第2章 ちゃんとした貴族令嬢になった編

第13話 ムダ毛の処理をしっかりしてる

「ナザーラ殿の功績が認められ男爵に昇爵される事になった。私が代理として王宮に行き受領する事となったので1月ばかり留守になる」

「分かったわ、領の事は任せておいて」

「君がいてくれるおかげて助かるよ」


 エルム男爵と夫人のゼノビア様が夕飯を食べながら仕事の話をしているのに、少しいい雰囲気を作っている。エルム男爵はかなりの家庭人らしい。


 僕とフローラが仲良くなっていくにしたがって、マリア母さんとゼノビア様も仲良くなっている。休憩時間に良くお茶を飲みながら、王都のいけ好かない貴族達の悪口に華を咲かせていた。

 フローラ嬢の情操教育に宜しく無さそうだけど大丈夫だろうか?夢見がちなフローラが純粋培養され過ぎないようにとでも考えているのだろうか?


「おにいたん、今日も訓練にゃの?」

「終わったら遊ぼうな」

「うんっ! 今日はいちはにぇがいいにょ!」

「先に良い石探しておいで」

「あいっ!」


 今日のフローラとの遊びは領都の中心を流れる運河となっている河原で水切りだ。この世界でも同じ遊びがあるらしく石跳ねと呼ばれている。

 エメール公爵家のお抱え傭兵団である「轟雷」から13番隊と呼ばれている隊長マーカスを筆頭とした8人が僕やマリア母さんの護衛としてエルム男爵のお屋敷にやって来た。

 ちなみにベンとかサムとかジョンとか男性名を名乗っているけれど全員女性らしい。

 髪を短く切っているし筋肉質だし口調もオッサンみたいなので、皮鎧姿は線の胸板厚めの細マッチョの男性達に見えるけれど、鎧を取ると胸や尻が飛び出し丸みを帯びているので確かに女性なんだと分かる。


「はぁ・・・はぁ・・・」

「坊主・・・すげぇな・・・さすが「日」の加護って所か?」

「まだまだ・・・吹っ飛ばされて・・・息切れしてるようじゃ・・・冒険者なんて・・・なれないよ・・・」

「そうかぁ?もう新米冒険者レベルにはあるぞ?」

「お爺ちゃんや・・・お婆ちゃんぐらいには・・・・ならないと・・・」

「おいおい、「静風」や「堅土」レベルって、俺でも逃げ出すレベルの相手だぞ」


 「静風」や「堅土」はガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんの二つ名らしい。そこそこ有名な冒険者らしく、隊長のマーカスさんも知っているそうだ。


「さぁ続きをやろうっ!」

「もう息が整ったのかよ」

「治癒は得意なんだよっ!」

「その速度で回復するのは反則だぜ・・・」


 バッキバキに叩きのめされるけど、治癒を使えば一瞬で回復出来てしまう。自然治癒に任せて筋肉は超回復させるなんて考えない。僕が欲しいのは今は筋肉より反射神経だ。そしてマーカス達傭兵団は実践の経験から、呪文の詠唱を短縮していく技術を知っていた。呪文を唱えると体から湧き出す魔力の流れが起こるのだけれど、それを意識して同じ動きを体内に作るようにすると、呪文を短縮できるようになるのだ。

 慣れない間は呪文を唱えた時より威力が落ちてしまうけれど、元々一瞬で過剰に効果を発揮してしまう「日」の加護持ちなので、あえて魔力の流れを滞らせたり、逆に早くして乱れさせる事で威力調整が出来るようになる。昔からマリア母さんから習って使っていた水魔法の治癒は魔力の流れに慣れていた事もあり、短縮の発展形である無詠唱でもかなりうまく使えるようになった。


「おにいたんっ! たしゅけてっ!」

「おい、フローラ様が呼んでるぜ」

「何だろう?なにか落ちているのかな」


 庭園内にあるクチナシの木の生垣の横でフローラがしゃがんで僕を呼んでいた。


「何かあったの?」

「この子たしゅけて」

「白いリス?・・・いやモモンガか?・・・違うっ! カーバンクルの幼生じゃねぇかっ!」


 額の部分にも赤い目がある白いリスっぽい生き物が倒れてピクピクしていた。良く見ると手足の付けが少し膜のようになっていて額に小さな赤い石がついている。


「くるちしょうにゃの・・・」

「治癒で良いのかな?・・・取り合えずやってみるか・・・」

「お・・・おいっ!」


 マーカスが制止したような気がしたけれどこんなに可愛い生き物を助けないという選択肢は無い。


「הכאב נעלם・・・利いたかな?」

「ちんじゃった?」

「いや・・・息をしている・・・助かったぜ・・・」


 詠唱を全く短縮せず完全に呪文を唱えて手加減無しの治癒を行ったからか助かったようだ。


「日が当たったままだと暑くて可哀想だから、木陰に連れてってやろう」

「あいっ!」

「この辺ってカーバンクルがいるのかよ・・・」


 カーバンクルって前世だと空想上の生き物だったよな。まぁこのファンタジー世界にはグリフォンとかドラゴンとかペガサスがいる世界だしな・・・そういう生き物もいるんだろう。


「カーバンクルって珍しいの?」

「聖獣だよっ! 聖獣っ! しかも普通は毛皮が茶色で白なんて奴は初めて見たぞ!」

「アルビノなのかな?」

「アルビノ?」

「たまに家畜が真っ白に産まれたりするでしょ?」

「あぁ・・・縁起が良いって言われたり、逆に不吉だって言われたりする奴だな」

「このカーバンクルもそうなんじゃないのかな?」

「カーバンクルは幸運の象徴と言われる聖獣だぞ、真っ白は逆に不吉なんじゃねぇのか?」

「白って神聖なイメージだけど違うの?」

「確かにそうだな・・・じゃあもっと有りがてぇ感じか?」

「分からないけど可愛いじゃない」

「坊主が可愛いものが好きなんて言うとは思わなかったぞ」

「自分を可愛くしたいと思わないけど、可愛いものは好きだよ、マーカスもそうじゃないの?」

「そういえばそうだな・・・」


 マーカスの部屋は結構可愛い小物に溢れている。そして下着も結構可愛いものを履いている。

 武骨な皮鎧と幅広の剣を使って戦うし、オッサンみたいな雄たけびをあげるけれど、鎧を脱げば・・・いや腹筋割れてるし尻がカッチカチだし胸はBも無さそうだし・・・うーん・・・。あっ! でもムダ毛の処理をしっかりしてるっ!

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