第8話

 「ま、そういうことで。安易な行動は控えるように。あ、自分の胸の内で思うことまでは止める気はないし、こっそりと友人同士で話すことも……な。お前たちの楽しみまで制限するつもりはないよ。俺だって学生時代は好きなオンナとゲームのことしか話題はなかったし。ただ、むやみに言いふらすな。相手がどんな気持ちになるか考えてから行動しろよ」

先生がまとめたと同時に、一時限目が終わるチャイムが鳴った。

 

 教室を出た先生の足音が遠ざかったのを確認して、水元君が言った。

「まあ、正論だな。うまくまとめたよな、

ぐっちというのは森口先生のあだなで……森口だし、顔がそういう名前の芸能人に似ているから、らしい。

「それにしても、ひさびさにガチで考えてしまったわ」

「だなぁ」

 

 「そういえば小学校の頃だっけ?自分がされてイヤなことは、お友達にしてはいけません的なこと言われたの思い出した」

「あ、言われてみれば私もそんな覚えがある」

「小学校卒業して、まだ何年かしか経ってないのに、忘れちゃってるもんだな」

「なにトシヨリくさいこと、言ってるの」

教室に笑い声が満ちる。

 

 「それにしてもさ」

永田君が遠藤君に近寄り、ガバッと肩を組んだ。

「え?な、なに?」

遠藤君はびっくりしたような声を出している。

「俺、おまえのこと見なおしたわ」

「え?え?なにが?」

「俺、わりぃけどおまえのこと見くびってたんだわ。スポーツできるわけじゃないし、成績が抜群にいいわけでもない。いっつも本ばっか読んでる陰キャってな」

 

 「いや……実際、だし」

「い~や、おまえ、すげぇよ。さっき話の流れ上、言わないわけにいかなくて言っちゃったんだろうけど、安藤に告ったって?」

「え、あ……うん。玉砕、したけど」

「すっげぇ勇気、いっただろ?」

「あ……うん。心臓バクバクで、自分でなんて言ったかも、よく思い出せないんだ」

 

 「すげぇ。やっぱ遠藤は勇者だわ。なぁ、安藤のどこを好きになったんだ?」

「ごめ……永田君。答えたいのはやまやまなんだけど、その、みんなの前ではちょっと……」

「あ、悪ぃ。するなと言われたばっかなのにな。こんど、ちゃんと教えてくれよ?」

「うん」

あ……話の流れでつい言っちゃったけど。

やっぱり遠藤君に悪いこと、しちゃたんだよね。

あとで……まずはメールで謝ろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る