第3話 悲しい末路を辿る(エカテリーナ視点)

 私の名前はエカテリーナ・マグダラ。中世ヨーロッパの様なファンタジー世界で暮らしている。


 私には前世の記憶がある。

 私は日本という国で普通のサラリーマンの家庭で育ち、地元の大学を卒業したあと、地元銀行に就職して事務員をしていた記憶だ。


 私の最後は所謂痴情のもつれという奴で死んだ。

 高校の時から付き合っていた彼氏がいたのだけれど、大学在学中にパチンコにハマり、大学を中退して定職にも就かず、遂には酒に酔って私に暴力を振るうようになったので別れた。けれど別れて半年後ぐらい後から復縁を迫られるようになり、ストーカー化してしまった。

 警察に相談し警告して貰って大人しくなったと思ったら、年の瀬の迫った日の仕事帰りに、自宅までもう少しという所まで来た時に、いきなりナイフで刺されてしまった。

 刺された痛みより口から血で呼吸が詰まって窒息していくのが辛かった。視界が暗くなっていき街灯の灯りが見えなくなり、何で私がこんな目にと思ったのが最後の記憶だ。


 エカテリーナ・マグダラはエメロン王国のマグダラ公爵家の長女だ。

 金髪碧眼で容姿端麗で白い肌。少し吊り目がちである事と、毛先がクルクルと巻いていて、セットするに時間がかかるという欠点を除けば完璧な美少女だ。


 エカテリーナ・マグダラに産まれたと知った時、私は運命を呪った。

 何故ならエメロン王国のエカテリーナ・マグダラは前世でハマっていた乙女ゲーム「プリンセスエデン」の悪役令嬢の1人だったからだ。


 ヒロインは田舎から出て来た男爵家の令嬢で、「日」の加護を持つため選ばれた少女だ。


 攻略対象はエメロン王国皇太子であるカール・エメロン殿下、国王の甥であるブレイブ・エメール公爵令息、宰相の息子であるウィッシュ・キャンサー侯爵令息、騎士団長嫡男クリス・ソード伯爵令息、宮廷魔術師団長嫡男マギ・ポット伯爵令息、ヤハー教枢機卿の息子ビリー・フォロー、リンガ帝国の第二皇子で留学生でもあるバーナード・リンガ殿下の7人のイケメンで、学園入学した後に出会う事になる。


 ゲームは恋愛SLGの他、TRPGの要素があった。

 攻略対象と会話し好感度を稼いだり基礎ステータスあげのため修行をするのが恋愛SLGの部分だ。それにより攻略対象と好感度を会話を楽しみつつストーリーを進ませる事が基本となる。

 けれどヒロインは貧乏であるため学園に通いながら冒険者活動をしており、そこで受ける仕事によってはTRPG的な戦闘が起きる。

 お金を使って戦闘用の装備や道具を買って高額な報酬の依頼を受けられるようにしたり、衣装や装飾品や化粧道具などを買って恋愛SLGの部分で攻略対象者からの好感度を稼ぎやすくしたりする。

 好感度が一定以上高くなり一定パラメーターを維持出来ると攻略対象者と一緒に冒険者活動をする事や、イベント戦闘でパーティを組む事が出来るので、恋愛SLGの部分とTRPGの部分をバランスよくこなさないとトゥルーエンドには辿り着くのは難しい。

 

 ゲームの中では攻略対象達の婚約者や幼馴染や姉妹などが悪役令嬢やライバル令嬢として登場した。

 彼女達は修行の邪魔をしてきて熟練度上げを失敗させてきたり、嫌がらせでTRPG的な戦闘イベントを起こしたりしてくる。ライバル令嬢は認め合うイベント後に仲良くなり味方になる人もいるのだが、悪役令嬢は一貫して邪魔をし続ける。

 その中で皇太子カール・エメロン殿下の婚約者として登場する悪役令嬢が、エカテリーナ・マグダラである私だ。


 エカテリーナ・マグダラは全ルートで破滅し悲しい末路を辿る。

 まずマグダラ公爵は今世の父親ではあるが、領民を重税で苦しめる糞貴族だ。領内の南方にある山地に優良な鉱山有している事もあり、資金力があるため王国3大派閥の1つである貴族派閥のボスをしている。

 マグダラ公爵は、その資金力と影響力を使って、私を皇太子の婚約者に押し込んだ。けれど私が15歳で入学する学園の3年目の頃に主要な資金源である鉱山の鉱脈が枯渇して資金難に陥り没落する運命にある。

 それまで鉱山の収入によるお金はあったのに、贅沢と政治的工作に使い、殆ど残していない。領内の開発を疎かにしてきたため、学園生3年の梅雨時期に起きる長雨によって大洪水を起こし大きな被害を出す。

 しかし復興させるような資金は無いため冬頃に飢えに苦しんだ領民が蜂起する。


 その頃、資金力の無くなったマグダラ公爵は王国中の貴族達から見限られ、エカテリーナ・マグダラも元々性格の悪さが災いして、取り巻き達への求心力を失ってしまう。そのため卒業式で数々の悪事が暴露される断罪イベントがあり、皇太子に婚約破棄されしまう。

 その頃領地で領民の鎮圧に失敗したマグダラ公爵軍は敗走しているが、それを知らずに失意で領地に向かったエカテリーナ・マグダラは途中で蜂起していた領民達に捕らわれて酷い目にあって殺されてしまう。


 ヒロインが皇太子以外を攻略した時はエカテリーナ・マグダラへの断罪イベントは起きず、王妃教育の為に王都に残る事になる。しかし何故か王宮内で急病になり死亡してしまう。

