第4話 そんなヒラヒラしたの嫌だぁ!

 今日は僕の6歳の誕生日だ。教会に行けばどんな祝福が貰えたのか教えて貰えるらしい。

 大貴族だとどこかの大きな協会で派手に儀式をしたあと、屋敷で格調高いパーティを開くものらしいけれど、辺境のベヘム村にいる最下級貴族であるナザーラ家はそんな事をしない。教会に行って加護を貰い、戻ったらいつもより美味しいご飯を食べるぐらいだろう。

 ただ村にある教会は簡易のものであるため、ヤハー様に教えて貰うためには片道で馬車でも3時間はかかる麓にあるエルムの街の大きな教会まで行かないといけない。


「アニーにはどんな祝福が貰えるのかしらね?」

「「人」なら私が身体強化を教えるわよ?」

「儂も教えるぞっ!」

「お父さんと同じ「雲」がいいなぁ・・・雷魔術ってカッコ良さそうだし」

「加護は遺伝するっていうしあり得るわね」

「オルクの魔術はなかなか凄かったものねぇ・・・」

「アニーは「雨」の加護でずっと村で治癒師をしてるのがええのじゃ」

「僕は冒険者になるんだよっ!」


 アンナお婆ちゃん弓使いだけど、この辺に出没する魔物ぐらいならフライパンで簡単に撃退するぐらい達人らしい。ヨウムお爺ちゃんは優秀な戦士として前衛をしていたそうだけど。アンナお婆ちゃんは前衛としても充分強いとヨウムお爺ちゃんは行っていた。

 アンナお婆ちゃんが妊娠し子育てに専念をすると宣言した時にヨウムお爺ちゃんも引退したそうだけど、その理由はお爺ちゃんに聞いても教えてくれない。ただアンナお婆ちゃんはヨウムお爺ちゃんが冒険者を引退をしてついて来なかったら、他の人を探して結婚していたと言っていたので、そこら辺に理由があるのでは無いかと思っている。


「早く行こう?」

「あらあら」

「どんなギフトでもお爺ちゃんが面倒見てやるからなっ!」

「はいはい、行く前に歯を磨いてこの服に着替えなさい」

「えーっ! そんなヒラヒラしたの嫌だぁ!」

「祝福を教えて貰う時の服装には決まりがあるのっ! 教会には男の人しか入れない部屋と女の人しか入れない部屋があるのは知っているでしょ?」

「きっと似合うわよ?」

「目に焼き付けないといかんわい」


 ヤハー様は「産めよ増やせよ地に満ちよ!」というタイプの神様らしく、男は男らしく、女は女らしくあることを好むらしい。国によっては、外であっても男性のような恰好をした女性や、女性のような恰好をした男性を取り締まる国があるそうだ。

 別に調べて貰わなくて良いなら教会に行く必要はないけれど、この国では祝福の内容を届け出る決まりになっている。上位の祝福を持つものを囲い込むためのものらしい。祝福の届出も街でしか行えない事なので6歳になったら街に出かけるのは決まった事だった。


 こんな服を身に着けた所を村の人に見られたくないので村が騒がしくなる前に早く出てしまいたい。けれど食事が終わるまで外出は許してくれないだろう。6歳の小さな口では早食いするにも限界があった。


 朝食後に渋々とヒラヒラしたスカートを身に着けて家から出る。ヨウムお爺ちゃんが僕の恰好に興奮して大声を上げている。こっそり出かけたいのに目立ってとても嫌だった。


「お爺ちゃんはついて来ないでっ!」

「何故じゃっ!」


 女の子になりたくない僕には可愛いと言われても嬉しくない。本人は褒めているつもりなのだろうけれど僕はずっと男の子になりたいと言って来た。聞いてないなんて言わせない。


「お父さんは家で待っていて」

「私達だけで行って来るから」

「嫌じゃぁぁぁぁぁぁ!」


 騒ぎは大きくなってしまいワラワラと人が集まって来てしまう。パウロが遠くから駆けて来るのも見えた。


「お爺ちゃん嫌いっ! 今日は教会に行かないっ!」


 僕は家の中に駆け込んだ。こんなヒラヒラした格好をパウロに見られたら「えっ?お前って実は女だったの?」と自覚して、イタズラがエスカレートする可能性がある。子供と言うのは社会性がまだ未熟なため行動が残酷だ。もしそうなったらパウロの股間を蹴り上げて立場をハッキリさせなければ身が危ない。


 家の前の騒ぎが収まるのに時間がかかった。マリア母さんとアンナお婆ちゃんが、僕が女の子みたいな恰好を見られるのを恥ずかしがったと説明していた。村の人は、僕が普段から男の子っぽい恰好や言動をするのを知っているので恥ずかしがった事を理解してくれた。

 なんで他人は理解してくれるのにヨウムお爺ちゃんは理解しないのだろうか。

 それよりも村人は早く解散しろっ! 朝はやる事がいっぱいあるだろうっ! 仕事しろっ!


 正午前になってやっと村人たちが仕事にはけたため静かになった。部屋を出るとヨウムお爺ちゃんは食卓の隅で放心していた。僕が無視をし続けた事がショックだったようだ。

 この世界では平民には昼食と言う文化は無い。食事は朝と夜だけで、昼は休憩の時にハーブ茶を飲むぐらいで、小腹が空いた時に炒った木の実を口にする事があるぐらいだ。


 ヨウムお爺ちゃんは放っておいて、マリア母さんとアンナお婆ちゃんに声をかけ、そっと家を出て麓の街に向かった。麓の街までは子供の足で歩ける距離ではない。街へは村共用の荷馬車を借りていくのが普通だ。初めて村に来た時も馬車を手配して運んで貰っていた。

 馬車の御者はマリア母さんとアンナお婆ちゃんが交代で行った。街に村の産物を届けたり買い出し行く時に使うので馬車の操縦は、村の大人の必須技能になっているため、問題無く出来ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る