第10話

 遠藤君のことは、夜になってからスマホのグループトークで話す約束をした。

「ちゃんと話すから。有紀も佳織も、その時間はちゃんと空けておいてよ?加藤君や斉木君にもちゃんと言っておいて。私との大事な話があるからって」

「わかった」

「もちろんよ。わぁ、夜が楽しみ」

 

 ふたりとも、なんだかわくわくしてる表情なんだけど……これって私の恋バナというより、遠藤君失恋の巻って話なんだけど。

それ、わかってるのかな??

「そういえば、有紀と佳織は今日のお昼ご飯は?彼氏と?」

二人とも彼氏ができたはいいけど、昨日と一昨日は私と一緒に食べたんだよね。

でも、そろそろ彼氏と……って言い出すかもしれない。

 

 「私は、里穂と食べるよ。加藤君には来週からお弁当作ってあげるって約束したから、来週からは彼と食べるかもだけど」

「私は、今日は斉木君と食べる約束しちゃった……有紀、抜け駆けして話聞いたりしないでよ?」

「わかってるわよ、約束する」

 

 お昼ご飯をすませたあと、私は図書室に向かった。

──有紀は加藤君が呼びに来て、彼とどこかに行ってしまった。

「こんにちは」

カウンターの永田さんに声をかける。

「あら、いらっしゃい。昨日はちゃんと送ってもらった?」

 

 「え?知って……ご存じだったんですか?」

「ご存知というか。昨日、安藤さんがここを出たあとに遠藤君が入ってきてね。なんか落ち込んでたから『どうしたの?』って聞いたの。そうしたら『今の子、クラスメイトなんです。もう暗いから、駅まで送ろうか?って言いかけたけど聞こえなかったみたいで』って」

 

 「は……はぁ」

「だから『多分教室にカバンでも取りに行ったんでしょ?昇降口で待ってたら?』って言ってあげたの。そうしたら『そうします!』って言ってダッシュで昇降口に向かって行ったのよね」

「そうだったんですか。はい、ちゃんと送ってもらいました」


 「だったら、よかったわ。ああ、そうだ。昨日、あなたに聞かれた本なんだけど、こういうのはどうかしら?」

永田さんがカウンターの下から一冊の本を取り出して、私の前に置いてくれた。

あまり厚くない本。

タイトルを見ると『好き』ということについて書いてあるようだった。

「物語……ではないんですね。絵本?」

 

 「そうね、絵本と言ってもいいかもしれない」

「ありがとうございます。貸出、お願いします」

「中身、確かめてみなくて大丈夫?」

「はい。遠藤君が言ってたんです。永田さんのお薦めの本にはハズレがないって。だから大丈夫です」

「信用、しているのね」

「信用……そうかも。嘘とか適当なこと言ってる姿、見たことないから。本、ありがとうございました」

 

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