第5話 あの子と違って災難だね
エルムの街はこの地域の領都となっているため大きい。とはいっても領主は男爵で大貴族では無いから大領主の街に比べたら小さい方なのだろう。
エルムの街のあるその名もずばりエルム領は、他国と国境争いが起きていない未開地に接する領地である事から身分証の提示なども求められる事もなくすんなり入る事が出来た。
中心地近くに領主館があり、その斜め向かいが教会となっている。馬車の預かり所は中心地近くの商店街傍にあったので、ベヘム村の荷馬車をそこに預けて教会まで歩いていった。
「祝福を受けられたのですか?」
「はい、この子が本日6歳になりました、こちらが心づけです」
「分かりました」
礼拝用の部屋の奥の左右には扉があり、右側が男性が儀式を受ける部屋、左側が女性が儀式を受ける部屋と決まっている。結婚式でも礼拝堂で宣誓をしたあと新郎と新婦が左右の部屋に入って神様に報告を行う事になっているらしい。
神官であろうと男性は女性用の部屋には入れない。だから僕は女性神官に連れられて左側の部屋につれていかれる。
「中に入ったらヤハー様の像の前で膝まづいて祈りを捧げるのよ? そうしたら頭の中で声が聞えるからね」
「はい」
部屋に入るとそこはまだ前室だった。そしてその先に僕でも頭をぶつけそうなほど低い隣の部屋とつながる扉があった。中はとても狭かった。礼拝堂の正面にあったもとと同じデザインだけど小さなヤハー様の小さな像がある祭壇があるだけだ。
扉が開いて居る間は明るかったけれど部屋に入り扉が閉まると真っ暗になった。扉の隙間から僅かに漏れるぐらいしかない。前世で押し入れに入った時の事を思い出した。
目が慣れるとヤハー様の像はが薄くぼんやりと明るく光っている事が分かった。膝まづいて祈れば声が聞えると言ったな。やり方は村の教会で教わっているやり方でよかろうと、正座になったあとに床に頭を付けて祈る。
「君には「日」の加護を・・・ってあれ?君男じゃない。あれ?でも体は女の子だ・・・しかも「空」って加護が既についてるんだけど・・・もしかしてあの子のパターン?」
なんか頭の中でゴチャゴチャと話が聞えて来た。
「あの・・・」
「あっ・・・ごめんごめん聞こえてた?」
「はい・・・ハッキリと・・・」
どうやら独り言のつもりだったようだ。
「君ってもしかして転生者?」
「えっ?・・・はい・・・」
「しかも前世は男だった?」
「はい・・・」
「体と心が逆なんだ・・・それはあの子と違って災難だね・・・」
「あの子?」
「あぁ! 少し前に別の世界から転生して来たエカテリーナって子から聞いたんだけど、別の加護を持っているのは君と同じ転生者って言う奴だったんだよ、その子は心も体も女性だったんだけどね」
どうやら僕の他にも転生者がいたらしい。
「転生者って良くあるんですか?」
「あるけど別の加護を持っているのは珍しいね、前の子から地球って所から来たって教えて貰ってるけど・・・同じだったりする?」
「はい・・・」
「同郷の人だし出会えると良いねぇ・・・」
「そうですね・・・」
「あれ?あんまりそう思ってないのかな?」
「同じ国の出とは限りませんし・・・」
「確かにそうか・・・戦争をしている相手の国に産まれる可能性もあるのかな?とりあえず君の加護は「日」だよ、光属性魔術が良く育つからね、あと「空」って加護は僕が与えた者じゃないから良く分からないよ」
さらっと流されたけど「日」って一番良い加護じゃん。
「エカテリーナって子はどんな加護を持ってたんです?」
「僕が与えたのは「雲」なんだけど、「海」って加護も持ってたね、君たちのいた星って陸より海の方が広かったりするのかな?」
「はい、大体7割が海だったと記憶しています」
「なるほどねぇ・・・もしかしてこれからも日本って所から転生者が来るのかな?」
「分かりません・・・」
「そっかぁ・・・なんかエカテリーナって子が面白い事言ってたから、もっと来たら面白そうだと思ったんだよね」
「どんな事を言ってたんです?」
「なんかこの世界は乙女ゲーム「プリンセスエデン」の世界で、そのエカテリーナって子はその中の悪役令嬢なんだって」
「は?」
「プリンセスエデン」ってなんかゲームからアニメ化さてたのでそんなタイトルのものがあったと記憶しているぞ?ただ僕はかなり昔に妹がリビングでアニメ化したのを見ているところを、横からチラ見した事はある程度でストーリーは殆ど知らない。
「そこで「日」の加護を持つヒロインっていう子にザマァされて殺される運命にあるから、覆すために頑張ってるんだってさ、そういえば君に「日」の加護を与えたね」
「・・・」
エカテリーナに産まれ変わった子が悪役令嬢?たしか金髪ドリル髪の「オーッホッホ」という笑いをする子だっけ?ちょくちょくヒロインに「平民出の下賤な血」と言って馬鹿にしてた子だったような・・・。なんだ?もし相手がゲームをしているのなら知識量で完全に負けてるぞ。
僕はヒロインがどっかの立派な神殿っぽい所で杖を手に取ったらピカ―って光ってパワーアップした感じの事を言ってた程度しか覚えていない。後は自分の事を俺様と言う痛そうな王子がいたぐらいか。
一応父親が騎士爵だったから僕も騎士爵令嬢という事になるけど、ほぼ平民だし昔からずっと貴族の令嬢相手に権力的にも絶対勝てないぞ?これは原作ブレイクのザマァ返しされるパターンに入ってないか?
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