒魔法を使ったのは僕だけど、最初に見つけ助けようとしていたフローラを覚えているのか、猫のようにフローラに体をこすりつけて甘えていた。


「くしゅぐったい」

「可愛いじゃねぇか・・・」


 白いカーバンクルの目は、額の小さな石と同じ様に真っ赤だった。


「ウサギみたい・・・」

「本当だっ! じゃああなたはウシャたんねっ!」

「キューキュー!」


 最近フローラに読み聞かせした絵本に出てくるウサギが、真っ白い毛に真っ赤な目で描かれていた。だから僕もフローラも第一印象でそう思ってしまった。

 白いカーバンクルをウシャたん・・・多分ウサちゃんだと思うけど、そう名付けるのは間違っている気がするのだけれど、カーバンクル自身が喜んでいるので良いのだろう。


 ちなみに赤い目のウサギはアルビノで、通常は冬毛の白いウサギでも目は赤くないらしい。 けれど、貴族は白い毛皮が好きなので肉用として兎を繁殖させていた業者が、アルビノの兎同士を掛け合わせていったそうだ。 そのため元々多産な家畜用の兎はすぐにアルビノばかり生まれるようになり、絵本に描かれるような兎も真っ白い毛に真っ赤な目で描かれるようになったそうだ。

 そんなトリビアを絵本を読み終わった僕達の前でしたエルム男爵は、フローラから「違うもん! ウシャギしゃんは白いんだもん!」といって泣かれていた。

 エルム男爵は、王都の学校とやらで仕入れた知識を娘に自慢して、「お父しゃましゅごい!」と言われたかったのだろうけど失敗していた。どうやらエルム男爵は真面目だけど不器用なタイプの人らしい。

 

「フローラ・・・その動物は・・・」

「ウシャたんだよっ!」

「えっ? ウサギ?」


 僕達が騒いでいる事に気が付いたのか、屋敷からエルム男爵とゼノビア様がやってきた。

 背伸びやこすりつけているところは猫っぽいけど、長い尻尾と2足を使って立ち上がっていてリスのように見える。 だからウサギだと言われて首を傾げるのは当然だ。 


「男爵・・・聖獣カーバンクルの幼生ですぜ・・・フローラ嬢ちゃんが庭で倒れているのを見つけてアニー坊が治療したら懐かれてんでさぁ」

「お父しゃま、この子とお友達ににゃっていい?」

「キューキュー!」

「カーバンクル?・・・えっ?」

「フローラ嬢ちゃんに幸運が舞い込みますぜ」

「だめにゃの?」

「キュー・・・」


 こんな目で愛する娘と可愛い聖獣に見つめられたら断る事など出来ないだろう。絵本の件で信頼を失ったエルム男爵挽回のチャンス到来だ。


「良いわよ・・・でも聖獣を飼うなんて・・・届出とかしなくて良いのかしら?」

「ワーイ! お母しゃまありがとう! ウシャたん、お家にいて良いって!」

「キューキュー!」

「あらあら可愛いわね」


 エルム男爵の挽回のチャンスだったのにゼノビア様が奪ってしまったようだ。

 フローラに抱き着かれ、足にスリスリされているゼノビア様を、エルム男爵が羨ましそうな顔で見ていた。


「書庫に行ってカーバンクルの事を調べよう?何を食べるのか知っておかないと」

「うんっ!」


 げっ歯類みたいな歯をしているし、木の実とかが好物そうではあるけどね・・・。


「ほりゃ・・・ウシャたんと同じでしょ」

「キューキュー!」


 フローラは真っ赤な目の白うさぎが描かれている絵本をウサたんに見せていた。鏡を見たことなど無いだろうし、自分の目の色を知らなかっただろうけど、絵本を見せられた事で自身の色がどういうものか分かったようだ。


「ウシャたんだけじゃ無いんだよ、ウシャたんみたいな子はいっぱいいりゅの」

「キュー!」


 ウサたんって言葉が人の理解出来ているっぽいけど空気読んでいるだけ? あとフローラも「キュー」だけで意味が分かったりしないよな?


「ほら魔獣の事が書かれた本だよ、表紙に聖獣ペガサスが描かれてるから多分載ってるよ」

「ウシャたん見よっ!」

「キューっ!」


 ページを開くと真っ先に書かれているのは狼系の魔獣だった。ハティ、スコル、ガルム、フェンリル、ハウンドドッグ、ケルベロス、オルトロスだ。コボルトやワーウルフのような人型の魔獣は別のページにあるらしい。

 犬型の次は猫型の魔獣が掲載され、次に鼠型が掲載されていた。


「カーバンクルあったね」

「こりぇがウシャたんにゃの?」

「キュー・・・」

「深い森の樹上に生活していて、人里で見かけることが稀な魔獣。体毛は茶や緑や黒や灰や黄など地域差や個体差があるが、目撃情報が多いのは茶色。しかし額の石は血液の色であるため全て赤い。額の石は第三の目で様々なものを見通す力があるが共通しているのは自身の未来を見る事が出来る。カーバンクルに間近で遭遇するという事は、カーバンクルにとって危険が無い場所若しくは幸せが訪れる場所である事を意味する」

「良くわかりゃにゃい」

「キュー・・・」

「ウサたんは森の木の上で暮らしていて。この額の部分で楽しい事を見つける事が出来るんだって。ウサたんがフローラに会いに来たのは、フローラといると楽しいと思って来たんじゃないかな?」

「そうにゃの?」

「キュー!」


 なるほど・・・この屋敷に来たのは自身の先を見た結果か。アルビノだから仲間外れにされたのかな?それとも森にいるより外に出した方が幸せになると親カーバンクルに言われて送り出されたのかな?

 人に捕まったら好事家とかに売られて一生檻の中とかされそうだけど、貴族であるフローラなら欲で誰かに売ったりしないだろうし、優しいから家族のように可愛がるだろうしな。


「ウシャたんは何をたべゆの?」

「木の実や木の芽や花びらや蜜だって」

「キューキュー」

「蜜?」

「蜂蜜とかメープルシロップかな?」

「キューっ!」

「ホットケーキたべたくにゃったの・・・」


 フローラのお腹から「クー」っという可愛いお腹の虫の音が聞こえた。


「ウサたんのご飯を貰うついでに料理長に頼もうか」

「ワーイ!」

「キューキュー!」


 うーん・・・僕の口ではウシャたんの方が発音しにくいな、でもカーバンクルには伝わっているっぽい。人の言葉も理解できてるっぽいな。 こんな短時間に理解出来るものなのか? それならかなり頭の良い生き物だよな?

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