 既に別の攻略対象個別ルートに入っている段階なので、学園という舞台から去ったエカテリーナ・マグダラが、王宮で死亡した時の経緯は細かく描写されていない。けれど力を失ったマグダラ公爵家の令嬢では皇太子の婚約者に相応しくないと思われたため、王家により殺されたのだろうと攻略サイトには書かれていて。製作者の対談記事でも言及はないものの、それを肯定するようなコメントされているそうだ。


 私は死にたくない。けれど今のままでは殺されてしまう。鉱山の鉱脈が枯渇して資金力が無くなる事は防ぎようが無いだろう。地下資源は限りあるものだからだ。


 洪水を起こさないように出来るだろうか?難しそうだ。ただの銀行の事務員だった私には治水に関する知識は無い。決壊しそうな箇所に土を盛り上げただけでどうにかなるというものではないだろう。


 皇太子の婚約者になる事を防ぐ事も出来ない。私が喋れるようになる前に、王家とマグダラ公爵家の間で既に決められていた。

 ヒロインが皇太子を狙った時に潔く身を引けば許してくれるだろうか。いや領地に帰る時に領民に襲われて殺されるのだ。住民の蜂起が防げなければマグダラ公爵家と共に破滅する気がする。


 王宮で暗殺される事を防げないのだろうか。没落前に婚約破棄されてしまえばできそうだ。けれど王家と公爵家が決めた事を簡単に取りやめる事が出来るだろうか。

 ヒロインが皇太子を狙わず悪役令嬢として絡まなくても王宮で殺されるので無理そうだ。王家は正規の手続きを踏むより暗殺した方が簡単という判断をしたのだろうからだ。


 性格が良くなれば許して貰えるだろうか?その可能性はある。皇太子の良い伴侶になれる資質がある事を証明すれば許されるだろう。実際に私は「日」の加護の次に優秀と思われている「雲」の加護を得ることになる。平民であってもこれを持っていれば宮廷魔術師になれるぐらい優遇される加護だ。


 ちなみに加護は、「日、雲、雨、嵐、地、虫、人」の7種類で、米粒に宿る7人の神様から取られているらしい。

 「日」と「雲」は早熟で「虫」と「人」は晩成だ。努力次第でどの加護でも遜色なく育つけど、レベルをカンストさせるまで必要経験値が多いため、加護を貰った直後から強い「日」の加護が最高で、なかなか強くならない「人」の加護は落ちこぼれと言われている。


 「日」の加護が「光」、「雲」の加護が「雷」、「雨」の加護が「水」、「嵐」の加護が「風」、「地」の加護が「土」、「虫」の加護が「闇」、「人」の加護が「火」の属性に対応していて、その魔術の才能が成長しやすい。


 リンガ帝国のバーナード殿下は「人」の加護が与えられたために出来損ないと言われ、追放のような形でエメロン王国に留学して来る。しかしヒロインに恋をし奮起して努力する事でとても強くなる。

 火属性には身体強化系の魔術があり、バーナード殿下は最強の戦士に育つ。TRPGパートでは武器による補正が高く設定されているため、戦士として育つバーナード殿下が攻略対象者の中では一番裏ボスに対して強くなったりする。

 バーナード殿下はどの攻略対象のルートに入っても離脱しない事や、優先的に育ててレベルカンスト近くにさせていれば、TRPGが苦手なプレイヤーでもゴリ押しで裏ボスの攻略が出来てしまうので、TRPGが苦手な人への救済措置のキャラではないかと攻略サイトには書かれていた。


 死なないために、公爵家を出奔するとかどうだろうか?

 早熟な「雲」の加護なら15歳でも冒険者として独り立ち出来そうに思う。

 けれど、この金髪碧眼は非常に目立ちそうだ。使用人達を見る限り茶髪や赤髪ばかりで金髪がいない。希少な髪色なら逃走してもすぐに見つけられて捕まる可能性が高いように思う。

 逃走を選んだ場合、髪をなんとかしないといけない、惜しい気もするけど短く切って染めないといけないだろう。


 殺されそうになった時に抗えるように魔力は鍛えようと思う。ゲームでは経験値で成長するだけではなく、魔術や武技を使うと熟練度が上がり、相乗効果で強くなるシステムになっていた。

 日常パートで魔術や武技の修行をして熟練度を上げると効率的に強くなるので、冒険者活動で実践と金稼ぎだけしていていると、強さに限界が来てイベント戦闘で負けたりした。


 経験値は野外やダンジョンで魔物を倒さなければ貰えない。魔物を倒したいけど、マグダラ公爵領内は比較的王都に近いため、領地が発展していて魔物が少ない。ゲームに登場するダンジョンはエメロン王国の王都近郊と、隣国のリンガ帝国の帝都近郊と、ヤハウエ聖国の聖都大聖堂の地下と、クリア後にヒロインの故郷の村の近くで見つかる裏ダンジョンの4カ所だけで、自由に屋敷から出して貰えない私では行く事が難しそうだ。


 ただ学園に入ればチャンスはある。

 「プリエデ」では恋愛に一切時間を費やさず経験値稼ぎだけをすれば、学園生活の3年間だけでヒロインだけのレベルや熟練度をカンストさせられた。

  実際のこの世界の仕組みがゲームと同じかは分からないけれど、魔物と戦闘すると強くなるという仕組みが一般的に知られているので、ヒロインに先回りして鍛えるようにすれば、私も同じ期間で強くなれると思う。

 「日」と「雲」と「嵐」は魔術師型の成長をして打たれ弱いので、それだけではイベント戦闘で囲まれてしまい勝ち続ける事が出来ず攻略が詰むのだけど、蜂起した領民に負けない程度にはなると思う。

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