第7話 15歳になったら王都に行かなきゃならなくなった

 神様から衝撃的な話を聞いて驚いてしまった。「君は男でもあるから左側の部屋に入っても良いからね」と言われたけどそれどころではない気がする。祈りの間から出た時に僕は真っ青な顔をしていたようで女性神官の人に「加護が低くても努力次第ですよ」と慰められた。


「加護が「人」でも冒険者になれるわよ?」

「冒険者になれなくてもアニーは既に治療が使えるんだし生きていくのに支障は無いわよ」

「・・・加護は「日」だよ・・・」

「えっ?」

「すごいじゃないっ!」


 この国では加護を誤魔化して申告すると重い罰があるらしい、特に「日」と申告して違った場合と「日」なのに違った場合はそれを行った人は死罪になる。孤児でもない限り申告するのは親になる。だからがマリア母さんが罰せられないよう正直に「日」と言うしかない。

 ちなみに「日」の加護を持っていると平民であっても15歳から王都の貴族たちが行く学校に行かなければならない。それだけ珍しい加護だからだ。


「お子様の加護の届出ですか?」

「はい」

「名前をまず教えて貰えますか?」

「私はベヘム村のマリア・ナザーラ、この子は娘のアニー・ナザーラです」

「しっ・・・失礼しました! 貴族の方だとは思いませんでした!」


 村人がお洒落した程度の恰好をしているので貴族だと思われなかったようだ。けれど、この国では姓を持っているは貴族か、貴族で無くても姓を持つ他国の人か、特別に国王から屋号を貰った人なので、名乗った事で貴族だと分かったようだ。


「亡き夫が宮廷魔術師で騎士爵を賜り、私も貴族になっただけです。平民とあまり変わりませんので気にされなくても良いですよ、普段からこんな格好をしていますしね」

「私はジョセフと言います、エルムの街3番通りのジョセフとお見知りおきください」

「はい、ジョセフさんご丁寧にありがとうございます」


 村から街に出て来たので、マリア母さんは普段よりかなりお洒落な格好をしている、なのに普段からこんな格好をしていると言うのは貴族としての見栄という奴だろうか?


「それでアニー様の加護は何だったのでしょうか」

「「日」です」

「えっ!?・・・間違いありませんか?」

「はい」

「失礼とは思いますがアニー様が間違えた事をおっしゃっている可能性があります。幼い子が間違えた事を親に言い、それを信じて申告する親はとても多いです。けれど「日」と間違える事は重い罰則があります。もう一度きちんと確認を去れた方が宜しいと具申いたします」


 ジョセフさんは、子供である僕が加護を母親に間違えて教えていると思ったようだ。けれど間違いなく「日」だと言われた。


「ヤハー様の声は何て言ったの?」

「君には「日」の加護があるって言ったよ」

「そうですか・・・えっと・・・アニーさんは何か魔術を使えますか?」

「この子には私が水魔術を教えています」

「治癒が使えるよ」

「・・・分かりました・・・」


 ジョセフさんはナイフを取り出して手に刺した。


「何を!?」

「アニーさん・・・治癒を使って治して下さい」

「えっ・・・うん・・・הכאב נעלם・・・」


 転んで手や膝を擦りむいてしまった時や、チャンバラで遊んでいた木がささくれていて手に棘が刺さった時の呪文と唱え手を翳すと、ジョセフさんの指先が一瞬で治り血が止まった。

 昨日までなら3日で治る程度の傷跡でも1時間ぐらい続けないと綺麗に治らなかったのに。もっとかかりそうな傷を一瞬で治すとは。加護の効果だとしたらものすごいものだ。


「かなりの熟練者クラスよりも力があります、間違いないようですね・・・」

「長く治癒に携わってる私でもこんなに早く綺麗には治せないわ、これが「日」なのね・・・」

「「日」は別格だと聞くけど本当だったのね・・・」


 後ろで控えていたため黙っていたアンナお婆ちゃんもあまりの事に驚いていた。


「そういえば15歳になったら王都に行かなきゃならなくなったのよね」

「えぇ・・・「日」と「雲」の方は、平民でも15歳で国立の貴族学院への入学が義務付けられています。申告された地から王都までの移動に係る程度の金が支給されましし、お子様が卒業するまで保護者の方に年金が支給されます。王都外から来られる方は学生寮の部屋も割り当てられます」

「えぇ・・・私の夫も「雲」の加護を持っていたから知っているわ」

「なるほどアニー様のご立派な加護は、旦那様の血なのですね」

「そうかもしれないわね」


 加護は遺伝するそうだけど、もっと上の加護になる事も遺伝だというのだろうか。


「「日」や「雲」の加護を持つ方は国の宝です。宮廷魔術師や大貴族のお抱え魔術師に引っ張りだこですし、冒険者となったとしても成功が約束されています。私もアニー様の受付が出来てとても幸せです」

「そうね・・・「日」の加護は、私が王都に居た時は国王陛下と、エメール公爵様だけだと聞いていたし、「雲」の加護も20人程度と聞いていたわ」

「最近、皇太子殿下と、公爵家のお嬢様が「日」の加護を得られました。公爵家のお嬢様本人は最初「雲」だとおっしゃったそうですが、加護を得て初めての魔術で隣領にも轟く様な巨大な雷を落としたそうで「雷公女」と呼ばれているようです。どう考えても「日」の加護を得ていなければおかしい威力だったため、聞き間違とされたそうです」


 凄い加護を持つ皇太子と公爵令嬢?何か嫌な予感がするな・・・。


「へぇ・・・どちらの御令嬢かしら?」

「マグダラ公爵家の御息女エカテリーナ様ですね」

「マグダラ公爵家・・・」


 マリア母さんの顔が曇っていた。オルク父さんが死んだ遠征で指揮を取ったのがマグダラ公爵家の嫡男だった。そいつはオルク父さんと同じぐらいの歳だったそうなのでエカテリーナ嬢が俺と同じ歳なら、その子の父親かもしれない。


「エカテリーナ様は皇太子殿下の婚約者でもありますので、エメロン王国の未来は明るいと話題になっています」

「そうだったんですか・・・田舎にいたので知りませんでした・・・」


 ヤハー様がエカテリーナ嬢から聞いたように、ここが乙女ゲームの世界だとすれば、僕が皇太子と恋愛関係になって、婚約者であるエカテリーナ嬢から嫌がらせ受けるとかそういうストーリーなんだろう。その時に、悪役令嬢のエカテリーナ嬢の父親が自身の父親の仇だという因縁がヒロインにあった方が物語として盛り上がりそうに思う。なんかきな臭い話な気がして背筋が寒く感じてしまった。


「学園で皇太子さまに見初められて、アニー様が側室になるかもしれませんね」

「それがこの子の幸せなら応援しますが・・・」


 僕は男なので皇太子と恋愛関係になるなんて真っ平御免だ。もしエカテリーナ嬢と話す機会があったら、皇太子には全く興味が無い事を話しておこうと思った。

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