第2話 冒険者になるんだっ!

 この世界の人は、6歳になるとヤハーという神様から「日、雲、嵐、雨、地、虫、人」という7種類の祝福の内の1つをを貰う事が出来る。


 オルク父さんは「雲」という主に雷魔術の成長が早くなる祝福を持っていた。その祝福のおかげで、王都で宮廷魔術師として採用されたそうだ。


 マリア母さんは「雨」という主に水魔術の成長に補正がかかる祝福を持っている。水魔術には人を癒す魔術が含まれている。だから現在は国から貰える年金と村人の治療をした際の謝礼金で生活充分生活できるぐらい村人から有難がれている。


 ベヘム村にはマリア母さんの両親であるヨウムお爺ちゃんとアンナお婆ちゃんがいた。2人とも「人」という主に火魔術の成長に補正がかかる祝福を持っている。火魔術には身体能力を向上させる魔術が含まれている。若い時は冒険者をし、今は村で用心棒兼狩人をしながら暮らしていた。


 アンナお婆ちゃんが冒険者を辞めた理由は、マリア母さんを妊娠したからだ。それを契機に結婚すると共に冒険者パーティを抜けて、用心棒を募集していたベヘム村に移住したそうだ。


 ちなみにオルク父さんは祖父母の冒険者時代の仲間であるガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんの息子で、マリア母さんの3歳年下だ。マリア母さんは姉さん女房だったらしい。

 ガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんは時折祖父母の所に来て幼かったオルクお父さんを預けていたそうだ。オルク父さんはマリア母さんと姉弟のように育ったけれど、それがいつの間にか恋愛感情に変わっていたらしい。

 オルク父さんは10歳ごろからマリア母さんにプロポーズをするようになっていたらしい。


 オルク父さんは小さい頃から冒険者志望だったそうだ。けれどマリア母さんは運動能力が低く冒険者としての才能は無かった。ヨウムお爺ちゃんはオルク父さんにマリア母さんと結婚したいなら定職に就かなければ認めないと言っていたらしい。

 そうしてオルク父さんは一念発起して宮廷魔術師になり、王都に立派な家を買ってマリア母さんと結婚した。

 

 宮廷魔術師になった事で魔物と戦わされ続けて死んだと聞いたガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんは、冒険者より危険な任務に行って死ぬとか馬鹿だとオルク父さんの墓前で呟いていた。ヨウム爺ちゃんは冒険者なら仕事を選べたから死なないで済んだかもしれないとガイお爺ちゃんに土下座をした。

 ガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんは、宮廷魔術師を選んだのは息子自身だと言って許していた。


 ガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんは冒険者を続けているけれど、年に数回オルク父さんの墓参りに来る。ガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんの両親も冒険者で故郷といったものは無いらしく、みんなのいるベヘム村にお墓を作った。


 ガイお爺ちゃんとローズお婆ちゃんは冒険者のイロハを含んだ話をしてくれる。どちらかというと狩人になっているヨウムお爺ちゃんやアンナお婆ちゃんより話が面白い。


 ガイお爺ちゃんは「嵐」という主に風属性魔術の成長があがる祝福を持っていて、潜伏という気配を消す事がうまくなる魔術を使って獲物の背後から忍び寄り仕留める立ち回りで冒険者をしているらしい。

 ローズお婆ちゃんは「地」という主に土魔術の成長があがるギフトを持っていて相手を転倒させたり拘束したりと、ガイお爺ちゃんの補助的な役割をしているらしい。

 ガイお爺ちゃんとアンナお婆ちゃんを含めた4人でパーティをしていた時は、前衛をガイお爺ちゃん、狙撃手をアンナお婆ちゃんがして結構な大物を仕留めていたそうだ。


 ちなみにギフトは「日、雲、嵐、雨、地、虫、人」の順で良い加護だとされている。まず上とされる加護の方が希少だからだそうだ。そして同じ程度の魔法を使った際の威力が上の方の加護の方が高くなる傾向にあるらしい。

 そして加護には遺伝性はあるらしい。何故なら王族や貴族の方が「日」や「雲」や「嵐」といった良い加護を得やすいかららしい。

 けれど「人」の祝福を持っているアンナお婆ちゃんやヨウムお爺ちゃんが冒険者として活躍したそうだし、本人の努力次第でどうにでもなるのではと思う。


 成長に補正の無い魔術が使えないかという事は無いらしい。そして加護を貰う前でも簡単な魔術行使出来る。

 アンナお婆ちゃんは加護が「人」だけど水魔術を巧みに使って家事を行っている。

 僕もまだ加護を貰っていないけれど、小さい頃からマリア母さんから水魔術を習っていて、擦り傷の治りが早くなる治癒という魔術が使えるようになっている。


「アニーはそろそろ男の子みたいな喋り方を直さないと」

「嫌だよっ! 僕は男の子として生きるんだっ!」

「せっかく可愛く産まれたのに勿体ないわ」


 マリア母さんはそういうけれど、将来男に言い寄られるなんてまっぴらご免だ。男の娘だろうがついている相手からアプローチをかけられたら、股間を蹴り飛ばす自信がある。


「アニーは嫁がなくても構わんっ! ずっと家におればええんじゃ!」

「それも嫌だよっ! 僕はガイお爺ちゃんやローズお婆ちゃんのような冒険者になるんだっ!」

「冒険者になるなら女の子である事を隠す手もあるわねぇ」

「癒しが使えるんだし、そんな危ない仕事しなくても良いのよ?」

「そうじゃぞ? 冒険者は危ないんじゃぞ?」

「嫌だっ! 冒険に行くっ!」


 僕が強硬に冒険者になりたいと言うのは理由があった。ベヘム村には僕と同世代の子供が3人いるのだけれど、その内のパウロという1歳年下の少年が僕にイタズラをしかけて来るのだ。

 前世の記憶からそれが小さい子が気になる子に構って欲しくてやっている行為の可能性があると思っている。今は男女で身体能力に差が無いけれど第2次成長期に逆転される恐れがある。その前にこの村から逃げなければパウロに犯られてしまうのではと恐れているのだ。

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