第9話

 二時限目の休み時間を待って、私はトイレにむかった。

誰にも邪魔されずに一人だけでいられる場所。

個室に入って、ポケットからスマホを取り出す。

もともとマナーモードにしてあるし、入力音もオフにしてあるから誰にも気づかれない。

【ごめんね。行きがかり上とはいえ、遠藤君が告ってくれたこと、みんなの前で言ってしまったこと。反省してる】

【ほんとは直接謝りたかったけど……まずはメールで謝らせてね】

 

 二通、続けて送信した。

送信を終えてから、私はトイレを済ませたフリをして水を流して個室を出た。

「あれ?里穂。教室にいないと思って探してけど、ここにいたんだ。トイレ行くって言ってくれたらよかったのに」

有紀と佳織が鏡の前に立っていた。

 

 「ああ、うん。授業中にね、なんかモヤッと感があったからヤバイかもって、授業終わってソッコーで駆け込んだんだ」

「あ、もしかしてオンナノコ?」

「そう。でも、違ってたみたい」

「そっか。よかったね……よかったって言うのもなんか変だけど」

 

 「いや、『よかった』だよ。今日、予備を持ってきてなかったから、さ」

「ああ、確かに。それはヤバイかも」

「でしょ~」

……よかった、念のため水を流しておいて。

 

 「それにしても、さ。今日はなんか色々ビックリだったよね」

佳織が言った。

「みはるたちが無遠慮に『つきあってるの?』発言をするのには慣れてるけど、まさか授業でまで論争っての?続けるなんてね」

「うん、私も思った。あと、遠藤君のこと見直しちゃった」

「あ、私も私も。永田君なんか絶賛してたよね」

 

 ふたりとも妙に盛りあがってる。

いや、遠藤君は確かにクラスでもめだたない、おとなしい存在ではあったけど、見直したとまで言う?

「ねぇねぇ。ところでさ、いつ、告られたの?」

あ、やっぱりそれを聞きたかったから、私を探してたんだ。

 

 「やっぱり聞いちゃう?」

私は問い返した。

「そりゃ、聞きたいでしょ。大事な親友の恋バナなんだもん」

ふたりとも、目がキラキラとしている。

マンガ的にはっていうところなんだろうな。

 

 「というか、あったじゃない?私たちに隠してること」

佳織が笑いながら言う。

「遠藤君に告られたこと、隠してたじゃない?」

「いや、OKしたんだったら話してたけど。そうじゃないんだから、遠藤君に悪いじゃない?……結果、バレちゃったんだけど」

「あ~ね~。でも言わなかったら、みはるたちしつこかったかもだしね」

 

 「うん……言いながら、心の中で遠藤君ゴメンって思ってた。あとで、ちゃんと謝ろうとも思ってる」

「そうだね。でも、そのおかげでみんなの遠藤君を見る目が変わったのも事実なんだよね」

「だね。あんなにはっきり色々なこと言える人だとは思ってなかったもんね」

……みんな、いったいどんな目で遠藤君を見てたんだ??


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