第6話

 「お前たちの議論、なかなか興味深かったぞ」

「先生、来たなら来たって教えて下さいよ」

水元君が文句を言う。

「チャイムにも気づかないほど集中してたってことじゃないか。いいことだ、と俺は思うぞ」

ふと、時計を見る。

いつもならHRが終わってる時間だ。

クラスの誰もチャイムにすら気づいてないなんて。

「ま、いいか。どうせ一時間目は学級活動だしな。とりあえず出席とるぞ」

 

 「……で、さっきはどうして白熱してたんだ?」

森口先生が私たちを見まわしながら言った。

「聞いてた限りで判断すると、恋愛がらみの話のようだったが」

「……僕が説明します」

水元君がそっと挙手をして、そう言った。

 

 「昨日、生徒会の仕事してたら廊下を安藤さんがひとりで歩いていたんです。もう外は暗かったから、駅まで送ったがいいかもって思って仕事を中断して昇降口に追いかけたんです。そうしたら、さっき先生も聞かれていたと思うんですが、もう遠藤君が送ってくれてるところでした。だから戻って仕事を終わらせて、今朝になってお礼を言ったんです。結構急ぎの仕事だったので、僕的にすごく助かったから。そしたら、お礼の言葉を言う前に、渡辺さんと松本さんが『つきあってるの?』ってはやしたてだして」

 

 「それで?」

「つきあってはいないということを、安藤さんも遠藤君も主張してたんです。そのうちになぜか話が違う向きに流れちゃって……同性同士のカップルを安藤さんが擁護するような発言したら、渡辺さんが『安藤さんは新川さんのことよく見ているから、女子のことが好きなんじゃないか』って言い出したんです」

 

 「そこで永田があの発言をしたわけか」

「はい」

先生はぽりぽりと頭をかきながら、なにか考えているようだった。

「──好いたの好かれたの、ね。若いねぇ……と、茶化すのはこれくらいにして。この時間はそれをテーマにするのも悪くないな……と、その前に」

 

 「渡辺と松本。二人に聞きたいんだが、どうして『つきあってる』と囃したてたりしたんだ?」

ふたりは答えない。

「いや、どうしてそう思ったかをまずは聞かせてほしいんだ」

「あ、の。遠藤君と里……安藤さんが二人で一緒に帰ってて。それも二度目で。学校内でも仲良さそうにしゃべっていたから……です」

みはるが答える。

 

 「それから?」

「それだけ……です」

「まじかぁ……お前ら、なぁ。で、遠藤と安藤はなんと答えたんだ?」

「ぼくは……」

遠藤君が話しだしたので、私は彼が話すのを待つことにした。

「ぼくは、『つきあってなんかいないよ。暗くて危ないと思ったし、どうせ同じ駅だから一緒に帰っただけだよ。それにぼくとだなんて、安藤さんに失礼だよ』みたいなことを言ったと思……言いました」

「そうか」

先生はひとこと言っただけで、私を指名した。

 




 

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