悪役令嬢が転生者パターンの世界でヒロインに転生したらしい
まする555号
第1章 村娘な貴族令嬢になった編
第1話 TS転生してしまった
僕の名前はアニー・ナザーラ。中世ヨーロッパの様なファンタジー世界で暮らす5歳の少女だ。僕は所謂TS転生してしまった。だから男の子の様な恰好を好み、言葉遣いも男言葉を使っている。
女は家庭に入り男に従うものなんていうこの世界の一般家庭の常識に馴染む気はしない。だから外に働きに出て生活するようになるため冒険者になれるよう、木剣を振って魔術の練習をして暮らしていた。
僕は父オルクと母マリアの長女として産まれた。オルク父さんは平民の出だけどエメロン王国の宮廷魔術師をしていた。宮廷魔術師になると平民の出でも騎士という爵位を得て姓を持つことが出来る、そして配偶者と実子までは最下級ではあるけれど貴族扱いされるようになる。そして宮廷魔術師は給料も高いため王都の比較的裕福なエリアにある家に暮らし幼児期を過ごした。
オルク父さんは貴族出身の縁故採用らしい宮廷魔術師から嫌われていた。貴族には血統主義を重んじる人たちが多く、オルク父さんのような平民出なのに王宮に出入りする人を許せないという貴族が多いらしい。
マリア母さん曰く、オルク父さんは、貴族出の同僚達や上司から下賤な血だと馬鹿にされ、国境で争いが起きたり、魔物の被害が出る度に最前線で戦わされ続けていたらしい。
なぜオルク父さんの事を過去形で話すのか。それは僕が3歳の時にオルク父さんは魔物の討伐の任務中に死んでしまったからだ。
オルク父さんを殺したのはグリフォンという魔物だという事になっている。前半分が鷹で後ろ半分が獅子という獰猛で強大な生き物だ。
オルク父さんはグリフォンとの戦闘において、体当たりを受けたあと体を咥えられて丸呑みさたらしい。
オルク父さんは丸呑みされてもう助からないと思ったようで、魔術を暴走させてグリフォンを体内から爆発させて倒したそうだ。そんな状態でオルク父さんが無事である訳は無く、母の元に殉職報告と共に届けられたのは、オルク父さんの塩漬けの左腕が入った木箱だけだった。オルク父さんの腕は、塩漬けであるためか変色し縮んでいた。けれど薬指に見覚えのある結婚指輪がついているためオルク父さんの左腕である事は一目で分かった。
魔術は攻撃手段としてとても威力が高いけれど、集中しないと暴走して危険だ。だから魔術師は基本的に前衛である盾や鎧持ちの人にガードされて戦う。しかしオルク父さんはグリフォンの体当たりを受けて吹き飛ばされた。僕もマリア母さんもオルク父さんが死んだと報告を受けた時は放心気味だったけれど、落ち着いた今ではオルク父さんが平民出だからしっかりとガードをして貰えなかったのだと思うようになった。
伝えてくれた同僚の人は貴族出身だけど男爵とあまり地位が高くないようで平民出を馬鹿にしない宮廷魔術師でオルク父さんと良好な関係を築いていた人だ。けれど立場が弱いため直接言う事は禁止されていたようで、苦しそうな顔をしながら婉曲にマリア母さんにオルク父さんの雄姿を伝えて来たのだと思う。
公務で死んだ騎士や魔術師の遺族は、王宮から年金が支給される。しかし物価が高い王都で暮らすには足りない金額らしい。低所得者の住むスラムが混ざったような下町に引っ越せば王都にいる事は出来たようだけど、代々の貴族達の差別的な目線に辟易していたマリア母さんは家を処分し、産まれ故郷である北部の辺境にあるベヘム村に僕を連れて引越しをした。
オルク父さんを殺したグリフォンは、エメロン王国の南方にある鉱山の街ガドンの近くの山に数十年前から住みついていて、周囲の家畜などに被害を出しているために農家から領主に討伐依頼の陳情が出されていた個体だ。しかしグリフォンが出ても国王や領主が討伐軍を出す事は殆どない。なぜならグリフォンは王族や貴族にとっては有益な魔物だからだ。
グリフォンは群れを作る生き物だ。基本的に人が近寄らないような高山地帯の奥地で暮らしている。そして雄1匹に対して雌多数のハーレムを形成する。ハーレムの周囲にこっそり雌との交尾を狙う雄グリフォンが生息するのだけど、時よりあぶれた雄が時より人里近くに住み着く事がある。
群れからハグレたグリフォンの雄は、発情期の牝馬を見つけると交尾をするという性質があった。そしてグリフォンと交尾した牝馬はヒッポグリフという前半分が鷹で後ろ半分が馬という魔物を産むらしい。グリフォンは気性が荒く飼い慣らせないけれど、ヒッポグリフは比較的気性が穏やかであるため飼い慣らす事が可能だ。
グリフォンと同じくヒッポグリフは空を飛ぶことが出来る魔物だ。しかも人を乗せて飛ぶ事も出来る程飛翔力が高い。だからしっかりと調教されたヒポグリフは同じく人を乗せて空を飛べる魔物であるスカイドラゴンの下位互換やペガサスの代用品と言われながらも高値で取引されている。
ヒポグリフは農耕馬と大差がない力しか無い割に肉食で大飯食らいだ。だから農家は飼っていた雌馬がヒッポグリフを産んでも売り払ってしまうらしい。そして調教前のヒッポグリフは立派な馬2頭ぐらいの値段にしかならない。グリフォンが住み着く事で襲われて食べられてしまう家畜の代わりにはならない。
けれど王族や貴族にとってはヒッポグリフが増える事は航空戦力の増強という意味を持つ。だからわざわざ農民の陳情があったぐらいでは王宮や領主はグリフォンを討伐するために軍を派遣したりしない。
ヒポグリフはスカイドラゴンより劣っているけれど、ペガサスと同程度には飛翔力がある、けれど代用と見なされるペガサスと違い、肉食で餌代が嵩む事と、ペガサスより気性が荒く若干物覚えが悪い事でヒポグリフがスカイドラゴンの下位互換でペガサスの代用品と言われる理由らしい。
牝馬にグリフォンと人工的に交配させるためには守らなければならない事があった。グリフォンの所に必ず牝馬と同じ数の雄馬を連れなければならないことだ。
グリフォンは交尾したあと、とても大量に食事を取るという習性があった。交尾の際に近くに雄馬が近くに居れば必ず牡馬を殺して食べるそうだ。多分牡馬を牝馬の番とみなして、牡馬を殺す事で群れのボスになるという代用行為をしているのだと言われている。
けれどある時行商人が、鉱山の街ガドンの近くにグリフォンが居ると知らないまま、2頭の牝馬に馬車を引かせて鉱山に向かったらしい。そしてその牝馬はどちらも発情期だった。牝馬と交尾しようとしたグリフォンは、まず交尾の前に食料確保のために人間であるその商人を殺した。そして牝馬と交尾したあと商人を食べるだけでは足りなかったようで、鉱山働いている人間を何人も襲って食べてしまった。
それ以来グリフォンは人間を家畜より、たやすく捕まえられる獲物だと認識したらしい。そのため鉱夫や農民を襲って食べ出したのだ。
その被害を受け、領主はグリフォンを高値で取引されるヒポグリフを産み出す益獣では無く、人に害を与える魔獣として認定した。領主は自身の軍だけではグリフォンを倒せないと判断し王宮に助けを求めたそうだ。そして王宮の騎士と宮廷魔術師が派遣される事が決まり、そこでオルク父さんは死ぬことになった。
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