第2話

 翌日、教室に入ろうとした私の腕を突然誰かが掴んだ。

「里穂、ちょっと来て!」

「え?佳織?なに?どうしたの?……ってカバンくらい置かせてよ」

「いいから、とにかくこっち来て」

 

 怒ったような佳織の口調に驚きながら、私は引っ張られるままに階段を上って行った。

屋上の手前──階段を上がりきったところで、佳織はやっと引っ張るのをやめた。

「なんなのよ?いったい。朝からどうしたっていうの?」

「里穂……正直に答えて」

「なにを?」

 

 「私に……私と有紀に隠してること、あるんじゃないの?」

隠していること……ある。

有紀への密かな恋心。

でも、言えるわけない。

「隠してることなんて、あるわけないじゃない」

私は笑いながら答えた。

「そっか。そうよね~」

いつもの佳織だったら、そう言って笑い返してくれる……はずだった。

でも、今日は笑ってくれない。

 

 「いったいどうしたっていうの?隠してることって?」

「ほんっとうに、隠してること、ないのね?」

「あたりまえじゃない。ねえ、教室行こうよ。寒いじゃない」

「……じゃあ、答えて」

「だから、何を?隠してることはないって答えたじゃない」

「じゃあ聞くけど。──?」

 

 ……イッタイ イツカラ エンドウクント ツキアッテルノ?

 

 「はぁぁぁ?なにそれ。なんでそんなことになってるの?」

私は思いもよらなかった言葉を佳織から聞かされて、思わず大きな声を出してしまった。

「違う……の?」

「当たり前じゃない。そんなデマ、誰が言ってるの?」

私の頭の中が、怒りの感情でいっぱいになった。

 

 相手が遠藤君だから、ではない。

相手が誰であっても、勝手に『つきあっている』と言われていることに腹が立ったのだ。

「昨日水元君が、駅への道を里穂と遠藤君が歩いてるのを見たんだって。それで遠藤君に『昨日、安藤さんを送ってあげてたんだ』って話しかけて。そうしたらみはると倫子が……」

 

 「つきあってるんじゃないの~ってはやしたてたっていうわけね」

佳織はこっくりとうなずいた。

あいつら、飽きもしないで……。

「『何日か前にも一緒に帰ってたの見かけたよね』とか『昨日は踊り場のとこでなにか話してたみたいよ』とか言っててね。遠藤君は『違うって』とか『安藤さんに失礼だろ』って言ってるんだけど、余計に……」

 

 余計に囃したてるってわけか。

困ってる遠藤君の顔が目に浮かぶわ。

「教えてくれてありがとう……そろそろ教室に行こう?」

「うん。ほんっとのほんとに、つきあってないのね?」

「あたりまえでしょ。もし誰かとつきあうことになったら、まず最初に有紀と佳織に伝えるから」

──当分は、そんな機会ないけどね、と心の中でつけくわえた。

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